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カメラのシャッタースピードの速い、遅いについて、それからシャッターというものについてもちょっと語ってみる。

 絞りの次に考えなくちゃいけないのがシャッタースピード。これも写真の仕上がりに大きな影響を与える要素のひとつだ。

 シャッタースピードは、「スピード」とはいうものの、なにかの速さをあらわしているわけではない。そのわりに、数字の大きい小さいを「速い」「遅い」という。

 厳密にいうと、シャッタースピードは基本的に分数で表示するもので、「1/500」とか「1/2000」とかのように書く。単位は基本的には「秒」だ。面倒くさいので分母だけを取り出して「500」「2000」だけにしてしまうことも多い。実際、カメラの表示では、「1/」の部分は省略してしまっているケースが少なくない。その場合は「秒」を抜かして「ごひゃく」「にせん」と読むのが習わしのようになっている。

 分数の分母だけを見ているせいもあって、ぱっと見、「500」よりも「2000」のほうが大きく思えるかもしれないが、本当は「1/500」と「1/2000」なので、「1/500」のほうが大きい。というところにはご注意いただきたい。


 さて、シャッタースピードについて書く前に、まず、シャッターのことを説明しておきたい。カメラで写真を撮ることを「シャッターを切る」などというが、その「シャッター」のことだ。

 シャッターは、カメラに組み込まれている機構のひとつで(厳密には、この表現は正しくないが、ここではそういうことにしておく)、フィルムや撮像センサーにほどよい量の光を当てるためのものである。

 ものすごくおおざっぱにいうと、シャッターは、光をさえぎるフタで、カメラのシャッターボタンを押すとフタが開いてフィルムや撮像センサーに光が当たり、ほどほどの時間が経つと自動的にフタが閉じて光をさえぎる。そういう役割を持っている。

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↑一眼レフカメラのレンズを外して、ミラーをポップアップさせたところ。四角い穴の奥に見えているのがシャッター。その向こうにある撮像センサーに光が当たらないようにさえぎる役目を持っている。

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↑こちらはミラーレスカメラ。普段はモニターやファインダーに映像を表示しないといけないので、シャッターはあるけど開きっぱなし。写真を撮るときだけ閉じてまた開くようになっている。

 カメラの場合、フィルムのような感光材料(光に対する感受性を持った素材)や、フォトダイオードの光起電力(光を電気に変換する性質)を利用した撮像センサーに光を当てることを「露光」といい、この露光の開始と終了を担当する機構がシャッターだ。

 つまり、シャッターが開く=フィルムや撮像センサーに光が当たる=露光開始で、シャッターが閉じる=フィルムや撮像センサーに光が当たらなくなる=露光終了となる。

 で、この、シャッターが開いてから閉じるまでの時間。これを日本語で「露光時間」といい(「露出時間」ともいう)、英語では「シャッタースピード」という。シャッターとスピードの頭文字をとって「SS」と略すこともある。和洋折衷で「シャッター速度」ともいう。


 さっきも書いたが、シャッタースピードの単位は「秒」だ。ときどき「分」や「時(時間)」を使うこともあるが、ほとんどは「秒」だけですんでしまう。一般的には、1秒よりも長いときはそのままの秒数で、1秒よりも短いときは分数で「1/500秒」とか「1/4秒」とかの形であらわすのが決まりになっている。

 シャッタースピードを短くする(シャッターが開いている時間を短くする)ことを「速くする」「上げる」「高くする」などといい、シャッタースピードを長くする(シャッターが開いている時間を長くする)ことを「遅くする」「下げる」「低くする」などという。また、比較的速いシャッタースピードを「高速シャッター」、遅いシャッタースピードを「低速シャッター」という。

 シャッタースピードも、絞りと同じように、「段」を使って高低をあらわす。基準は「1秒」で、そこから速いほうに、1秒、1/2秒、1/4秒、1/8秒というふうに、露光時間が半分ずつに減っていく。遅いほうは、2秒、4秒、8秒というふうに、2倍ずつ増えていく。

 8秒、4秒、2秒、1秒、1/2秒、1/4秒、1/8秒
 という並びの、あるシャッタースピードを、ひとつ右のシャッタースピードに変えること。つまり、露光時間を半分に減らすことを「1段速くする」「1段上げる」「1段高くする」という。

 反対に、ひとつ左のシャッタースピードに変えること。つまり、露光時間を2倍に増やすことを「1段遅くする」「1段下げる」「1段低くする」という。

 上に書いた数字の並びの両側ももちろんあるが、ここからは、アバウトに丸めた数字が使われる(ただし、それは表記上の話であって、実際には、きっちり半分なり2倍なりのシャッタースピードに設定される)。

「1/8秒」の次は、本来なら「1/16秒」になるところを」1/15秒」と表記し、そこからまた半分ずつの「1/30秒」(正規の数字は「1/32秒」)、「1/60秒」(同じく「1/64秒」)になって、その次が「1/125秒」になる。これは正規のシャッタースピードの「1/128秒」に近いからだ。で、その次が「1/250秒」「1/500秒」「1/1000秒」「1/2000秒」「1/4000秒」「1/8000秒」とつづく。

 遅いほうも、「8秒」の次は「15秒」(正規の数字は「16秒」)、「30秒」「60秒」というふうに、やはりアバウトに丸めながら、分かりやすい数字で表記することになっている。

 ほとんどのカメラは、遅いほうのシャッタースピードは「30秒」までで、たまに「60秒」までのカメラがあって、まれに「32秒」だったり「64秒」のカメラもあるといった具合。

 速いほうのシャッタースピードは、カメラによって差があって、めいっぱい速いシャッタースピードを「シャッター最高速」という。わりとお高めのカメラの最高速は「1/8000秒」だが、お手ごろ価格のカメラでは「1/4000秒」というパターンが多い。

 シャッター最高速を速くするには、よりパワーの大きな駆動源(シャッターを動かすには、バネやモーターが使われる)が必要で、使用する部品の強度や耐久性も上げなくてはならない関係で、どうしてもコストがかさんでしまう。それに、大きく重くもなりやすい。そういうわけで、エントリークラスのカメラの多くは、最高速が1/4000秒までになっているわけだ。

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↑こちらのカメラは、わりとお安いタイプなので、シャッター最高速は1/4000秒。

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↑こちらは少し上のクラスのミラーレスカメラで、最高速が1/8000秒までとなっている。

 お持ちのカメラでシャッタースピードの数字を見たいなら、電源をオンにして露出モードを「S」または「Tv」に合わせて、電子ダイヤルを回せばいい。ちなみに、「S」は「シャッター」の略、「Tv」は「タイム・バリュー」の略であって、テレビではない。ついでに書くと、「A」は「アパーチャー(=絞り)」の略、「Av」は「アパーチャー・バリュー」の略で、「AV」と書く場合は「オーディオ・ビデオ(音声・映像)」をさすことが多い。いずれにしても、アダルトなんちゃらではない。間違わないように。

 電子ダイヤルを回すと、絞りと同じように、3回に1回は、さっき書いた数字のどれかがあらわれるはずだ(一部のフィルムカメラでは2回に1回の場合もある)。

 というくだりは絞りの話と同じで、というのは、シャッタースピードの「1段」と、絞りの「1段」は、露出(ここでは写真の明るさのこと)に与える影響が同じだからだ。

 たとえば、絞りがF8、シャッタースピードが1/250秒でほどよい明るさに写る条件のときに、絞りを1段開いてF5.6にセットすると、レンズをとおる光の量が2倍になる。一方、シャッタースピードを1段速くして1/500秒にすると、シャッターが開いている時間が半分になるので、トータルでフィルムや撮像センサーに当たる光の量は変化しない。そのため、同じ明るさで写ることになる。

 単純化すると、絞りを1段開けて、シャッタースピードを1段速くすると同じ露出になる。ということだ。これは、絞りを2段絞りたければ、その分、シャッタースピードを2段遅くすればいいのですよ、ということでもある。

 F8、1/250秒で撮った写真の明るさと、F5.6、1/500秒で撮った写真の明るさは同じだし、F11、1/125秒で撮った写真の明るさも、F16、1/60秒で撮った写真の明るさも同じ。

 こんなふうに、絞りとシャッタースピードを変えても仕上がりの写真の明るさが変わらないように、絞りの「段」と、シャッタースピードの「段」を同じにしてある。そうすることで、絞りとシャッタースピードの組み合わせを自由に選べるようにしてあるおかげで、絞りを開けて背景をぼかしたいとか、その逆に、うんと絞り込んで手前から背景までピントが合った(厳密には、合っているように見えるだけだが)写真を撮りたいとか、そういう気持ちに応えられるようにできている。

 それが、カメラという道具の機能なのだ。

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↑絞りF1.4、シャッタースピードが125秒でこの明るさになる条件。

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↑絞りをF2にして、シャッタースピードを1/60秒にすると同じ明るさに写る。

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↑F2.8なら1/30秒。

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↑F4で1/15秒。全部同じ明るさに写る。

 一応、シャッタースピードの数字を、もう一度並べておく。遅いほうから、
 30、15、8、4、2、1、1/2、1/4、1/8、1/15、1/30、1/60、1/125、1/250、1/500、1/1000、1/2000、1/4000、1/8000
 となる。これは1段刻みの数字。今のカメラは基本的に1/3段刻みでシャッタースピードを設定できるので、
 30、25、20、15、13、10、8、6、5、4、3.2、2.5、2、1.6、1.3、1、1/1.3(0.8)、1/1.6(0.6)、1/2(0.5)、1/2.5(0.4)、1/3(0.3)、1/4、1/5、1/6、1/8、1/10、1/13、1/15、1/20、1/25、1/30、1/40、1/50、1/60、1/80、1/100、1/125、1/160、1/200、1/250、1/320、1/400、1/500、1/640、1/800、1/1000、1/1250、1/1600、1/2000、1/2500、1/3200、1/4000、1/5000、1/6400、1/8000
 となる。キヤノンのカメラは1/4秒より遅いシャッタースピードを小数点表記(分数じゃないヤツ)にしているので、それを( )に入れてある。

 どの数字からでも、ふたつおきに拾っていくと、2倍または半分(アバウトに丸められているので「だいたい」である)になっているのがわかると思う。このあたりは、絞りの数字よりも素直でいい。


 ここらでカメラのシャッターについても触れておこう。

 カメラのシャッターの形式はいろいろあるが、現在はおもに「フォーカルプレーンシャッター」と「レンズシャッター」の2種類が使われる。

 フォーカルプレーンシャッターは、「focal(焦点の)」「plain(面)」シャッターのことで、「焦点面」とは、ピントを合わせる面、つまりフィルムや撮像センサーをさす。実際に、焦点面(「撮像面」のほうが、今だととおりがよいと思う)にシャッターを設置することは物理的に不可能なので、フィルムや撮像センサーの直前(レンズに近いほう)に設置する。

 大ざっぱな構造としては、2枚の幕(最近のは複数の羽根状のパーツを組み合わせたものを使う)を順次動かして露光を行なう仕組みで、1枚目の幕(「先幕」という)が開いて露光がはじまり、2枚目の幕(「後幕」という)が閉じて露光終了となる。

 イメージとしては、客席の側から照明されるステージを思い浮かべてもらうといい。最初、ステージは1枚ものの幕で隠されていて、光が当たらない状態になっている。開幕時間になると、幕が右から左に向かって開いていき、ステージに照明の光が当たる。そして、芝居が終わると、今度は右側のそでに隠れていた2枚目の幕が、右から左に向かって閉じていく。

 フォーカルプレーンシャッターの構造はこんな感じで、シャッタースピードは、1枚目の開く幕と2枚目の閉じる幕のそれぞれが走りはじめるタイミングの違い、つまり、時間差であらわされる。1枚目の幕が動きはじめてから10秒後に2枚目の幕が動きはじめた場合、ステージ上に立っている登場人物には、1枚目の幕の端が目の前を通過した時点から光が当たりはじめ、その10秒後に2枚目の幕の端が目の前を通過した時点で光がさえぎられる。登場人物に光が当たっている時間、つまり、シャッタースピードは10秒ということになるわけだ。

 では、シャッタースピードがもっと速いときはどうなるか。たとえば、1秒の場合。動作としてはさっきと同じで、1枚目の幕が動きはじめてから2枚目の幕が動きはじめるまでの時間が1秒になる。

 幕が動くスピードが、ステージの右端から左端まで3秒かかるとすると、1枚目の幕が動きはじめた1秒後に、幕の端はステージの右から3分の1のところにいることになる。そのタイミングで2枚目の幕が動きだす。2枚の幕は1秒分の差(ステージの幅の3分の1の間隔)を保って移動する。これがシャッタースピードが1秒の状態。

 今度はシャッタースピードが1/2秒(0.5秒)の状態を考えてみる。話としては簡単だ。1枚目の幕が動きはじめてから0.5秒後に2枚目の幕が動きはじめるのだ。幕と幕の間隔は、1秒のときの半分(ステージの幅の6分の1)になる。シャッタースピードが1/4秒なら、幕と幕の間隔はさらにその半分になる。

 これを客席側から眺めていると、1枚目の幕と2枚目の幕が作るスリット(切れ目、隙間)が、ステージの右から左に移動していくように見えるはずだ。シャッタースピードが遅いときは、スリットの幅が広く、シャッタースピードが速いときは、スリットの幅が狭くなる。

 そんなふうな見た目から、フォーカルプレーンシャッターを「スリットシャッター」と呼ぶこともある。

 この方式のいいところは、幕が動くスピードよりも速いシャッタースピードが使えることだ。幕がステージの端から端まで動くのに3秒かかったとしても、幕の間隔=スリットを狭くしてやることで、シャッタースピードを速くできる。理屈上では、スリットの幅を狭くすることで、1/16000秒や1/32000秒といったすごく速いシャッタースピードも可能になる。

 が、2枚の幕の動きが完全に同じでないと、光の当たり方にムラが生じてしまう。たとえば、1枚目の幕がスムーズに通りぬけた場所を、2枚目の幕がなにかに引っかかってしまうと、その部分だけ光が当たる時間が長くなる。そうすると、そこだけシャッタースピードが遅くなるので、その分、明るく仕上がることになる。

 そういうムラの出具合が、スリットの幅が狭くなるほどひどくなりやすいのだ。そういうことがあるため、正確なシャッタースピードが得られる範囲を制限している。その限界が、1/4000秒だったり1/8000秒だったりするわけだ。


 一方のレンズシャッターは、レンズの中に組み込まれる。フォーカルプレーンシャッターが、フィルムや撮像センサーの手前に置かれるタイプであるため、画面サイズよりも大きなメカが必要になるのに対して、レンズシャッターは比較的小さなスペースに押し込むことができるので、コンパクトに設計できるのがメリットだ。

 フォーカルプレーンシャッターが採用されているのは、一眼レフやミラーレスカメラがおもで、6×4.5cm判や6×6cm判といった、いわゆる中判カメラの一部にも使われている。それより画面サイズの大きな6×7cm判や、大判カメラと呼ばれる4×5inch判などにはレンズシャッターが使われる。

 なにしろ、フォーカルプレーンシャッターは、幕の部分を画面サイズと同じ大きさにしないといけない。必然的に、メカ全体はそれより大きくなってしまう。画面サイズが大きくなればなるほど、シャッターのメカのサイズも巨大になってしまう。そのため、画面サイズの大きなカメラにはフォーカルプレーンシャッターは不向きになるわけだ。

 反対に、カメラのサイズを小さくしたい場合にも、レンズシャッターのほうが使いやすい。

 レンズシャッターは、レンズの中に組み込めるので、フォーカルプレーンシャッターよりも小さくおさめられる。レンズ交換式の一眼レフやミラーレスカメラの場合は、レンズ1本1本にいちいちシャッターを組み込むのも不経済なので、フォーカルプレーンシャッターのほうがトータルでお得になる。それに対して、コンパクトカメラの場合はレンズが固定式なのでシャッターもひとつでいい。ということもあって、メカのサイズをより抑えられるレンズシャッターが好まれるわけだ。

 レンズシャッターは、通常、複数枚の金属製の羽根で構成された、ぱっと見は絞りにも似た機構で(絞りと違って完全に閉じることができる)、中心部から外に開いた羽根が外側で折り返して閉じるという仕組みになっている。

 中心部から開いて、中心部に向かって閉じるところから「セントラルシャッター」といったり、羽根で構成されているところから「リーフシャッター」などともいう。

 フォーカルプレーンシャッターがステージの幕なら、レンズシャッターは照明側についたものだと考えれば近い。わかりやすくするために単純化すると、照明器具の発光部の前に、2枚の幕をかけておおった状態で、2枚の幕が中央から左右に開くようになっている。

 2枚の幕が左右に開くとステージに光が当たり、芝居が終わると開いた幕が閉じる。そんな感じである。

 デジタルカメラの場合は少し複雑で、撮影可能な状態ではモニターやファインダーに映像を表示しないといけないので、シャッターは開いた状態になっている。シャッターボタンを押すと、シャッターが閉じて、それから再度開いて露光開始となり、シャッターが閉じて露光終了。またシャッターが開いて撮影可能な状態に復帰する。という、少しややこしい動作となる。

 シャッタースピードは、おおざっぱには、幕が開きはじめてステージに光が当たりはじめてから、幕が閉じきってステージに光が当たらなくなるまでの時間ということになる。厳密には、絞りによって、実際にステージに当たる光の量は微妙に変化してしまうのだが、そのへんは細かくて、かつややこしい問題なので、ここでは触れないことにする。

 レンズシャッターの欠点は、シャッターの羽根が往復運動をしないといけないところで、そのために、あまり高速なシャッタースピードが得られない点だ。

 フォーカルプレーンシャッターは、先幕も後幕も一方向に動くだけなので、動作スピードを上げることはそれほど難しくないし(楽勝というわけではないが)、スリットの幅を狭くするだけでシャッタースピードを上げられる。それに対して、レンズシャッターでは羽根を往復させないといけない。中心部から外に向かって開いていく羽根を、開ききったところでストップさせて反対方向に動かさないといけないのだ。

 その分、どうしても動作に時間がかかってしまう。羽根の動きを速くすると、パワーがたくさんいることになるのでメカを頑丈にしないといけなくなって、サイズが大きくなる。それに、動作の前半で外に向かって開く動きを、後半は内に向かって閉じるように方向転換しないといけない。この方向転換は、動作スピードが速いほど大変になる。

 ということもあって、高速シャッターを使いたいカメラにはフォーカルプレーンシャッターを、高速シャッターよりもコンパクト化を重視するカメラにはレンズシャッターを、と使い分けているのが現状だ。

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