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レンズの明るい、暗いについて、わりと大まじめに語ってみた。

 よく「明るいレンズ」とか「暗いレンズ」とかいうけれど、「明るい」レンズで撮ったら明るく写るのか、というと、別にそんなことはない。実際、「明るい」レンズと「暗い」レンズで撮り比べてみても、大きな違いは出ない。というのは、レンズの「明るい」「暗い」と、写真の仕上がりの「明るい」「暗い」は別物だからである。

 写真やカメラが好きな人に聞くと、こんなふうに答える。
「明るいレンズっていうのは、F値が小さいレンズのことだよ」
「じゃあ、F値って?」
「レンズの明るさの目安になる数字のことさ」
 という感じ。ますます意味がわからない。

 意味がわからないままほうっておくのも気持ちが悪いので、「明るい」レンズというのは、なにが、どう明るいのか、というのを、なるべく難しくならないように注意しつつ、知っている範囲の知識と言葉で語ってみたい。

 新しくカメラを手に入れた人や、すでに持ってはいるが、それをもっと理解したいと考えている人のために、である。

 なお、一眼レフやミラーレスカメラをお持ちの方は、お手もとにご用意いただけると話が早いので、そのようにお願いしたい。


 さて、レンズをカメラから取り外して、前側(カメラに付けたときに、カメラから遠い側を「前」、近い側を「後」というのが決まりである)から見ると、レンズをとおして向こう側が見える丸い部分があるのがわかると思う。明るい壁とかに向けて見るとわかりやすい。

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↑レンズを前から見たところ。真ん中の明るい部分が「光をとおす窓」。


 この丸い部分が光をとおす窓なわけで、この窓の部分が大きければ大きいほど、たくさんの光をとおすことができる。つまり、レンズの中をとおる光の量が多くなるわけだ。その分、ファインダーにたくさんの光が送れるし(これは一眼レフの場合だけ)、撮像センサーやフィルムにもたくさんの光が当たることになる。そうすると、写る像が明るくなる。

 昔のカメラはシャッタースピードを自分で決めなくちゃいけなかったし、今のカメラにもマニュアル露出という機能があるが、その状態で、なにも手を加えずに撮り比べれば、窓の大きなレンズのほうが、撮れる写真は明るく写る。これが「明るい」ということである。反対に、窓の小さなレンズは、写る像も暗くなるので、写る写真も暗くなる。だから「暗い」レンズということになる。

 ただし、今のカメラは露出(おおざっぱには、写真の明るさのことである)を自動で調節する機能があって、明るいレンズ(または暗いレンズ)をつけると、ほかの条件を変化させて同じ明るさに写るようにしてくれる。だから、最初に書いたように、明るいレンズをつけても、仕上がる写真の明るさは変わらないのである。


 ここから少しお勉強の時間である。「レンズの明るさの目安」である「F値」について説明するのだが、そのためには、どうしても数字の話をしないといけないからだ。算数が苦手な方にはもうしわけないが、しばらく我慢してお付き合いいただきたい。

 F値はレンズのスペックをあらわす数字のひとつで、「有効口径」と「焦点距離」で決まる。有効口径というのは、レンズの中の光をとおす窓の大きさのことで、窓の円の直径であらわす。

 一方の焦点距離は、測れないぐらいの遠さのものにピントを合わせたときの、レンズの中心からフィルムや撮像センサー(CMOSとかCCDのこと)までの長さのことで、これもレンズのスペックをあらわす数字のひとつである。おおざっぱには、遠くのものが大きく写せる「望遠」や広い範囲が写せる「広角」の度合いを示す数字で、とりあえずは、数字が大きいほど望遠、小さいほど広角、ぐらいのことを知っておいていただければいいだろう。

 F値は、焦点距離を有効口径で割ることで求めることができる。つまり、「焦点距離÷有効口径=F値」である。

 たとえば、焦点距離が50mm、有効口径が25mmのレンズであれば、「50÷25=2」となるので、F値は「2」である。焦点距離が50mmで有効口径が35mmなら、「50÷35=1.42857……」となって、約「1.4」というふうになる。スペックとして書くときは、「F2」「F1.4」などになる。

 さっき書いたように、有効口径が大きくなると、レンズをとおる光の量が増えるわけだから、有効口径が25mmのレンズより、有効口径が35mmのレンズのほうが「明るい」ことになる。すなわち、「F2のレンズよりF1.4のレンズのほうが明るい」のである。こんなふうに、レンズの明るさを数値化して、比較しやすくするのが「F値」というわけだ。ゆえに、「F値が小さいレンズが明るいレンズ」なのである。

 ここで注目してもらいたいのは、有効口径は、焦点距離が同じ場合は、「大きさ=明るさ」となるが、焦点距離が違う場合は単純な比較はできなくなる、ということ。それに対して、F値は、焦点距離にかかわらず、数字が小さいほど「明るい」である点だ。

 たとえば、焦点距離が50mmで有効口径が25mmのレンズと、焦点距離が100mmで有効口径が25mmのレンズを比べると、有効口径は同じなので、明るさも同じ、と考えてしまうかもしれない。

 が、それぞれのF値を計算してみると、前者は「50÷25=2」であるのに対し、後者は「100÷25=4」だ。「F2」対「F4」であって、つまりは「F2」のほうが「明るい」である。

 どうしてこういうことになるのかというと、焦点距離が長いほど(数字が大きいほど)、レンズの中の光をとおす窓が遠くなるからだ。

 イメージとしては、「窓」=「光源(電球やLEDみたいな照明器具)」だと考えるのがわかりやすいと思う。

 焦点距離は、窓からフィルムなり撮像センサーまでの長さなので、焦点距離が長いほど、窓=光源は遠く離れることになる。

 お手持ちのスマートフォンなり携帯電話のLEDを点灯させて、手近な壁を照らしてみていただきたい。LEDを壁に近づけると、光が当たっている部分は明るく照らされる。つまり、焦点距離が短いほど明るくなる。逆に、LEDを壁から遠ざけると、光は徐々に薄くなり、最後は部屋の明るさに同化して判別できなくなってしまう。つまり、焦点距離が長いほど暗くなる、ということである。

 F値の便利なところは、焦点距離の違うレンズでも、その明るさを比べられる点で、だからこそ、「レンズの明るさの目安」たりうるのである。


 F値と同様、レンズの明るさを示すことのできる概念で、「口径比」というものがある。これは「有効口径と焦点距離の比」であり、「有効口径÷焦点距離」の式であらわされる。F値の逆数(分数の分子と分母をひっくり返したもののことだ)でもある。

 というより、もともとは、レンズの明るさは口径比によってあらわすものだったのだが、焦点距離よりも有効口径が大きくなることはほとんどなく、口径比はつねに「1」より小さくなってしまうため、見やすくする目的で、口径比の逆数をF値として使用するのが通例となっているだけである。

 人によっては、レンズの外側に「50mm 1:1.4」というふうに印刷されているのに見覚えがあるかもしれない。あれは、F値を変わった書き方で表現しているのではなく、口径比をあらわしている。「1:1.4」とは「1対1.4」であり、「1÷1.4=0.71429……」なのだ。

 F値が、数字が小さいほうが明るいという、倒錯的な概念であるのに対し、口径比は、数字が大きいほど明るいという素直な性質を持つ。概念としてはつかみやすいのだが、いかんせん、F値のほうが知名度は高い。そういう状態である。

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↑レンズの外側にプリントされている「1:2.8」という表示が「口径比」をあらわしている。


 さて、ここまでをざっとまとめておく。

・レンズの明るさは「有効口径」によって決まり、これが大きいほど「明るい」レンズである。
・レンズの明るさは「焦点距離」にも左右され、これが長い(数字が大きい)ほど「暗い」レンズである。
・「焦点距離」を「有効口径」で割ったものを「F値」といい、これが小さいほど「明るい」レンズである。
・「焦点距離」が違っても、「F値」が同じであれば、明るさは同じである。
 といったところである。

 なお、F値は「絞り値」「絞り数値」「F数」「Fナンバー」などともいう。

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↑この2本のレンズ、有効口径は2倍違うが、焦点距離は左が60mmで右が30mmと2倍違う。ので、どちらも同じF2.8。つまり、明るさが同じなのだ。


 では、次はF値と明るさの関係について考えてみる。F値の数字の違いが、明るさに対してどの程度影響するのかを知っておかないと、「F2」に対して「F1.4」がどれだけ明るいのかを判定できないからだ。

 たとえば、焦点距離が50mmで、有効口径が25mmのレンズと35mmのレンズがあるとする。明るいのは有効口径が大きな35mmのほうというのはすぐにわかる。焦点距離が同じなので、有効口径が大きいほうが明るいレンズであるのは瞭然だ。

 問題は、この有効口径の10mmの違いが、どの程度の差なのか、である。それぞれのF値を計算すると、有効口径25mmのレンズは「50÷25=2」だから「F2」、有効口径35mmのレンズは「50÷35=1.42857……」だから、だいたいで「F1.4」。その差は「0.6」。この「0.6」が、明るさの違いをあらわすのかというと、これが違う。そうではない。

 ここからは、少し計算が難しくなる。「2乗」というのと「ルート(=平方根)」というのがからんでくるからだ。見たとたんに目が泳ぎ出す算数嫌いも多そうだが、辛抱してお付き合いいただきたい。

 有効口径は窓の直径だから「長さ」だが、窓をとおる光の量は、窓の「広さ(=面積)」に左右される。話を簡単にするために、窓の形を正方形にしよう。

 部屋に1m四方の窓がある。と考えていただきたい。光が入る窓はそのひとつだけしかない。そういう部屋である。

 この窓を2倍のサイズにする。幅を2m、高さも2mにする。もとの窓が、横に2枚、縦に2枚並ぶサイズである。ということは、新しい窓の広さは「2×2=4」。つまり、もとの「4倍」になる。窓から入ってくる光の量も、もとの「4倍」になるわけだ。

 同じように、窓のサイズを3倍にすると、横が3倍で縦が3倍になるから「3×3=9」で「9倍」。窓のサイズを4倍にすれば「4×4=16」で「16倍」になる(4m四方の窓だなんて、かなり現実味の薄い部屋だといわざるをえないが、まあそこはご勘弁願いたい)。

「2×2」「3×3」「4×4」のように、同じ数字を掛け合わせることを「2乗する」という。「窓のサイズ(横と縦の長さ)の2乗」=「窓の広さ(=面積)」=「窓から入る光の量」となる。あいだをはしょって書けば、「窓のサイズの2乗」=「光の量」ということだ。

 では、光の量を2倍にするには、窓のサイズをもとの何倍にすればいいだろうか。というのは数字が苦手な人には難しいかもしれないので、面倒な計算は省いてだいたいの答えだけ書くと、約「1.4倍」である。正確には、「ルート2(=2の平方根)」倍なのだが、これは2乗すると2になる数字のことで、ほんとうは「1.41421356237309……」と無限につづく辛気くさいヤツである。いちいち細かいところまで付き合っていたら大変なので、おおざっぱに「1.4」ですませることにする。そのほうが計算が早いからだ。

 窓のサイズをもとの1.4倍にすると、部屋に入る光の量は2倍になる。さらに1.4倍すると光の量はさらに2倍(1.4×1.4=1.96だが、本来は「ルート2」であるので、答えは「2」となる)、もとの4倍である。そのまた1.4倍すると、窓のサイズは「2×1.4=2.8」倍で、光の量はもとの8倍になる。

 もとの窓のサイズが1m四方。次が1.4倍の「1.4m四方」。その1.4倍が「2m四方」。そのまた1.4倍が「2.8m四方」というふうになる。

 並べてみると、

 1、1.4、2、2.8

 となる。つづきも計算してみよう。2.8の1.4倍が「4」、その1.4倍は「5.6」、さらに「8」とつづく。「8」の次は「11.2」になるが、適当に丸めて「11」にしてしまう。それから「16」「22」とつづく。つなげると、

 1、1.4、2、2.8、4、5.6、8、11、16、22

 ちょっと古めのレンズを持っている人なら、もう気付いたかもしれない。この数字の並びは、実はレンズの絞りリングに刻まれている数字の並びと同じなのだ(絞りリング付きのレンズを持っていない人向けの説明は少しあとでやる)。

 それともうひとつ。数字をひとつ飛ばしに拾っていくと、右側にある数字が、左側にある数字の2倍になっていることも覚えておくといい。数字の並びをど忘れしてしまったときに、思い出す役に立つからだ。

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↑小さいほうの数字が少し違うけれど、それ以外の数字は、さっき書いたのと同じだ。


 話を有効口径とF値にもどす。F値は焦点距離を有効口径で割った数字である(覚えてるかな?)。有効口径はレンズの中の光をとおす窓の直径だから、上の話でいうところの「窓のサイズ」にあたる。

 窓のサイズを1.4倍にすると、部屋に入る光の量はもとの2倍になる。この文の、「窓のサイズ」は「有効口径」に、「部屋に入る光の量」は「レンズの中の窓をとおる光の量」に置き換えることができるので、「有効口径を1.4倍にすると、レンズの中の窓をとおる光の量は2倍になる」という関係が成り立つことになる。

 そして、F値は「焦点距離÷有効口径」なので、有効口径が1.4倍になると、F値は1.4分の1になる。ということは、「F値が1.4分の1になると、レンズの中の窓をとおる光の量は2倍になる」ということである。


 ところで、レンズには「絞り」という機構が組み込まれていて、これを使ってレンズをとおる光の量を調節できるようになっている。ほとんどのカメラ用レンズの絞り機構は、5枚から9枚ほどの羽根状の部品が組み合わさってできていて、羽根の角度を変えることで、光が透る窓のサイズを変えられる(こうした構造のものを「虹彩絞り」と呼ぶ)。つまり、有効口径やF値を変える機構だともいえる。

 絞りによって変化するF値は、絞りの羽根によって形づくられる窓(完全な円形ではない。最近のはけっこう丸いが、ちょっと前までは多角形だった。そのため、多角形絞りという言葉もある)の直径と焦点距離で求められる。ようするに、さっきまでの話と同じである。

 F値は「焦点距離÷有効口径(=窓の直径)」なので、小さいほどとおる光の量は多くなる。逆に、F値を大きくすると、窓の直径は小さくなって、とおる光の量は少なくなる。

 つまり、レンズの中をとおる光の量を減らすには、F値を大きくすればよい、ということである。F値を大きくすると窓の直径は小さくなり、窓をとおる光は細く絞り込まれることになる。これを「絞りを絞る」「絞り込む」などという。

 反対に、とおる光の量を増やすためにF値を小さくすると、窓の直径は大きくなる。絞りの羽根が開いて、よりたくさんの光がとおることになる。これを「絞りを開く」「開ける」などという。

 原則として、「絞る」の反意語の「広げる」や「緩める」、「開く」の反意語の「閉じる」は使わない。

 絞りの羽根が動く範囲にはかぎりがあり、レンズが持つ有効口径よりも大きく開くことはできないし、絞りすぎれば羽根同士が噛み合って動かなくなる(実際には、そうなるより前の段階でストップするようになっている)。

 このときの、絞りをめいっぱい開ききった状態のF値を「開放F値」という。だから、厳密には「F値の小さなレンズ」ではなく、「開放F値の小さなレンズ」が「明るい」と表現するのが正しいことになる。

 一方、めいっぱい絞った状態のF値を「最小絞り」という。素直に書けば「最大F値」「最大絞り値」とするべきだが、窓のサイズがもっとも小さい状態であることから「最小絞り」という。まったく慣例的ないい方である。

 どんなレンズでも、F値を変えられる範囲は、開放F値から最小絞りのあいだだけで、開放F値より小さなF値、最小絞りよりも大きなF値で撮ることはできない。つまり、明るいレンズは、F値を変えられる範囲が広い、ということになる。そのメリットについても語らないといけないのだが、長くなるのでまた今度にする。


 ここからまた少し、数字の話をする。あまりやりたくないのだが、絞りの「段」を理解するためには、どうしても数字からは離れられないのである。ご容赦いただきたい。

 さっき書いた「1、1.4、2、2.8、4、5.6、8、11、16、22」という数列は、レンズの絞りリングに刻まれているものと同じである(ただし、開放F値と最小絞りで範囲がかぎられるので、両端は違う数字になっているかもしれないが、多くの数字はここに並んでいるのと重なるはずだ)。この並び合った数字の隣との差が「1段」。つまり、「F1.4」と「F2」の差が「1段」、「F2」と「F2.8」の差が「1段」ということである。

 F値を変化させることを「絞りを変える」ともいう。小さいF値に変えることが「絞りを開ける」、大きいF値に変えることが「絞りを絞る」である。

 絞りを「1段開ける」と、絞りの羽根が動いて、光をとおす窓の直径が1.4倍になり、窓の広さは2倍に、窓をとおる光の量も2倍になる。反対に、絞りを「1段絞る」と、光をとおす窓の直径が1.4分の1になり、窓をとおる光の量は半分になる。

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↑開放F値がF1.4のレンズの絞り開放の状態(カメラに装着しているので、窓の向こうは暗くなっている)。

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↑同じレンズでF2に絞った状態。窓のサイズはF1.4の1.4分の1になっている。窓の面積が半分になるので窓をとおる光の量も半分になる。

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↑同じくF2.8。窓のサイズは半分になっている。窓の面積は4分の1になるので窓をとおる光の量も4分の1になる。


 つまり、絞りを1段開けたり絞ったりすることは、レンズをとおる光の量を2倍または半分にすることなのである。さっきの、

 1、1.4、2、2.8、4、5.6、8、11、16、22
 という数字だけを見ていると、わけのわからない羅列でしかないように思えるかもしれないが、それぞれの数字の関係がわかってしまえば少しは親しみやすくなるのではないかと思う。

 ちなみに、絞りリングがないレンズの場合は、カメラに装着して電源をオンにし、露出モードを「A」または「Av」に合わせたうえで、電子ダイヤルを回すと、3回に1回は上の数字のどれかがあらわれるはずだ(一部のフィルムカメラでは2回に1回かもしれない)。

 その場合、F5.6から絞っていくと、「F5.6」の次が「6.3」、その次が「7.1」、それから「8」になる。これは、そのカメラが、3分の1段刻みで動いていることを意味している。電子ダイヤルを、こと、っと回すと絞りが3分の1段変化する、ということだ。したがって、絞りを1段変えるには、電子ダイヤルを3回、ことことこと、と回す必要がある。

 なお、3分の1刻みでのF値は、
 1.4、1.6、1.8、2、2.2、2.5、2.8、3.2、3.5、4、4.5、5、5.6、6.3、7.1、8、9、10、11、13、14、16、18、20、22
 というふうになる。覚えておいて損はないが、辛気くさいのも間違いないので、あまり真剣にならなくていいと思う。


 さて、明るいレンズとは開放F値の小さなレンズのことだ、というのはご理解いただけただろうし、数字の意味もわかってもらえたと思う。が、では、開放F値がいくつなら明るいと呼べるのか、というと、これもまた一筋縄ではいかない。というのは、レンズの明るい暗いは、相対的な尺度であるからだ。

 開放F値は、焦点距離やズームの範囲などによって、設計の難しさが変わってくるのと、レンズの大きさや重さ、価格にも大きく響いてくる。

 たとえば、焦点距離が50mmの単焦点レンズなどは、比較的簡単に設計できるので(やろうと思えば難しい設計にもできるが、そうするとうんと大きく重くなるし、とても高価にもなってしまう)、F1.4の明るさでもわりと普通である。

 一方、同じ単焦点レンズでも、焦点距離が200mmになると、F1.4のレンズは存在しない。現行では、キヤノンとニコンからF2のものが発売されているが、どちらも税別80万円を超えるし、重さも2.5kg以上となる。つまり、200mmレンズにとっては、F2でも十分以上に明るいレンズであって、F1.4は非現実的な明るさとなってしまう。

 こんなふうに、焦点距離によって「明るい」の相場があるわけだ。おおざっぱに、明るいといえる開放F値を焦点距離別に書くと、50mmだとF1.2、85mmでF1.4、100mmならF2、200mmはF2.8ぐらいになる。焦点距離の短いほうは、35mmから24mmまではF2が明るめでF1.4が威張れる明るさという感じである。20mmだとF2、18mmならF2.8でも十分明るいといえるだろう。

 ズームレンズの場合、エントリークラスの一眼レフやミラーレスカメラカメラのレンズ付きキットに同梱されている標準ズームの開放F値がF3.5-5.6程度。これはズームの範囲のどちらか一方の端(通常は焦点距離が短い側)がF3.5で、もう一方がF5.6という意味で、一般には「暗い」と評される数字である。

 ズームレンズで明るいと呼ばれるのはF2.8からで、F2は「とても」明るい、F1.8なら「すごく」明るいレベルになる。こちらも、望遠や広角になるほど設計が難しくなるなどのため、単焦点レンズと同様、焦点距離などによって「明るい」のレベルが変わってくる。



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