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恋人の話

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恋人の登場するエッセイです。 ちょっと出てくるときも、がっつりメインの時もあります。 このエッセイの存在は恋人にはバレているようです。
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これが結婚か。

これが結婚か。

妻は、私がガチでヘコんでいるとき隣でゲラゲラ笑っている人間である。

結婚には様々な形があるが、我々はそんな具合でやらせていただいている。一緒にヘコんだりはしない。あくまでかなり近くに居る人間が配偶者だ。直ぐ側にあるエンタメ、リアルな人間、自分に危機を与えない感情の起伏は適切な距離を保った娯楽になる。

私から妻を見れば、何か知らんことずっと喋ってる人間である。平たく言って、特段興味がないのだが向

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布団際の攻防

布団際の攻防

夜、布団に横になっていると妻が突撃してくる。私の右側でスマホをいじっていたはずだが、いよいよこの世にある全ての暇つぶしは、妻の好奇心を満たせなくなったようだ。私は娯楽を提供してくれる板であるスマホをいじっている。なので、妻は私の右肩に頭をグリグリグリグリッと擦りつけ、それはさながら掘削作業であった。

共同生活を送る上での私のポリシーは「不可侵条約」である。相手が何をしていようと、自分に危害が及ば

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妻と私と年末年始

妻と私と年末年始

「ほらっ! お昼食べるよ!」

妻がリビングから寝室にいる私へ声をかけた。布団の中でモゾモゾしながら、私は足をバタバタさせる。この寒さに耐えるために二枚重ねにした掛け布団が波打つ。私はこうして生活を疎かにするので、妻がこうして生活することを促してくる。

淡々といつもどおりのことをするというのが苦手だ。まずいつもどおりという軸がない。朝目が覚めて、そこからすることが特にないのだ。

朝起きて、顔を

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ボーダーコリーに負けるな

ボーダーコリーに負けるな

お風呂に入った。あまり好きではないが、お風呂に入った。ボーダーコリーも嫌々ながらお風呂に入っているから、私も入った。

ボーダーコリーは私の家にはいない。動画や写真で見ただけだ。噂によるとかなり賢いと聞く。フリスビーをキャッチしたり、きちんと待てをする様を見ては私よりもお利口なのではないかと思う。運動能力、落ち着き、可愛さ、知的さ。この分野で戦うと、私はボーダーコリーには敵わない。

なぜボーダー

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妻より先に目が覚めた。

妻より先に目が覚めた。

起きた。

午前8時27分。

私にとっては早朝である。普段、午前11時頃に起きている。そこから、出かける準備をバタバタとこなして職場へ向かう。休みの日は午後2時まで寝ている。いつもより2時間半早い目覚め、という意味で、この時間は早朝なのだ。午前7時に起きて学校へ行っていた頃に照らし合わせれば、5時半に起きるなどもはや「なんか目が覚めた」という曖昧な状態である。起きたら起きたで、ゲームでもしていた

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初めてのマイペンライト

初めてのマイペンライト

ペンライトが届いた。

妻が注文してくれたものだ。家には妻が買ったペンライトがいくつもある。これまでブルーレイを再生しながら妻に借りたペンライトを振っていたが、それも昨日までだ。妻から「〇〇くんにとって初めてのペンライトだよ」と手渡された。

カチッ。ピカー。

光る棒は室内でもはっきりとした明るさを放つ。ボタンを押すごとに色が変わる。カチカチカチ。好きな色にしてからブンブン振った。特に何があるわ

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【悲報】議論で妻に勝てません。

【悲報】議論で妻に勝てません。

先日職場で「寒いっす」と、エアコンがガンガンに効いた部屋で言った。

もはや、着込み方で調節する他ないし、周囲の同僚たちも着込み方を語り始めた。ある人は上に着込むけれど下は特に強く防御することはない。しかしまたある人はストッキングに靴下を追加する。

私はと言うと、まずヒートテックのインナーを着る。そして長袖のシャツを着る。パーカーを羽織る。コートを着る。ズボンはたまにタイツを履きたくなるが、履い

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私を愛してくれる人。

私を愛してくれる人。

「お風呂入りねぃ!」

と、妻が言う。私が布団にうずくまってからもう一度妻の方を見ると、眉毛をキリリッとさせてこちらを見て「入りねぇぃ!」と言った。そして、再びキリリッとさせている。妻のすごいところは、こうした要望を伝える際、一切の軋轢が生まれない表現ができるところである。

渋々お風呂に入って、スマホが防水なことに甘えて動画を見ていると妻がやってくる。風呂の扉が少し開き妻の顔が覗く。

「浸かっ

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古の高校生

古の高校生

高校時代の友人から久々にLINEが来た。

私と恋人の写真である。私が嫌がったのだろうか、私の方は笑顔が見えつつもブレていた。恋人の方はカメラを指差している。休み時間と思われるが、いつの写真なのかはわからない。背景にあるのは三年生のときに使っていた教室。そこで撮られた一枚だ。

「整理してたら出てきた」

と、友人は言う。私が高校生だったのはもう9年ほど前になるので、かなり長いこと眠りについていた

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私と妻と刀剣乱舞

私と妻と刀剣乱舞

私の話より私の妻の話のほうがウケる。

由々しき事態だ。

スキの数。コメントされる率。話題にされる率。おすすめされる率。全部、全部妻のことを書いたエッセイが自分の話のエッセイより人気である。複雑な気分だ。

なにせ私は妻とのエピソードが溢れている。いつかは「妻とのエピソードばかり書いて、妻がコンテンツになってしまったらどうしよう」などと憂いていた。しかし、今や「なってしまえ」と思う。私にしてきた

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嫁の飯がうまい

嫁の飯がうまい

恋人がお弁当を作ってくれる。

「別に二人も三人も変わらないよ」という謎の理屈で、翌日私が食べる分も作ってくれるようになった。春巻きに目玉焼き、プチトマトも入っている。恋人はトマトが嫌いなので、私のお弁当用のプチトマトという新たな概念が生まれてしまった。

タッパーに入った彩りのあるおかず、少し大きめのおにぎり。ひじき。おいしい。

恋人は私のためにタッパーを買い。私のために「蓋を取ってからチンす

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ネーミングセンス

ネーミングセンス

椅子に座っている。

いつぞや、恋人へのプレゼントに買ったトリケラトプスをイメージした椅子だ。イメージしたというか、トリケラトプスのぬいぐるみに椅子の機能が付いたと言うべきだろうか。

このトリケラトプスは、なんとも間抜けな顔をしている。口をぽかんと開いていて、何が起きてもあまり気がついていないような顔だ。鳥が背中に乗っていても、尻尾を小さな恐竜に噛まれても、もしくは、隕石が地球に降り注いでいると

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気に障らない距離感で。

気に障らない距離感で。

恋人と離れて自室で寝たり、一緒の部屋で寝たりしている。

元々結婚してからは同じ部屋で寝ていたのだが、いびきがうるさいと言う理由で一度自室へと移動になった。一人暮らし時代はワンルームで生活していたということもあって、さしたる不便はなかったがそろそろ寂しくなってきたので再び恋人の隣へと出戻りしてきた格好である。

朝、目が覚める。別に昼でも良いのにわざわざ休日の朝に目が覚めてしまう。スマホを見る。ま

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巣にやってくる恋人の話

巣にやってくる恋人の話

仕事から帰ってくる。

キッチンからいい香りがした。何の料理家はさっぱりわからないけれど、きっと美味しい料理だ。私はコートを脱ごうとしてやめる。まだ部屋は少し寒いい。それに、袖を止めているボタンをうまく外せなかった。

私はリビングで夕食を食べ、洗い物は殆どを食洗機に任せる。大きな鍋など、食洗機の中に入らないものを除けばよい。キッチンの片付けは楽なものである。そうした、リビングとキッチンのあたりで

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