今は薬にも頼りながら。

初任給をもらってすぐ買ったのは風邪薬だった。

月末、社長から手渡された封筒の中には給与明細が入っていた。

「これを、早く渡したかった! お疲れさん!」

一か月ほぼ一万円生活をして過ごしていた私にとって、それはまさに天からの恵みであった。何より、その日はもう普通に頭が痛かった。さっさと頭痛薬を買って家に帰り、水とともに薬を飲み下して布団にもぐったあたりで「……初任給で買ったもの、薬か」と絶望しながらも、薬の作用により健やかな眠りについた。

昔から、体が弱い。熱っぽくなっても体温を測らなければ熱はないものとしている。頻繁に発熱を感じるものの、それは大体気のせいという判断を下して動いてしまう。一日微妙に調子が悪い状態で過ごすことも多々あった。それは兵庫県に引っ越してきてからも大して変わらず、それどころか引っ越してきて早々にインフルエンザにかかるという不運に見舞われた。その後も着々と体調の波はうねっており、体を起こすのに30分近くかかることは日常茶飯事だ。よっこらせ、と体を起こして走って会社へ向かう。

頭痛、腹痛、発熱。これらが突発的に前触れなく出現する。毎日ではないのだが、油断をしていると起きた瞬間にどれかのステータスを背負っていることに気が付き、そして気が付かないふりをして一日を過ごす。小さいころからそんな状態異常と仲良く過ごしてきた私は、お気に入りの薬がいくつかある。頭痛にはバファリンだし、腹痛には正露丸。ところが、発熱に関してはなかなか良い薬と巡り合えていなかった。バファリンが解熱する作用を持ってはいるのだが、薬の性質上一気に熱を下げてしまうのでインフルエンザの際にはあまり飲むことを推奨されておらず、また、熱が上がり始めたときに飲むにしては少々強すぎる点がある。

頭痛もなく、腹痛もない、ただ若干熱っぽい(しかし、体温は測っていない)。そんな時に飲む薬を探していたとき、たまたま薬局で見つけた葛根湯を飲んでみたところ大変調子が良くなった。一度に四錠飲め、という説明書に従って今まで飲んだことのない錠剤の量を手の上に乗せて一気に飲む。また「食間」という、謎のタイミングを指定されているので、継続して飲むには少々コツがいることを除けばとても効果が出ていると言って良いだろう。発熱の際にはしばらく葛根湯と共に生きることにした。

お給料も入り、体調不良への対抗策も手にして、貧乏生活もいよいよ終わり、かと思ったのだが一度身についてしまった習慣はなかなかすぐには変えられるものではない。どんなに体調がよくなっても、インドア生活で「あ、これで死なないんだ」という自信を付けた私はますます最低限の買い物以外は外に出なくなっていた。

近所の安いスーパーを見つけ、特売品ばかりを買って、その日一日分の食材をそろえて帰宅する。買ったものは一度冷蔵庫に入れるのだが、お肉などは2日で食べきる。買ったものが一週間以上冷蔵庫の中に残っていない状態がしばらく続いた。買いすぎて腐らせてしまうものがないのは嬉しいことではあるのだが、限界ぎりぎりの「あ、これで俺生きられるわ」という妙な自信が身についてしまったせいで、さして外食もせず、買い込みもしない。

給料日前から、毎日パンばかり買ってきていた私が、給料日後も一向にパンばかり買ってくる私を見て、社長が「……炊飯器とか、買った?」と聞いてきた。

「……買ってないです」

「……炊飯器は、いいぞ。米、炊けるし」

米炊くほかに何に使うねん。と、言い返すほどの技量を持っていなかった私は、社長の真剣なアドバイスだったのかボケだったのかわからない発言を結果的にボケ殺しすることとなった。

しかし私も「冷蔵庫ってそんなにいいものですか? 買って何かメリットでもあるんですか?」と言われたら「冷たくできる」とか意味の分からないことを口走るのだろう。その後炊飯器を買ったのだが、職場では当然のように一日3つくらいのパンを10分かけて食べ終える生活を繰り返している。

さらに心配される要因を増やすようだが、最近サプリメントを試してみるようになった。もう、この食生活の中にサプリメントなんか入れたらますます不健康に拍車がかかるのではないかとも思うのだが、しかし、面白そうなので飲んでみている。面白半分で手を出すものでもないのだが、「これ飲んでみたらすごくよかった」というリアクションを見たら「へぇ、実際どうなんじゃろ」と試してみたくなってしまうものなのだ。

そういうわけで最近は葉酸と鉄分のサプリメントを飲んでいる。効果があるのかは正直よくわからないのだが、朝起きる辛さが少しだけ和らいでいるような気もする。常に低血圧で、鉄分など特に足りていない私はこうしたもので補助していくのもまた一つ体調へのアプローチとして効果的なのかもしれない。

かくして、錠剤ばかりが増えている。必要な時にはお世話になるけれど、常用するものではないことは承知しているので、とりあえずそこに置いてあるだけで心理的な負担が和らぐ。ある種のお守りのようなものだ。

一度しみついてしまった不摂生はどこから改善していけばいいのか全く分からない。ひとまずは目先の異常を薬で和らげながら、調子のいい自分の作り方をだんだんと覚えていきたい。

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今回のテーマ「風邪薬」

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エッセイの冷蔵庫

身の回りにあるものを30個取り出して、それでエッセイを書いてみようという企画です。ありあわせの食材で料理をする感覚で、身近なものを先に取り出してからエッセイを書いてみるのも面白いのではないでしょうか。 初めての方は目次からどうぞ。書きあがったものから、リンクが貼られていきます。

コメント10件

炊いてはるんですね。ヨカッタ。おかずを探す旅はさすらいそうですね^^;私は未だにさすらってるので、なんか足りないって時は煮干しと梅干しと焼き海苔をかじっています。チーズがあれば更にいいかなとか。割と横着です。
ちなみにお米を「洗い米」すると炊きあがりがふっくら美味しくまります〜。
もちださん
一応、炊いてます。唐揚げなどを買った日や、ちょっとおいしいおかずを準備した日は嬉々としてご飯を炊きます。あとは、炊くときにサバ缶を投入するなどして、炊き込みご飯を楽しんでします。

「洗い米」というものがあるのですね、お米を研ぐのの上位版……でしょうか、調べてみますね。
あ、恋人さんが仰ってたサバ缶ですね!
そうですそうです、恋人さん直伝のサバ缶です(笑)
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