電気ケトルを贈る恋人
引っ越してから数週間後、荷物が届いた。
恋人からだ。大きさの割にあまり重くないダンボールを室内に運び入れる。カッターナイフでテープを切って中を見た。
「……電気ケトル」
引っ越し祝い。と言って、恋人から送られてきたのは真っ赤な電気ケトルだった。
一人暮らしをしていると、お湯を使うことが多々ある。私はあまりコーヒーなどは飲まないのだが、実家から届いた紅茶や、味噌汁、スープなどは時々飲む。しかし一番使うのは、インスタント麺を食べるときである。
しかし、わざわざ恋人が送ってくれたケトルでインスタント麺を毎日食べるのはいかがなものか。せっかく贈ってくれたのに、その結果不健康な食生活に拍車がかかることになれば、恋人に示しがつかない。
そんなわけで、せっかく贈ってもらった電気ケトルは実際の所あまり使えていない。できるだけケトルに頼らずに、インスタント麺よりはマシな食生活を心がけるようにしている。
それからしばらくして、また荷物が届いた。
「……ドライヤー」
私は、ドライヤーというものをめったに使わない。スーパー銭湯に行った時、記念に使う程度である。そもそも、ドライヤーを使って髪を乾かす意味がわからない。ほっときゃ乾くじゃん。などと思っているタイプの男である。
「近々そっちに行くから、その時使う用ね」
そうして、私の部屋に置かれたドライヤーを試しに使ってみたのだが、やはり意味がわからない。なにより、うまく乾燥させられなかった。
数日後、恋人が私の部屋にやってきた。せっかく関西まで来たのに、部屋でダラダラ過ごして、ご飯を食べ風呂に入る。恋人が自分の髪を乾かし終えると今度は私の髪に風を当てた。
シャカシャカと頭を撫でられながら、まんべんなく風を当てられる。一通り乾かし終えると、髪の毛がふんわりとして頭が軽くなったように感じた。
「よかったら使ってね」
恋人はそう言って、ドライヤーを置いて帰った。翌日の朝、シャワーを浴びたあと、ドライヤーを手にとった。
二分ほどで、私の髪はすっかり乾いた。自然に乾燥させるよりも、心なしか柔らかい髪になったような気がする。
「ドライヤー、いい感じ」
恋人に報告すると、嬉しそうに笑った。
「ところで、〇〇くんテレビ欲しくない? 誕生日プレゼントこれでいいかな」
「……流石にそれはちょっと」
額が大きいものは、贈られても困る。ただでさえ、先日もらった時計を壊したばかりだ。恋人も恋人で、私の贈った時計にヒビを入れているので、テレビなど贈ってきたらどちらかが画面を割るに違いない。
「えー」
えー、じゃない。人の家の家電を充実させようとするな。テレビを買ったら今度はNintendo Switchも欲しくなる。そしたらさらにゲームを入れて……と、ますます家からでなくなってしまう。
「いいじゃん、ゆくゆくは私も使うことになるんだから」
そんな訳あるか。全く、油断も隙もない。
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