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どうしてここに化粧水

しばらく、自分の顔をちゃんと見ていない気がする。

私の家は風呂場にしか鏡がない。風呂に入るとその鏡はだいたい曇っている。めがねを外した私の視力で鏡を覗いても、ぼんやりと自分の影らしきものが見えるだけだ。自撮りもしないので、スマートフォンにも自分の顔が映ることはない。私の生活圏内で自分のことを見る鏡といえば、職場のトイレにある鏡くらいだ。

家でヒゲを剃るときなどは少し不便だ。まずは頬を手で触る。あごから喉のあたりも指先で軽く擦って、ヒゲが生えていることを確認してからシェーバーでヒゲを剃っていく。チクチクしたヒゲはだんだん消える。

ヒゲを剃り終えたあとの自分の頬は、随分しっとりしているように感じる。

鼻の穴を親指でちょんちょんと触って、鼻毛が出ていないか確かめる。ハサミでチョキチョキと切ってから、顔を洗う。

髪の毛もシャワーで濡らしてから、なんとなく寝癖がありそうなあたりを触って確かめる。

それから、化粧水と乳液などがミックスされた液体を肌に付ける。正直、どの程度効果があるのかはわからないし、目に見えて実感もないのでサボりつつ、時々付けている。

化粧水を買った理由がなかなか思い出せない。付けてみたかった、というそんなに大したことのない理由かもしれない。お化粧に憧れることもあったので、お化粧の前段階の化粧水にも憧れて買ってしまったのだろうか。

会社では「ダサくない格好で来てね!」という私にとっては高めのハードルが待っている。どんな格好をしていても怒られることはないけれど、ジャージやスウェットよりも、ちゃんとした服装でいるほうが社内では浮かない。

その流れで、少し外見に気を配るようになった。慣れないながらも洋服を選んだり、今日のように化粧水を思い出したように付けたりりしている。

私の顔は、乾燥しやすいくせにテカテカしがちだ。でも、化粧水がテカテカを抑制するのか、別に関係ないのかも、私は知らない。それでも、せっかく買ったので、何も効果がないのなら「付けてるし」と思えるだけマシだろうという気持ちで付けている。こういうのは気持ちが大事だ。

恋人も化粧水や乳液を付けている。先日泊まりに来たときには、カバンから化粧品と下地がたくさん出てきた。ほとんど何に使うのか分からなかったが、とりあえず恋人にとっては大切なものらしい。

「そんなにたくさん使ってどうするの」

「○○くんが触る時は、モチモチした肌でいたいからよぉ」

軽く撫でた恋人の頬はとても柔らかかった。一方の私は、すぐ肌がテカテカしてしまう。触れる度に顔を洗いたくなる。自分と恋人の肌が同じ材質でできているとはとても思えない。

私の指に柔らかい感触を残した恋人は、持ってきたボトルのほとんどを置いて帰った。

問題は残された化粧品の置き場である。風呂に一つ、棚に複数、あと、貸したカバンの中に一つ。さて、どこにおいて良いものかわからない。男の一人暮らしの家に、化粧品を置いておくスペースは考慮されていないのだ。私の化粧水もぎりぎり置けるスペースに一本おいてあるので、近くに恋人の化粧品を並べる余裕はない。

化粧品を置いておくのに適しているのかは全くわからない。直射日光は当たらず、常温で保存するのが良いだろう。醤油と同程度の扱いだ。

いっそ、冷蔵庫に入れておいても良いのではとも考えた。しかし、間違えて野菜炒めにスパイスとして混ぜ込んでしまう日が来るかと思うと、食品の近くに置いておくのは危険だ。ひとまず、棚の奥の方にまとめてある。

普段使わないものを保存しておくのは苦手だ。食べ物であれ、冷蔵庫にしまっておいても傷んでしまうのではないかと不安なので、一日に食べ切れる分だけを買うようにしている。買ったら後は、とにかく使うしかない。

しかし、よく考えたら化粧水を使って効果が出ていても、鏡を見ない私には実感ができないことだろう。でも、なんとなく良さそうな気がするから、このボトルを使い切るまでは時々塗ってみようと思う。

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今日のテーマ「化粧水」

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