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パスタが料理になる日は近い。

身の回りにあるもの30個を単語として並べ、それをお題にエッセイを書く試みも3作目になった。

マガジンも作っていて、エッセイの冷蔵庫と題している。すっごい汚い字で、そのへんにあったノートに殴り書きした、いかにもメモのようなカバー写真を作った。

ありあわせのもので料理をするように、身の回りにあるものを使ってエッセイを仕上げてみようという試みである。冷蔵庫の中にある残り物を使って料理をするかのごとく、文章を書く。いかにもエッセイを書いている人っぽい挑戦だ。しかも、エッセイの冷蔵庫というタイトルはキッチンタイマーという名前とも合っている、私史上稀に見る素晴らしいネーミングである。ただ、私は料理を全くしない。冷蔵庫にある余り物で料理どころか、会社帰りに買ってきたものを食べては冷蔵庫の中を空にしている。

肉を買ってきては食べきり、インスタント焼きそばも食べきる。しかも、私はひどい偏食なので、一度気に入ったものがあればしばらくそれを食べ続け、飽きたら別のものに移るという、健康から遠ざかる食生活を送っている。一応、体に良くないことは自覚しているので、毎回帰宅途中にキャベツの千切りを一袋買って食べてはいるのだが、この屁理屈のような野菜のとり方で、どの程度栄養バランスが保たれるのかは全くわからない。

東京にいたときは、バイトの日の昼は牛丼を食べ。ゼミがある日の夜はカップ焼きそばを食べまくっていた。現在は昼はパンを食べまくっており、夜ご飯はレトルトカレーや納豆や卵をレンジでチンするタイプのご飯にぶっかける。それだけではちょっと足りないので、同じことを2回3回とくり返していた。

しかし、レンジでチンするごはんばかりに頼っていては良くない。そんな折、新たな主食として見つけたのがパスタである。パスタというか、スパゲッティだ。最近はレンジでチンするだけで茹でることができるキットも売っているので、私でも作ることができる。

などと調子に乗っていると失敗するもので、そんなキットを使っても硬すぎるスパゲッティになってしまったり、スパゲッティ同士がくっついて歯ごたえのある状態で完成したり、箸で掴んだ瞬間に切れるほどぼっそぼそになったりもした。現在ではそつなくパスタをレンジでチンできるようになったが、そこに至るまでは何本ものパスタの犠牲があるのだ。

一度作れてしまえばこちらのものだ。ソースをかけるだけで簡単にスパゲッティができる。とても簡単。料理と言って良いのかは解らないが、美味しいものがすぐできるようになると、それを毎晩食べる生活を平気で続けてしまう。

「……飽きないの?」

普段食べているものの話をすると、よく聞かれる。飽きるかどうかと言われると、もちろん飽きる。ただ、飽きるまでにかかる時間が比較的長い。他の人が3日続くと飽きるようなところも、私は一週間くらいをかけて飽きていくようなイメージだ。

茹でる、かける、混ぜる、食べる。パスタとソースを合わせるだけで、すっかり料理らしいものができるようになった。肉だけを焼いて食べていたころに比べれば、大きな進化である。しかし、そんな私の家に来た恋人は、冷蔵庫にどっさりあるパスタと買ってきた野菜を駆使して一つしかないIHとフライパンだけで、2人分作りあげた。私が火をおこす程度の進化を遂げた先で、恋人は人間として生きている。

二人で料理を食べる間も、私はずっとぽかんとしていた。自分の家は、全く料理に向かないと思っていた。一つしかないIHなんて、お湯を沸かす以外何ができるのかとさえ思っていたのだが、私と同じ設備で恋人はしっかり食事を作っている。

「そういえば、棚に中華丼のもとがあるね」

恋人はなぜか私の家にあるレトルトパウチを把握している。その中華丼のもとは、引っ越してすぐに食料の心配をして祖母がレトルト食品が目いっぱい詰め込まれた段ボールを送ってくれた中の最後のレトルト食品である。「レンジで温めないでください」という注意書きがあり、お湯で温めるのをめんどくさがった私は、レトルトカレーばかり食べていたので最終的に中華丼のもとだけが残ってしまった。

「あと、冷蔵庫にお肉があるね」

なぜか冷蔵庫の中身も把握されている。

私は、はいはい、とうなずいていた。

「野菜炒め、ちょっと冷めちゃったから、これをもっかい温めて、中華丼のもとを入れてみるといいよ」

恋人は少し多めに炒めた野菜を指さして、座椅子に寝転がった。

そういうもんか、と思い、野菜をフライパンに入れて、お肉を放り込みIHを強めに設定して野菜を炒めた。ジューと音が鳴って、お肉の周りが焼けてきたので、頃合いを見計らって中華丼のもとを入れる。我ながらぎこちない手つきで野菜を炒め、お皿に盛りつけた。おいしそうなにおいがする。恋人が炒めた野菜に、余ったお肉と、中華丼のもとを入れただけだが、見た目はとても健康的な野菜炒めになった。

恋人がお箸をのばして、キャベツをつまんで食べた。

私もそれにならって、もやしをつまんで食べる。

「……おいしい」

ちゃんと、料理の味がした。料理の味というのも変な表現だが、しかし、今まで自分が作っていたものとは何だか違う味がしたのだ。半分は野菜、もう半分はレトルト、正直、料理と言っていいのかは大変怪しい水準なのだが、不安になりながら炒めた野菜がちゃんとした味になったことがうれしかった。

組み合わせてできる味、というものが私は全くイメージできない。パスタソースは、パスタと組み合わせているけれど、ほとんどパスタソースの味だ。レトルトカレーも、レトルトカレーの味がする。でも、今食べている野菜炒めは、中華丼の味がするけれど、それだけではない。お肉の味がして、野菜の味もする。

私は何度も、すごい、すごい。と言いながら食べた。

「こんな風に、組み合わせられるレトルト食品、ほかにもあったら教えてくれない?」

全部作るのは無理でも、このくらいならできそうだ。そう思えたら、少し興味が湧いてきた。私のリクエストに対して、恋人は翌日鯖缶を買ってきた。

「お米を炊くときに、これ一缶いれて、生姜をちょっと入れてみて」

その日の夜、早速言われた通りやってみると、サバの混ぜご飯が出来上がった。よそっては食べ、またよそった。翌朝のおにぎりを作ることを見越して多めに炊いたのだが、気が付くと炊飯器の中身は空っぽになっていた。

「料理がちょっと好きになったみたいでよかった」

恋人が言った。

まだ、ありあわせのもので料理を作ることはできないけれど、いずれ、冷蔵庫に眠るパスタをレトルトソース以外を使って味付けしてみたい。

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今回のテーマ「パスタ」

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