読んでるサインを送り合う。
最近、友達のKと夜な夜なゲームをしている。
通話をしながら、オンラインで協力プレイをしながら主にイカをインクでしばき倒すゲームをする。最近はKも大乱闘をして画面外に相手を叩き出すゲームにうつつを抜かしているので徐々に実力差が縮まってきた。
協力プレイは足手まといにならない程度にうまくなると楽しくなってくる。下手くそだった私を健やかに育ててくれたKのおかげで、安定した勝率を得ることができるようになってきた私は「遊ぼうぜ!」と誘って夜な夜なゲームに興じている。
対戦相手が決まるまで待ち時間があるので、その合間に、Kは「そういえば……」と言って思い出したように話をする。「本のプロジェクト進んでるの?」とか「仮面ライダー見たんだけど」とか。近頃は「文章を書きたい」と言ってくるようになった。話の途中で対戦相手が決まり、そこからはゲームの話になる。戦い終えると「話は戻るけど」とさっきの続き、そしてまた対戦。そんなふうに会話を続けていた。
先日の夜も、同様にイカをインクでしばいていたときのことだ。対戦相手が決まるまでの待ち時間、Kが言った。
「そういえば、お前の恋人を見てみたい」
「ははは、どうした急に」
「いや、お前のエッセイ読んでるんだけど」
話が続きそうなところで私はつい遮ってしまった。
「俺のエッセイ読んでるの!?」
「うん。それでどんな人なのか興味が湧いた」
私は友人にエッセイを書いていることをオープンにしている。元々は自己開示が少ないと言われて始めた試みということもあり、私を知る人に読まれるのは大歓迎だ。しかし実際読んでいる人は未知数で、たまにこうして「実は読んでる」と報告を受ける。
「マジで読んでるの……?」
「うん、本の話とか」
その後いくつか「これは? これは?」と聞くと、少なくとも過去一ヶ月分はしっかりきっちり読んでいるようだった。
一旦イカのゲームを脇において、自分のエッセイの一覧を見ながら感想を聞くことにした。
「この、だから代わりに喜んでくれ、ってやつどう?」
「これは、わかる。俺も喜ぶタイミングは逃す。というか、予防線をめっちゃ張る」
私が話を振るとKは感想を返してくれた。いくつか、読者のリアクションが気になっていたものがありどう思ったか率直なところを聞かせてくれた。中には、K自身が書くためのアイデアを持っているものさえあった。
「書けよ」
「いや、まぁ」
いや、まぁ。じゃねぇよ。
とはいえ、書くというのは、個人的なノリとタイミングが物を言うので無闇に書こうと意気込むよりも、ノリが来たときに書く準備をしている方がよほど大事である。しかし、ついつい「書け」と言ってしまう。書いてほしいと思ったからには「書いてくれ」と言うほかないのが私の不器用なところだ。
してほしいことは、口に出してお願いする他ない。なので、私はさらに付け足すことにした。
「あとおめぇ、読んだらスキを押せ!」
「えぇ……」
「押せ! それによって書く気力が上がるんだよ! 俺を育てろ!」
Kにはゲームで散々私のレベルアップに付き合ってもらっているのだが、この期に及んでさらにエッセイのレベルアップまで要求する始末である。しかし、これは友人にしかお願いのできない話だ。私は友人から「読んだよ!」と報告を受けると度々「押せよ! スキを!」と言っている。
顔を知っている人からの既読というのは、結構嬉しい。そして、すぐさま私はその人のLINEに突撃し「さぁ、読んだな。感想を話して貰おうか」と玄関に座り込む押し売りのごとく聞き込む。そして、その感想がまたエッセイになるのだ。無限ループである。
ともあれ、普段交流のある人から「読んだよ」と連絡をもらえるのは嬉しい。
「そこに誰かがいる」という感覚は、言葉を交わした繋がりであるほど実感が湧く。
今日も読んでくれたんだな。と、スキの通知を見て安心することもある。友達からの「読んだよ」というのも、すごく嬉しい。
エッセイの話を私からすることは滅多にない。基本的に読んでもらえていないものと思っているし、読んでいても覚えていないものだと思っている。何より基本的には受け身だ。キッチンタイマーのアカウントを見つけてもらった上で、読んでもらい、かつ向こうから私に話を降ってこない限りはエッセイの話題などほとんど出ない。
唯一出るのは、エッセイを書いていることを知っている友達に「あなたが出る話を書いた」と報告するときだ。
「読んでくれる」と分かると、ネタが書きやすくなる。あと、結構しっかり書いても怒らないと思っているので、書きやすい。何より、友達のネタは思い返すと色々ある。
「スキを、つけろ!」
「はいはい」
翌日、いくつかのエッセイにKからと思われるスキがついていた。その日の夜も、画面の中でイカをしばき倒すゲームをする。
「スキ、つけといたぞ」
「サンキュー」
友達と趣味の話ができるのは楽しい。それは、ゲームにしろエッセイにしろ同じことだ。
「ああああああ!! 負けたああああ!!」
「今のは、運が悪かった」
「次いくぞ、次!」
「うん、あ、そういえば今度エッセイ書こうと思うんだけど」
Kと文章の話をするようになるとは思わなかったので、奇妙な縁を感じる。コントローラーを握りながら「それ、クラウドで共有しといて。読むわ」と告げるとゲームが始まった。
「顔を知ってる人に、自分の読まれるなんて恥ずかしくない?」
「慣れたわ、そんなん」
その後、文章はキチンと指定された場所にアップロードされていた。Kと話す話題がまた一つ増えた。
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