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素材解説:花房和牛について。

花房和牛について。

花房和牛は南島原加津佐で花房牧場の綾部さんが
循環型農業・抗生物質不使用で育てる年産1~2頭の幻の経産牛です。

普通、経産牛というものは「硬い」「臭い」「脂が黄色い」と言われ廃牛扱いなのですが、本来の牛肉は未経産牛よりも経産牛の方が味が濃く、香りがより牛らしくなります。
(欧州では経産牛が最高クラスのお肉になる為、未経産牛にあまり興味がありません。)

理由は様々ありますが主に
・旨みが強くなる
・脂肪融点低下
・香りの変化(より牛肉本来の香りになる)

の3点がハッキリ出てきます。

まず「旨みが強くなる」についてなのですが、動物は月齢が高くなるにつれて血中の乳酸が多くなります。
(ミオグロビン増加によりアミノ酸値が上昇、ヘモグロビンよりミオグロビン優位の為、血液が嫌気的環境下に寄って行くため乳酸が発生するのではないか?と私は考察しています。)
※西洋料理において乳酸が多くなる程に旨みが強く、価格や価値が高くなる傾向があります。
例)チーズ・パン・ワイン・肉類
尚、ミオグロビンが増加することにより濃い赤身になります。

ここで少し解説を入れますが、A5ランク等の牛は全て未経産牛です。
(未経産牛しか農協の規格上、A5にはなれません。)
つまり全ての牛が月齢が若過ぎて味が乗っていない事になります。

しかも「旨味成分」とは「水溶性アミノ酸」の事を指します。
これは筋肉中にしか存在せず、脂肪の中にアミノ酸は有りません。
つまり霜降りにすればするほど「旨味成分が減る」と言う事です。
しかも月齢が若いとなると、筋肉中の旨み成分も少ない事になります。

もうお気付きですよね?霜降り肉に「味がほとんど無い」という事に。

それでは「A5ランク」とは一体何なのかザックリ解説します。

「A5ランクとは?」

「A5ランク」という格付等級を一般的に牛肉のランク付けに耳にすると思いますが、これに味の評価は入っていません。
A5の「A」は「歩留等級」と言って、「どれだけ商品になるお肉が効率的にとれましたか?」という指標です。

A5の「5」は「肉質等級」といい、これは「牛肉の色沢」「牛肉の締まりときめ」「脂肪の色沢と質」「脂肪交雑(脂肪の入り具合)」の4つを総合的に評価したランクです。
要は「見た目の検査」です。
味の評価はここにもありませんね。「締まりとキメ」は分かりますが…。
(味の評価のことを「官能検査」と言います。)

「霜降り肉を食べるのがキツくなってきた」と言う人がずいぶん増えましたが、そりゃそうです。
部位によっては体脂肪50%を超えるわけですから、肉入りの脂を食べる事に等しいのです。

ちなみに出産をすると脂肪融点温度が低下します。
そして体臭も牛肉本来の香りに変化していきます。

要は「経産牛は脂身もサラッとして食べやすく赤身の味が濃く、香りも良くなる」という事です。

ただし、月齢が上がるに従い「加齢による硬化」が起こるので、焼くのに技術が必要になります。
(霜降りは半分脂肪なので焼き過ぎても柔らかいが、赤身は焼き過ぎると硬くなるのと、月齢の関係で更に硬くなり易い)

花房和牛の育つ環境

・九州産の資材を使ったオリジナルブレンドの発酵飼料
可能な限り長崎の中で材料を調達して(豆腐粕等)、健康的な食事を与えています。
自家製飼料の社会的・経済的功績が認められ2022年秋の褒賞にて「黄綬褒章」に選ばれました。

・循環型農業の実践。
地域の農家産たちと約70戸と連携し稲藁を集め飼料や敷材等に活用。
出てきた牛糞は自家製発酵肥料にして農家さん達に循環。
色々な農家さんを見てきましたが1農家が70戸もの協力を得て、しかも循環型農業を実践しているのは花房牧場以外にまだ見たことがありません。

・通常の2倍以上のスペースで飼育・抗生物質不使用。
霜降りを育てるためには「運動されては困る」ので(痩せるのと筋肉が固くなる為)、狭いゲージに入れます。
そこに高カロリー高脂肪の餌を与えビタミンA欠乏(通称:A欠)させます。
ビタミンA欠乏をすると脂肪が分解されないので効率よく脂肪が蓄えられます。
勿論、加減を間違えると失明や疾患したりするので、そうならないギリギリを狙うのが腕の見せ所となっていますが、果たしてそれが牛や人間のためになっているのかは甚だ疑問です。
そして狭い所にゲージが集中しているので病気が発生した場合「横型感染」してしまうので対策として抗生物質を与えなければなりません。
(つまり霜降り肉=ゲージ飼い+抗生物質でワンセットです)
最初にサラッと書きましたが「抗生物質不使用」は普通出会うことはできません。
それをするには「広いスペース」と「徹底した掃除」をするしか無いからです。
花房牧場の牛舎は何度もお伺いした事がありますが、全く匂いがせず牛舎の中で食事ができるレベルです。
(普通の牛舎はかなり臭くて、とてもでは無いですが同じことはできません。)

・名水100選の島原の湧水をポンプアップして与える。
動物の体質や味を決定付ける要素として「水」はとてもインパクトが大きいです。
私も様々なお肉を扱ってきましたが(G20で提供されるお肉や三つ星で使われるお肉など)、餌や環境を整えても水で決定的な差が生まれます。
(まぁ考えてみれば体の8割近くは水で出来ているので当然と言えば当然なのですが。)
その飲み水をミネラルたっぷりの100%天然の湧水を与えています。
島原の地の利を最大限活かしています。

・吹き上げる潮風が当たる環境
フランス・モンサンミッシェルに潮を含んだ牧草を食べさせる「プレ・サレ」という仔羊がいるのをご存知でしょうか?
教会の下に潮の満ち引きで好塩性植物しか育たない一帯に75日以上放牧する世界最上級の仔羊です。
フランス人が「一生に一度は食べたい」と言うフランス人にとってアイドル的存在プレ・サレ。
この仔羊の美味しさの1番の要因は海水のミネラル分です。
特に赤身肉には影響が大きく、劇的に味に変化をもたらします。
この仔羊が育つ環境と同じように、花房和牛の牛舎は常に吹き上げる潮風に当たっています。
これも美味しさの要因の一つであると考えています。

・出産が終わると放牧でリフレッシュ
花房和牛は経産牛です。お産をすると体に負担やストレスが掛かります。
そこでリフレッシュ休暇を与えるんですね。
放牧場まで連れて行き、真ん中に味噌を置き、あとは自由にさせます。

・無理矢理「追い込み」をしない
普通の牛は目標の体重を目指してガンガン餌を食べさせます。(大きくてサシが入る程値段が付く)
これを花房和牛はしません。
牛が食べたいだけ食べて、「もう要らない」となったら無理に追い込む事はしません。
「体が大きくならないじゃん!」とか「サシが入らないじゃん!」とか言われても(実際に私は言われた事があります。)、私はそれで良いと思うし、そんなモノサシなんて有り難がっていないのです。
無理に追い込んで、一体誰のためになるんでしょうね?

対外評価

対外評価としては「肉のサカエヤ」の新保さんが認めた数少ないお肉です。
肉好きの間で新保さんを知らない人はモグリと呼んでも良いほどに「神」的存在ですね。
NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」令和の一番最初は新保さんの特集でした。
他にも様々な新聞や雑誌等の取材に応じていらっしゃるのでご存じの方は多いと思います。
彼のブログにはこう書かれています。

「試食した感想は、お世辞なくおいしかった。だから感想に困ったのだ。おいしくなければ、理由をあれこれ言えるのだが、おいしい肉の感想はおいしいしか表現のしようがない。」
「幻の肉とか希少な肉とか、巷ではこのようなキャッコピーが溢れていますが、本来はこういう肉のことを言うんですよね。」(新保さんのブログより引用)

新保さんから高い評価を頂いている牛肉は日本で片手で数えるぐらいしかないと思います。

普通の霜降り肉に関して本当はもっと色々あるのですが、ちょっと言えない書けない内容なので知りたい方がいらっしゃればお話しする機会等を作ったりするかもですね。

まだまだ資料が山の様にあるので小出しにしますが、今回はこの辺りで終わりたいと思います。



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