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小熊が選ぶAORベストアルバム30選+個人的に好きな7曲

ミュージック・マガジン2019年3月号の創刊50周年記念ランキング企画「AOR/ヨット・ロック・オールタイム・アルバム・ベスト100」に参加しました。

"サンダーキャット『ドランク』に参加したマイケル・マクドナルドとケニー・ロギンスを始め、再評価が進む70〜80年代の名作と、大きな潮流となっている近年のリヴァイヴァルから生まれた新しい作品を、まとめてランキング! 40人の識者に1位から30位まで順位をつけていただいたものを編集部で集計し、ベスト100を選出"する、という企画です(公式サイトより引用)。

その筋のエキスパートや錚々たる評論家の皆さんが参加されているなか、小熊もチャレンジ枠(?)でお声がけいただいて。個人セレクトに加えてTOTO、ジョージ・ベンソン、ラー・バンドのアルバム評も書いています。

特に、時空を超えてしまった名曲“Africa”について、字数の範囲内で思う存分に書くことができてよかったです(この記事この記事を参照)。ぜひ読んでみてください。

で、個人のリストはweb上に公開してOKらしいので、ここに小熊の選んだAORベストアルバム30を転載します。

1. Sade / Diamond Life
2. The Doobie Brothers / Minute By Minute
3. Ned Doheny / Hard Candy
4. The RAH Band / Mystery
5. Donald Fagen / The Nightfly
6. TOTO / TOTO IV
7. Jamiroquai / Travelling Without Moving
8. George Benson / Breezin'
9. Steely Dan / Gaucho
10. Bobby Caldwell / Bobby Caldwell
11. Prefab Sprout / From Langley Park to Memphis
12. Chris Rainbow / White Trails
13. Nick DeCaro / Italian Graffiti
14. Stephen Bishop / Careless
15. Daft Punk / Random Access Memories
16. Samuel Purdey / Musically Adrift
17. Erik Tagg / Rendez Vous
18. Natalie Prass / The Future and the Past
19. Marcos Valle / Tempo da Gente
20. Rhye / Woman
21. Archie James Cavanaugh / Black and White Raven
22. Average White Band / Shine
23. Laura Allan / Laura Allan
24. Lemuria / Lemuria
25. Kenny Rankin / Silver Morning
26. Destroyer / Kaputt
27. Al Jarreau / Jarreau
28. John Valenti / Anything You Want
29. The Aluminum Group / Happyness
30. Everything But the Girl / The Language of Life

Apple Musicのプレイリストも用意したのでよかったら。もともとは選考作業用に作ったもので、余分に曲が入ったままにしてあります(全50曲)。

選評は誌面に書いたので割愛しますが、tofubeatsさんもよくDJでかけていたというArchie James Cavanaugh、トム・ミッシュもTwitterのアイコンにしているディスコ〜AOR期のマルコス・ヴァーリとか、改めてかっこいいですね。「シカゴ音響派のスティーリー・ダン」ことアルミナム・グループも大好き。↓ジャケはキモいけど。

何はともあれ、タイムリーな企画だし、選び始めたら止まらなくなるほど楽しい作業でした。

◎唐突に……AORの思い出

1986年生まれの小熊が、人生で3枚目くらいに買ったCDがドゥービー・ブラザーズのベスト盤。今思うとなんで買ったんだろう?(ジャケもダサいし)ライナーノーツを読んで、ある時期を境にメンバーどころかリーダーまで入れ替わったと知り、「そんなことあるん?」と高校生の自分はビックリ。2in1のCDを買ったような、得した気分になったものです。

ということで、“What a Fool Believes”は青春のアンセム。セブンイレブンで耳にするたび心がときめきます。セルフによるキュートなカヴァーも大好き。

そのだいぶあと、「ヨット・ロック」という概念を知ったのは、ニュー・ポルノグラファーズがYouTube黎明期に行ったビデオ・コンテストがきっかけ。その優勝作がマイケル・マクドナルドのパロディで、自分の大好きなドゥービーがここまで小馬鹿にされていることに衝撃を受けました。2007年の映像だけど何度見てもウケる。ちなみに、原曲はパワー・ポップ

思い返せば当時の自分も、スティーリー・ダン周辺やベニー・シングスなど一部を除いて、AORは「時代遅れのイタさを嗜む」みたいなノリで聴いてたはず。そういう感覚が変わりだしたのは、アリエル・ピンクの『Before Today』(2010年)が出たあたり。このアルバム自体はAORではないけど、歪んだ形でサウンドが受け継がれている感じがして。ここからAORの虚ろさとメロウな快楽に目覚めた気がします。

で、その数年後にダフト・パンクの『Random Access Memories』がシーンを塗り替えていくと。「ダフト・パンクまでAORに入れるのはどうなの?」みたいな感想ツイートも見かけたけど、このアルバムがなかったら今回の特集が実現してたのかも怪しいだろうし、その功績とAORサウンド全開の「Fragments of Time」があるから選んでおこうと自分は判断しました。ブレイクボットも入れるべきか結構迷った。

ただ実際のところ、サンダーキャットやトム・ミッシュにしたって、AORの文脈だけで評価するのは無茶な話で。そういう近年のハイブリッドな作品とAORクラシックを一緒くたに並べて、単なる人気ランキング以上のものを作るのって相当ハードルが高いんだろうなーと思います。あれこれ意見が分かれるのもやむなしというか。

だからこそ、新しいパースペクティヴを提示できれば超カッコいいわけで。例えば、Pitchforkが発表した1980年代ベストアルバムのランキングは、2002年版2018年版で並びが大幅に変わっているんですよね。明らかに価値観がアップデートされていて、偉いなーと感銘を受けたものです。

その話でいうと今回のAOR企画は、松永良平さん×長谷川町蔵さんの対談が非常におもしろかった。自分がうまく言語化できなかったこと、よくわかってなかったことがクリアになった気がします。

ちなみに、松永さんがnoteで書かれてる「ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック」もめちゃくちゃ面白い。これはマジで必読。

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◎せっかくなので、ベスト30から泣く泣く外した7曲をご紹介。

Eye to Eye “On the Mend”

AORの洗練性とニューウェーヴの尖った音作りが同居した、だいぶ不思議なグループという印象。個人的には、アルバムのラストを飾るこの曲だけ大好き。切なさの極み。

Billy Joel “Just the Way You Are”

いつ聴いても10cc愛が疼く名曲。その辺については、西寺郷太さんによる解説記事が大変オススメです。

Ian Matthews “Man In the Station”

フェアポート・コンヴェンションの初代ヴォーカリストによる、この世で一番好きなAORソング。後年、ジャーマン・ニューウェーブの貴公子ことアンドレアス・ドラウがサンプリングしたときは驚きました。この曲が入ってる『Stealin' Home』(1978年)は、テレンス・ボイラン“Shake It”のカヴァーとか他にもイイ曲だらけ。

Dionne Warwick “It's the Falling in Love”

今回のベスト100企画、2018年のリリースから一枚選ぶならナタリー・プラスでしょう!と思ったのに選外でした。彼女がSpotifyで公開してるプレイリストがアーバンでいいのですよ。そこに入っていた曲の一つで、前年(1979年)に発表されたマイケル・ジャクソン『Off the Wall』収録曲のカヴァー。

Maroon 5 “Sunday Morning”

ノラ・ジョーンズのデビュー作をAORと括るのは無理がある派だけど、こっちは大アリだと思う。R&Bがデフォルトで装備されたポップバンドの雛形というか。なんにせよ、この曲はやっぱり素晴らしい。

The Bird and the Bee ”Rich Girl“

“Again & Again”でお馴染みの1stアルバムも入れるべきか悩んだけど、さすがにエレポップすぎるよなーと外すことにして。もっと悩んだのがダリル・ホール&ジョン・オーツのトリビュート集。正直、このアルバムは本家より遥かに好き。グレッグ・カースティン信者だから仕方ないよね。

Video Age “Lover Surreal”

アメリカのオタクバンドが作った異形のポップ・アルバム。ここに入ってるDX7の音色を聞いて、『The Nightfly』はやっぱり上位にしておこうと決めました(本人たちもフェイヴァリットに挙げている)。Base Ball Bearの小出祐介さんも年間ベストに選んでましたね。日本盤はタグボートから出ていて、解説は小熊が書いてます。



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