「あの子彼氏と帝国ホテル泊まったんだって」

「あの子彼氏と帝国ホテル泊まったんだって」また刺してきた。鞄をひっくり返すように充電器を探しながら。「帝国ホテルってどこにあるの?」と聞くとわざわざ検索して画像まで見せてくれた。豪華絢爛、上品とはまさにこのことなんだろうな。どんどん画像をスクロールしていく、まだまだ君の攻撃は続いている。「ここ泊まりたい?」一応聞いてみた。「泊まってみたいけど、そわそわしそう。まあ一回くらいは行ってみたいかなあ。」やっと携帯を消してくれた。きっと、帝国ホテルに泊まりたいわけじゃないんだろうな。形ある愛を、胸を張って公表できる愛をもらったあの子が羨ましいんだろう。すっかり気が済んだのかベッドに寝転がってインスタグラムで子犬の動画を見ている。「部屋寒くない?」「うーん、なんでもいいよ。」僕はこの、とても綺麗とはいえない、ただベットの下が赤く光るだけの406号室が好きなんだと言えないまま。



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