二次創作と著作権(0)コミケを題材にして

1.コミケと法律

 2019年、令和初のコミケになったC96は4日間で73万人の入場者を記録し、過去最大の人数となった。もちろん、たいていの参加者は2日間ないし全日参加しているので実際の入場者総数はこれより少ないことを差し引いても催事としては大規模であり、世間としても無視できないイベントとなっている。

 コミケの原動力になっているのは原作品を愛し、それが高じて二次創作となる作品(本やタペストリー、抱き枕やその他小物など多岐にわたる)を作り上げているブースの方々とその内容に胸を膨らまして二次創作作品を買い、売り手とともにイベントを盛り上げる購買側の参加者である。

 コミケで本を売るには多岐にわたるステップが必要になる。自分が納得する絵が描けないといけないし、製本作業にも時間と労力とお金がかかる。初めのうちはどれだけ印刷すればいいのかわからず多くの在庫を抱えて大損するケースや逆に少なすぎて満足に売れないケースもざらにある。大手出版社のように決まった物流のルートがない分販売の効率化もコストダウンもできない状況で漫画を描き本を作るのは情熱がなければやってられない側面もあると思われる。

 それでもコミケのブースが与えられるかは毎回多くの応募がなされ抽選になる。このことはコミケに参加することの意義、本を出版し同じ関心を持つ者同士で交流をして楽しむことの意義を見出している人の多さを再認識させる。

このようにコミケには楽しい面や明るい面が多くある反面、法律的には様々な面でトラブルになりがちな側面を抱えている。まず、コミケのブースで売られている作品の多くは巷に出ている大手の出版社や映像会社、制作委員会などの作成するアニメーションや漫画をもとに作る二次創作である。そしてこれらの二次創作は、ほぼすべてについて、個別に原作者の同意を得ずに作られている。

著作権法上これらの二次創作は原作品を複製ないし翻案したものと扱われ、二次的著作物に当たる。原作品の複製・翻案は著作権者にしか認められていない(著作権法21条、27条、「専有する」という文言は「その人にしか権利を有しない」という意味を持つ)。そのため同意を得ないで作られたこれらの二次創作は著作権法上は原作者の著作権を侵害している違法な作品であり、原作者は著作物の差止や廃棄、ひいては損害賠償請求などの請求を二次創作者に対してできるのが原則となっている。現実にはコミケでの二次創作に対してこれらのトラブルが起こることは稀ですが、原作者サイドの事実上の黙認によって紛争になっていないに過ぎないのが現状である。

また、著作権の問題を離れたとしてもコミケで出てくる二次創作の内容の一定程度はいわゆる成人用の内容を含む表現であり、無条件に氾濫させることが妥当かどうかきわめてセンシティブな問題になっている。二次元と三次元の違い、空想の少年少女を対象とする表現の範囲など漫画・アニメとしての表現一般の問題として大きな議論の対象になって久しい。

さらに、二次創作の作品についても二次創作者の同意なく違法にインターネット上にアップロードされており、海賊版の問題は原作品同様生じている。海賊版の問題については、つい先日サイトブロッキングによる解決が通信の秘密というこれまた表現の自由と密接にかかわる憲法上の権利との調整が問題になっており、コミケを取り巻く権利環境は非常に先鋭化されている。

また、コンテンツの内容に関する問題のほかにも毎回コミケのたびに問題になる徹夜組などの迷惑行為対策や、単純な経済的利益のために個人としては興味もないものを大量に買い高値で転売する転売屋の問題など、コンテンツの流通やイベントのモデル論につながる法律上の問題なども毎回話題になっては根本的な解決には至らない状況になっている。

こうしてみるとコミケは法的論点の集積所であり、たくさんのゆがみや問題点が現状追認の上に成り立っていることがわかる。当職としては現在ではまだ、どういうモデルがコミケに最適か、という総論としてのパッケージは示せない。それはコミケの当事者やそれを取り巻くステークホルダーの意向を地道にすり合わせながらじっくり作るものなのかもしれない。しかし、コミケにかかわる個別の当事者の抱える法的な問題やそれへの解決策は提示できる可能性がある。今後はトピックを交えながら発信できればと思う。


小規模事務所から知財ローヤーを目指すための試行錯誤の過程を備忘録としてまとめました。