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2024.03.14 UEFA Youth League 2023/24 ベスト8 ACミランU-19 vs レアル・マドリーJuvenil A

・はじめに

おはようございます。こんにちは。こんばんは。
衝動物書きシリーズ第2弾です。
今季のユースリーグに臨むマドリーの選手達が大好きでしょうがなくて。
そんなチームがベスト8で散った事実に打ちひしがれながらも、必ず何か記録として残しておかないと気が済みませんでした。
興味がある人だけついてきてください。

以下、スタメン。

両チームのスターティングメンバー

マドリーは4-3-3のシステム。
マヌ・アンヘル(IH)とイケル・ブラボ(LWG)という主力中の主力2人をサスペンションで欠く中、アルベロアが取った策は2人のMFを登用しつつ、前線の並びを少し変化させること。
前線は右に11月のカディス戦でトップチームデビューを果たしたゴンサロ、中央はライプツィヒ戦で左IHを務めた攻撃的MFパラシオスの偽9番を採用、左には今季前線起用でブレイクしているウーゴ・デ・ジャノスを並べた。
中盤は左利きの技巧派MFメソと2007年生まれのポル・デュランの両IHがこの試合スタメンに選ばれ、アンカーにはU-19スペイン代表のクリスティアン
DFラインは鉄板で、両SBにユシフォルテアの攻撃的SB、トップチームに招集されたことが記憶に新しいハコボとサラサラヘアーが目立つホアンのCBコンビというラインナップ。
GKは身長198cmのフランや07世代のアルバロ等、グループリーグではローテーションしてきたが、ライプツィヒ戦同様この日も守護神を務めるのはケトグラス。

ミランは4-2-3-1の並び。
注目は15歳260日でセリエAデビューを飾った怪物ストライカーカマルダ

・試合内容

・ミランの守備構造の穴を突く3人のキーマン

まず、この日のミランの守備構造に目を向ける。
大枠で見ると非保持のブロック陣形自体はよくある4-4-2型。
しかし細かく注視すると、左右のSHに与えられた守備タスクの重さの差異に起因して、アシンメトリーな左肩上がりの4-4-2型守備ブロックを敷いていることが分かってくる。
左SHのシアは守備免除気味、攻撃で違いを作る役割を期待されているのだろう。
反対に右SHのスコッティはより守備を意識し、時折5バック気味にまで後退するタスクを担う。
今季のマドリーJuvenil Aを牽引し、先日モロッコA代表にもサプライズ招集された左SBユシの攻撃力を警戒していることが見て取れた。

そんなミランに対してこの日マドリーが用いたアプローチは理に適ったものであり、そのキーマンを挙げるとすると3人。

ミランの守備ブロックとマドリーのアプローチ概略図

最初に触れたい選手は、この日前線で起用され、エースとしての活躍を期待されたパラシオス
普段は一つ上のカテゴリーであるカスティージャでプレーしている彼は、攻撃的なポジションであればどこでも器用にこなし、随所で煌めくプレーを魅せる天才アタッカー。
そんなパラシオスが偽9番としてライン間を回遊し、前半4分に左ポストをわずかに掠めたシュートや前半10分にドリブルで相手DFを手玉に取って放ったポスト直撃シュート等、立て続けに序盤の相手ゴールを脅かしたプレーは彼への警戒を醸成する“掴み“として完璧であった。

2人目はこの試合でスタメンに抜擢され、マドリーのボール循環の核を担ったポル・デュラン
線は細いが、テクニックとキック精度、気の利いたポジショニングで保持に貢献できる選手。
そんな彼を左サイド後方に配したところに戦術の妙がある。
前述の「偽9番パラシオスのライン間回遊で相手のドブレピボーテに対して背中側から認知負荷をかける」「ユシを警戒したスコッティは下がり気味」という状況、これによってポル・デュランは左サイド後方で浮くことができるというメリットを享受。
保持局面の拠り所としてチームの舵取りを託され、ボール循環に大きく寄与していた。

そして3人目は、ファイナルサードで違いを作った右SBのフォルテアである。
クロスや正対ドリブルを得意とし、基本的に高い位置を取ることを許され、右大外レーンのアイソレーションから崩しを担うことができる超攻撃的SB。
対面のミラン右SHシアの前残りもあり、基本的にサイドの高い位置でフリーに。
彼を目掛けた逆サイドからの展開やCBからのフィードで、右サイド深部を侵攻するプレーはこの試合で最も再現性の高い攻撃の形であった。
そして生まれたのが前半30分のPK奪取シーン。

マドリー1点目に繋がるPK奪取シーン

後方でゲームを作るポル・デュラン→ハコボ→ホアンと後ろで展開しつつ、相手守備ブロックを少し手前に誘引。
食いついて相手のラインが上がった状況下、ホアンから右サイド深部へのフィードが送られる。
ホアン→フォルテアの右サイドのフィードはこのチームの武器で、一気に相手陣内に攻め込むことができる有効な択。
ここでポイントなのが、前線3人は内側3レーン幅を担うこと。
これにより相手DFラインを横に圧縮することで大外でフォルテアvsマーニの1対1状況を演出できていた。
ボールを受けたフォルテアがボックス内に侵入しながら仕掛け、マーニに倒されPK奪取。
奪ったPKをゴンサロが左下隅に完璧に決めてマドリーが先制。

ミランのアシンメトリー守備ブロック構造に生じる浮いたエリアへ上手く選手の特徴とシステムを噛み合わせ、保持の機能性の担保と得点を奪うことに成功したマドリー。
実際、序盤からハイペースで進むゲーム展開の中で多くチャンスを創り出していたのはマドリーの方であった。

・敵の前ベクトルを逆手に中央スペースを活用した中盤戦

開始直後からミランの勢いのあるハイプレスを受け、落ち着かないシーンはあったものの、そんな時間を耐え忍ぶどころか上手くひっくり返してチャンスを作り続けた結果、大きな先制点を得たマドリー。
この日ミランが採用してきたハイプレス、つまり前ベクトルに強い相手の守備を逆手に取るプレーの効力は時間を追うごとに増していく。

前半38分のシーン

前半38分のシーンを例に。
失点後のミランは序盤のプランを継続し、人基準でマドリーのビルド隊に圧力をかけてくる。
しかし、試合中チーム全体で何度も高出力のプレスを継続することは至難の業であり、徐々に前後分断気味にミランの陣形が間延びしていた。
そこに刺さったのがゴンサロをターゲットにした空中戦で一気に盤面をひっくり返すシンプルなプレー。
前線ならどこでもこなせる点取り屋であるゴンサロは、身長182cmと飛び抜けて身長が高い訳ではないがジャンプ力とタイミング取りの上手さで空中戦に圧倒的な強みを持つ。
ミランの屈強なCBにも競り勝ちながらケトグラスのフィードを左サイドのユシに落としてゴール前への侵攻に成功。

そして前半42分に創り上げたこの試合最大の決定機。

前半42分のシーン

浮き球をハコボがヘディングで処理し、ボールは敵の中盤とDFラインの間にポジショニングしていたゴンサロへ。
ゴンサロはそのまま前を向いてDFラインに突っ掛け、彼に呼応するように逆サイドをスプリントしてゴール前まで到達していたウーゴへスルーパス。
受けたウーゴがこの日1番の決定機を得るも、GKラベイルに阻まれてしまった。
ウーゴは元々中盤の選手で、IHやピボーテもこなせるユーティリティを有していたが、今季CFを始めとする前線起用で20ゴール7アシスト(2024/3/14時点)と爆発
特にユシのクロスに合わせて点を取る能力は抜群で、今季のJuvenil Aの大きな武器。
しかし、クロスからゴールを脅かすシーンは観られず、上記のシーンのようにスプリントでゴール前までサボらず侵入できるアスリート能力は活きたが、最後の決定力の部分がついてこなかったこの試合は悔しい結果に。

相手のハイプレスの前ベクトルを逆手に取り、SBのトランジション性能や3トップのリンク性能を活かしてミランの中盤間延びスペースを刺すシーンが増えてきたままハーフタイムを跨ぐ。

この展開の中で1つ気になった点を挙げると、右IHを務めたメソの存在。
彼もゲームを読む目に優れ、左足から放たれるキックパターンも多彩なチーム随一のテクニシャン。
この試合で最序盤に見せたサイドチェンジの質も非常に高く、非保持でも相手のアンカー位置の選手を監視する重要なタスクを担っていた。
しかし、トランジションが増えてくる試合の中で、アスリート能力の部分で少し厳しい展開に。
フォルテアが単騎で効いていたことやゴンサロがCFチックな動きをして距離間が遠くなる関係上、同サイドの彼らと連携できるシーンが少なく、彼が活きる細かいスペースを崩すシチュエーションも減っていたため、脇役に留まらざるを得ない試合になってしまっていた。
上手く彼を活かすリレーショナルなユニット構築もできれば。
アルベロアはマドリーの監督らしくそのようなチーム作りは寧ろ得意分野であるように見受けられるため、今後の期待要素としたい。

・追いつかれ耐え忍んだ先で足りなかったもの

前半はそれなりにチャンスを作り、今大会の優勝候補ミランに対して勇敢な闘い振りをみせたマドリーだったが、後半51分にシアの個人技から突拍子もないまま同点に追いつかれる。

同点に追いついた後のミランは守備で少し重心を落としたブロック形成を意識
攻撃に移った際には、カマルダへのロングボールをシンプルに利用し、中盤と前線を軸にトランジションゲームに持ち込んでくる。
皮肉なことに、ここまでマドリーが優位性を取ることができたプレーに似たようなことを返されているような状況。
予測守備に優れ、アンカーとして相手の攻撃を食い止められる守備的MFクリスティアンが奮闘するシーンはあれど、やはり自分達も気づかない内にネガティブトランジションは緩くなっており、中盤で後手を踏むシーンが目立つ。

追いつかれたという心理状況と相手守備ブロックの後退。
その結果、終盤にかけてマドリーは徐々に押し込む時間が増えてくる
しかし、その分SBを高い位置に開放するリスクやDFリーダーであるハコボの負傷交代も相まって、自ら上げた(上げさせられた)最終ラインの高さが首を絞める。
後半81分の被決定機のシーン。

後半81分のシーン

ユシのパスをカットされたところから、左寄りのまま守備陣形が整ってない状況で即時奪回を狙ってしまい、カウンターを受ける。
晒されたハイラインの裏をダイレクトプレーで狙われ、なんとかホアンがゴール前のスライディングブロックで事なきを得たが、失点していてもおかしくないピンチであった。
ハコボとホアンのCBコンビは両者共に守備のカバー範囲が広く、攻撃的SBを両サイドに配置するJuvenil Aの攻撃を支える屋台骨
前者が負傷交代後のホアンの奮闘は特筆すべきであり、彼がいなければ勝ち越されている可能性があったほど。

再度勝ち越したい攻撃に目を向けても、押し込んだ後、屈強な選手が揃うミランのDF陣を崩す術を持ち合わせておらず、ユシの不調もあって武器のクロス攻撃の試行回数も重ねられないまま徒に時間は過ぎていく。

そのまま1-1で後半が終了し、PK戦に突入。
マドリーは2人がPKを失敗し、絶体絶命の状況でケトグラスが1本セーブして望みを繋ぐも、ミランはそれ以外の4人が確りPKを沈め、マドリーのベスト8での敗退が決まった。

押し込んだ先の展開、スタミナが切れてくる時間帯でのゲームコントロール。
そして何より不意に外し続けた決定機と左サイドの機能不全。
皮肉にも、中盤を支配しキャプテンとしてチームを引っ張るマヌ・アンヘル、左ハーフレーンでボールを引き出しゴールへ向かう姿勢とシュートスキルで攻撃に違いを見せられるイケル・ブラボの2人の不在を改めて痛感させられる悔しい結果に。
チーム全体のゲームプランに落ち度はなかっただけに、“試合中と言うより試合後に“属人的な部分で足りなさを感じさせられる試合になったことも印象的であった。

・まとめ

ミランの守備に見出した隙を上手く突きつつ、序盤からアグレッシブで魅力的なサッカーを展開していたJuvenil A。
相手の手が届かない位置に置いた保持起点、サイドで優位性を押し付ける、トランジション局面にも負けず寧ろ相手を飲み込む時間さえ作って見せた。
しかし、ブラボとマヌの不在が大きかったことは事実。
前半には何度も決定機を創出した、そのどれかが決まっていたら。
後半相手のペースに嵌った時、誰かが落ち着きをもたらしてくれていたら。

アルベロアが作り上げた今季のJuvenil Aもそれぞれの特徴を上手く掛け合わせ、一見ピーキーな構造をしているようでバランスの取れた良い陣容。
アルベロアはマドリーの監督らしく、選手それぞれに合わせたユニット構築やポジション配置を自然な形でピッチ上に発現させることができる素晴らしい監督であることは確かである
この大会を経て今後どのようなチーム作りを継続していくか、期待しかない。

優勝候補相手に勇敢に、自分達が“今“この試合に持てる力を出し切って立ち向かう。
何も間違ってなかった、何も間違ってなかっただけにとても歯痒い。

・おわりに

今季のユースリーグ、本当に期待してたんですよね。
最強のJuvenil Aを創り上げたアルベロアが昨季唯一黒星を喫した大会で1年越しのリベンジを果たす画を本当に観たかった。
この大会に臨んだ選手達は皆今後も輝かしいキャリアを歩んで行くと確信してはいるのですが、トップチームの壁の高さを理解している分、このメンバーの中から駆け上がっていける選手はひと握りだと思うと途端に寂しさが襲ってくる。

稚拙な文章、お読みいただき誠にありがとうございます。

※画像はTACTICALista様、Álvaro Arbeloa公式Instagram様を使用しております。

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