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『どぶさらい人生/山田晶造』

 去年の秋にyou tubeで聴いた「ひさんなクリスマス」をきっかけに俺の中で北園みなみフィーバーが一挙に高まった。  

「なにこの才能!」

 過去に某誌でレビューしたこともあり、北園みなみの存在は知っていたが、ここまでとは思わなかった(ちなみにその時は、キリンジやハイラマズを引き合いに安易なレビューを書き散らした記憶がある。「架空のサントラ」みたいなありがちなことを)。
 アマゾン・プライムやスポットなんとかに北園みなみの過去作が3作フルで置いてあったこともあり、毎日それしか聴いてないんじゃないかってくらい北園みなみにトリコじかけ明け暮れだった。しかし肝心の北園御大は名前を変えてしまい、lampなどのアレンジで気を吐いているものの、どうも本人の活動は沈静化してしまった御様子。

「やはり天才は認められないのか?」

しかし遂に北園先生はトリオの新バンドを結成して再始動するという! そのバンド、orengeadeを検索していて、soundcloudで山田晶造の「どぶさらい人生」なる曲を発見した。

「誰、それ?」

最初は「似てる別の人だろ、声が違うじゃんw」と思ってそんなツイートもしたが、聴くほどにこれは北園みなみその人なのであった(我ながらいい加減)。「どぶさらい人生」て、根本敬や山野一じゃないんだから、と思ったが、これが華麗なメロディやアレンジこそ北園サウンドだが、歌詞が正に「どぶさらい」な世界なのだった(山野一に『どぶさらい劇場』ってコミックスがあるが、北園先生は多分、知ってると思う)。もとより、北園みなみの歌詞世界はシニカルでコミカルで一筋縄ではいかない非常にひねくれたものだが、そのひねくれ具合はクールなので一見わかりにくい。そうした陰の北園成分がここでは前面にぐわっと出てきている(入念に作りこまれたメジャー作と違いアレンジもどこか適当で雑。勿論そこがいいのだが)。
一番の歌詞を引用する。

「近所でゴミをあさっておりますと 知らない奴らに乞食と呼ばれた
生きるだけでそれが儲けもの だけど苦しいのはホントに御免だよ
(なんで言わないんですか?)(女セリフ)
お願い誰か 遠い知らぬ場所へ連れて行って
この際 極楽浄土で結構よ」

「何、この山野一感」

極楽浄土で結構よ、て、それは死んだほうがましというココロか。

二番の歌詞を引用する。

「居酒屋の裏で喧嘩をしまして 右足やあごを骨折しました
たとえ俺が死んで泣く奴は 貸した金が返らぬことを悔やむから
お願い誰か 遠い知らぬ場所へ連れて行って
この際 極楽浄土で結構よ」

 ますます悲惨。ションベンくさい暗い路地で倒れ、うめいている主人公の姿が目に浮かぶ。そして「俺が死んで泣く奴は貸した金が返らぬことを悔やむから」なんて、なんて悲惨なアイロニーだろう。そして主人公は、ここではないどこかを強く切望している。それは極楽浄土しかないのか?
 
 オサレで洗練されたサウンドに悲惨でエグい歌詞(サビの転調が素晴らしすぎる)。かわいいファンシーな絵柄で根本敬や山野一みたいな漫画。そんなものを俺はずっと待っていた気がする。そして話題の新バンド、orengeadeの音は、まだ全然聴いたことがないのです。

https://www.youtube.com/watch?time_continue=10&v=c3MI-j7A1I4

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