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名前の由来

毎日自宅から25分ほど歩いて仕事場まで通っている。仕事場は、ある駅のすぐ近くにある。どのくらい近くかというと、わざわざ改札を通って出るより、ホームから直接仕事場のドアまでジャンプしたほうが早いくらいだ。

仕事場の屋号はペンスチという。

よく宅配便や手紙の宛先に、ペンスケとかペンステとかベンスチとか書かれていることがある。すべて間違いである。

かつて誰も聞いたことがない単語、音なので、意味もわからないし、間違えられるのも無理はない。実はペンスチは正式名称をPen Still Writesといい、その最初に付けた英名を略したものなのだ。

僕は日常の筆記用具としてはボールペンを使用している。文字を書くときもアイディアをスケッチするときも、ボールペンしか使わないと言っても過言ではない。そして、もう長いことモンブランを愛用している。インクはPacific Blueという青いインクだ。ちなみにここでいうボールペンとは、いわゆる昔ながらの油性ボールペンのことであって、ローラーボールやゲルペンではない。

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高校生の頃までは、授業でノートをとるのにまだシャーペンを使っていたと思う。しかし、大学に入ってからはボールペン一筋だ。

友人の一人がいつも同じボールペンを使っていて、それに感化されたこともあるのだが、シャーペンや鉛筆だと書いた文字が擦れたりしてノートが汚くなるのが気に入らなかったのだ。鉛筆だと消しゴムの存在が気になってしまうのも面倒である。

ボールペンの良いところは、耐水性なので水分でインクが滲んだりすることがないこと、筆圧によって濃さを変えられるところだ。薄くアタリをとってから清書するようなこともできる。これは万年筆やローラーボールには難しい芸当だ。

逆に不満な点は、その仕組み上、たまにペン先にインク溜まりができて、紙を汚したり、書きづらくなったりすることだ。

こういう弱点があるので、ボールペンはいろいろな種類を試した。

最初は使い捨ての安い普及品を使っていた。やはり安いものはインク溜まりができやすい気がした。かといって高いブランド品だとそのような不具合が出にくいかというと、そうでもない。一時期クロスというブランドのボールペンを愛用していたこともあったが、やはりインク溜まりがよく発生することに業を煮やして、使用を停止した。

ブランドとしてはカランダッシュも好きだ。鉛筆のような形をした六角形のボールペンは造形的にも非常に好みで、ノック式であるところもよい。ただ、自分には小ぶりで握った感じが少し細すぎる印象である。

そうして行き着いたのがモンブランのボールペンというわけである。重さと太さがちょうどよい。モンブランも以前はけっこうインク溜まりができて、それはボールペンの宿命なのでもう仕方ないのだろうかと諦めていたのだが、最近は技術が進んだのか、気のせいか、あまり発生しなくなった。

筆記用具の王様としては、万年筆も大変魅力的なのだが、人間界に馴染めず、おどおどするあまり毎日を手に汗握る緊張感の中で生きている者としては、汗でインクが滲むのでダメなのである。

万年筆ファンならば、新作や旧作をコレクションしてみたり、いろいろな色のインクを試したりという愉しみ方があるところも羨ましい。ボールペンをコレクションしている人というのはあまり聞かない。筆圧が必要なので疲れるからむしろ好まないという人もいる。やはり万年筆と違って、永遠にマイナーな存在なのだろう。

とはいうものの、古いものが好きな人間としては、何か面白そうな出物がないかとeBayで検索してみたりする。ボールペンといえどもビンテージ品がいくつも見つかる。そしてアイテム説明のところによく、"The pen still writes"と書かれていることがある。これはつまり「このペンはまだ書けます」という意味だ。

この「まだ書ける」と言われているボールペンが、もうだいぶくたびれてしまったけど、まだかろうじて現役のイラストレーターとして使い道がありますよと言いたい自分自身のようで、それを屋号にしたのである。

これがペンスチという名前の由来である。

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