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電車に感じた心意気(絵本『のっていこう』より)

 子どもの頃の僕にとって、乗りものといえば遊園地のジェットコースターやウォータースライダーでした。乗ったと思ったら、あっという間に終わってしまうものの、その短い一瞬に楽しさや怖さが凝縮されていて、子ども心に人生の儚さを感じたものです。
 でも、そんなあっけないものに乗るために、その何十倍もの時間を並んで待つのは、それこそ人生の縮図のような気がして、子ども心にとても理不尽に思っていました。
 さて、この本に登場するような、自動車や街の公共交通機関はどうだったかというと、実はあまり好きではありませんでした。自家用車は酔うから嫌いだったし、バスは酔うから嫌いだったし、船は酔うから嫌いだったし、飛行機は子どもだから乗ったことがなかったし。唯一電車だけは、レールにのっかって走るんだぞ、駅もあるし、その辺のバスや船とはひと味違うぞ、という心意気を感じたせいか、まあまあ好きなほうでした。
 そんな、どちらかというとネガティブな印象の多い乗りものですが、何故か存在や造型にはとても興味がありました。一番好きだったのは0系新幹線で、蚕の幼虫のような愛嬌のある顔をした先頭車両や、角が丸くなっていて窓が開かないところや、側面の下の方が内側にカーブしている様子や、白と青の潔い配色など、やはり新幹線ばかりは別格という感じがしました。東京駅という新幹線の根城に近づくだけで、胸の高鳴りをおぼえたものです。
 そう、乗ることよりも見ることのほうが好きだったのです。そんな質だったからか、今はイラストレーターとしてこうして乗りものの絵を描いたりしています。もし、乗るほうが好きだったならば、運転手かパイロットになっていたに違いありません。

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