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アイシールド21の話

 僕が一番好きな漫画のひとつだ。実は近年までそう思っていなかった。 
 「確かにめちゃくちゃ好きな漫画だけど、本当に一番好きな漫画って言っていいのか?」という迷いがあった。でも間違いない。僕が一番好きな漫画だ。スポーツ漫画のオールタイムベストに入る。僕の世代だと、スラムダンクではなくアイシールドが選ばれるのは珍しいかもしれない。

 本題に入る前に、先に余談を話しておく。
 僕はセナ鈴推し後方気ぶり理解者面腕組みおじさんである。疲労困憊のセナが気を失い寄りかかってきた時の鈴音が可愛いとか、セナが白秋のマネージャーから手紙貰った時の鈴音が可愛いとか、理由はいろいろある。
 でも一番大事なのは、「セナがカッコいいと知っている鈴音」という構図が良いのだ。そう、セナはカッコいいのである。

 というわけで、小早川瀬那というカッコいい男について話す。

 アイシールド21はアメフトを題材にしたスポーツ漫画で、小早川瀬那はその主人公だ。いじめっ子にずっとパシリにされてた気弱な少年である。

 僕がアイシールド21を好きな理由は、魅力的で個性的なキャラがいっぱいいるからだと思っていた。でも違った。これが「挑戦者」の物語であるからだ。魅力的で個性的なキャラは全員、何かに挑まんとする者だった。
 主人公であるセナも、それを体現するひとりだ。
 彼には「走りの才能」を与えられており、一見すると恵まれた側だ。その強力な武器を使い、最初の練習試合では大勝利を収める。しかし続く公式戦の一回戦で、圧倒的な総合力を持つライバルに叩きのめされ、敗れる。

 しかし、残り時間的に負けが確定した後も、セナはライバルとの直接対決を望む。今まですべて彼にブロックされてきたが、何かが少し見えてきた。もう少しで彼を抜いて、点を入れられそうな気がする。
 この点は、いまさら試合の結果を左右しない。でも、そうしたい。挑んでみたい。挑んで、彼に勝ちたい。

 セナが、正しくアメフト選手として目覚めたのはこの瞬間だろう。
 同時にこのシーンでは、ただ漫然とトライすることが挑戦ではないという、シビアな価値観も提示されている。そこに「勝つ」という意思が無ければ、挑むとは言えない。
 これはめちゃくちゃ残酷な話だ。あらゆる現実をねじ伏せた上で「勝つ」という意思を抱くことは困難である。人間は保険を張りたがる生き物だ。「勝つ」という意思に反して負けてしまったとき、その重みに耐えられなくなるからである。

 でもセナは「挑む」ことをやめない。小市民だった自分の力が、通用する世界がある。その事実が、言ってしまえば彼を「つけ上がらせた」のだろう。でも、その世界にどうしようもなく惹きこまれてしまったのだ。
 僕の感じるセナのカッコよさの根本が、ここにある。
 セナがカッコいいシーン自体は実に無限にあって、アメリカ編のチケットを破り捨てるところがやはり一番好きなのだが、あれも彼自身の魅力が確立しているからこそ際立つ場面だ。

 おそらく、「挑戦」は僕がヒーローに求める要素のひとつなのだろう。
 以前僕は、悪役の「変化の不受容」が好きだという話をした。変化を受け入れない悪役は、挑戦をしない。だから、そこに好対照として、「挑戦者」であるヒーローが映える。
 もっとわかりやすく言えば、「前に進むもの」と「停滞してしまったもの」だ。題材としては普遍的かもしれないが、言語化することでだいぶすっきりと飲み込みやすくなった。

 いいぞ。まとまってきたな。
 こうして自分が好きなものをひとつひとつ暴き出していくのは、なんだか気分がいいもんだ。

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