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虚勢の話

 このnoteを書き始めて、好きなヒーローの条件というものを少しずつ言語化することができてきた。僕はヒーローに対して、「再起と挑戦」という要素を求める。何度打ちのめされても立ち上がる姿がカッコイイのだ。
 そしてそれは、「大切なものを維持するためにコストを省みない努力」にも通じるところがある。ライオスや宗介がそうであるようにだ。

 今回は、「必須ではないけど、こういう要素があるのも好きだな」という要素について語る。それが虚勢だ。虚勢を張るヒーローが好きという話だ。

 好きなヒーローについて語る話もそろそろ〆に入ろうと思っていて、僕は左翔太郎について言及するつもりでいた。「仮面ライダーW」「風都探偵」の主人公。特撮界でもっとも帽子の似合う男のひとりだ。
 先に翔太郎について話していこうと思う。

 翔太郎のことは昔から好きだった。似たような類型に「スパロボW」のカズマ・アーディガンとかがいて、ぼんやりと思っていたのは「カッコつけたがりコメディリリーフだが決めるときは決める主人公」が好きなのかなということだ。
 でも、それだとどうにもしっくり来ない。言語化として正確ではないような気がしていた。「決めるときは決める」は主人公としては当然の要素で、「コメディリリーフ」は「カッコつけたがり」に付属する要素だ。なのでもっと、「カッコつけたがり」に対する解像度を上げる必要がある。

 左翔太郎は、もともと街の悪童だった。そんな彼が憧れていたのが、探偵の鳴海壮吉――「おやっさん」である。おやっさんは男の美学を煮詰めたような性格のハードボイルドな男で、かつ人情と仁義にも篤い。いろいろあって、翔太郎はおやっさんの探偵事務所で、助手として働くことになった。
 翔太郎はおやっさんの真似をしてハードボイルドを気取るが、おやっさんは翔太郎の未熟さや甘さを見抜いて窘めたりする。その象徴のひとつが、「半熟に帽子は似合わねえ」というセリフだ。
 ある日、おやっさんはとある危険な依頼を引き受ける。街を裏から牛耳る組織の研究施設に忍び込み、実験体の少年を救出するというものだ。そしてその任務のさなか、翔太郎のミスをフォローするために身を挺して彼を庇い、命を落とす。
 今わの際に、おやっさんは自身の帽子を翔太郎に託す。翔太郎は、おやっさんの帽子と探偵事務所を引き継ぎ、探偵としての活動を始める。

 翔太郎もスパロボWのカズマも、カッコつけたがりの背景には「憧れ」がある。翔太郎は「おやっさん」。そしてカズマは実父だ。どちらも偉大な存在であり、そして彼らにとっては失われた存在でもある。
 頼れる偉大な存在を失ったことにより、未熟な主人公はそれを埋めるために背伸びをしなければならなくなった。そういう、少し痛々しい状況だ。コメディっぽく誤魔化してはいるが、こう考えてみると状況は深刻である。

 何しろそうした背景でカッコつけをしているものだから、心の根っこの方では劣等感というか、自己評価の低さみたいなものがある。まだまだあの背中には届かないという気持ちがあって、それでも大切なものを守るために虚勢を張り続ける。
 おやっさんから帽子を託されたときの、「俺にまだ帽子は早ぇよ!」という悲痛な叫びが、翔太郎の本音だったはずだ。

 こうした虚勢キャラの良いところは、その虚勢が、本人の知らぬ間にホンモノになっていくことだ。左翔太郎は、間違いなく街のヒーローであり、確かにおやっさんには似ても似つかない「半熟」だが、決して「半人前」ではない。
 劇場版において、翔太郎は一瞬だけ、並行世界のおやっさんと出会う。そのおやっさんは翔太郎のことを知らないが、彼の帽子を「似合っている」と評価する。翔太郎は心の底からの快哉を叫ぶ。

 仮面ライダーWのメインライターは、「ダイの大冒険」などでも有名な三条陸氏だ。僕はマンガ好きの友達にWを勧めるとき、「ポップが主人公の話だよ」と言っている。
 僕は、おそらく翔太郎とポップは同じスキルツリー上に発生しているキャラだと考えている。大魔導士ポップも翔太郎と同じく、虚勢を張り、大口を叩き、それをいつの間にかホンモノになったキャラだ。

 最初に言った通り、「虚勢」は僕がヒーローに求める絶対条件ではない。だが、主人公が努力し挑戦し、それが報われるプロセスの味付けとしては、かなり大きな効果を持つスパイスだと思う。
 何より、未熟な主人公が、己の弱さを必死に隠して自分を大きく見せようと振る舞うこと。その姿は紛れもない勇気の象徴だし、僕の好きな「挑戦」を体現するものだ。

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