記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

コナン映画とカッコいい大人の話

 春になるとコナン映画が上映され、それに合わせてサブスクで過去のコナン映画が解禁される。自然と、この時期になると「久々にコナン映画を見たんだけど~」という人間が増える。僕もそうだし。
 一年通して視聴できたほうが嬉しいのだが、制作側としては、定期的に話題に上がりやすいこの方式の方がメリットが多そうだな。僕も制作側の思惑に乗っかって、コナン映画の記事をいっぱい書こうと思った。

 僕が友人とコナン映画を見てたびたび話すのは、「コナン映画はその道のプロに敬意を払っている」ということだ。
 もっと言えば、プロフェッショナルの専門性に真摯な作品だと思う。ヒーローであるコナンが、(もちろん子供だからというのはあるだろうが)なんでもかんでも解決しない。
 登場してくるプロたちは、ただ技量や知識に優れているというだけではなく、それぞれの職務に高いプライドと強い責任感を持ち、己の持つ善性に従って職務を全うする。誰も彼もが非常にカッコいい大人だ。こういう作品、意外とないんじゃないかって思う。

 というわけで、独断と偏見による「カッコいいプロの登場作品」ベスト3を発表する。



16作目『11人目のストライカー』

 コナンの大好きなサッカーをテーマとして扱った映画だ。サッカースタジアムに設置された爆弾を巡る騒動であり、本人役で登場する実在のサッカー選手たちが色んな意味で話題を呼んだ。
 いろいろとネガティブな意見も多い本作だが、シナリオが大きく破綻しているわけでもない。困惑の声が多いのは、実在サッカー選手のインパクトが強いだけなんじゃねぇかなと思っている。
 でも、キング・カズの扱いはめちゃくちゃ良いし、ちょっと感動しちゃった。なんだかんだ言って世代だからかな……。

 もちろん本作には、フィクションのサッカー選手も多く登場している。実在だろうがフィクションだろうが、一切の垣根なく「プロサッカー選手」として敬意を払っているのが、本作の良いところだ。

 中盤、犯人が10ヶ所のサッカースタジアムに爆弾をしかけたことが判明する。該当する各スタジアムのホーム側のストライカーが、ゴールポストにボールを当てれば爆弾を解除するという通達があり、当然、それを観客に知られずに実行しなければならないという重いミッションが、各チームのストライカーに課せられる。
 この、突然観客数万人の命を背負わされるプロサッカー選手たちの重責は、決して長尺ではないもののしっかり描かれる。そして、彼らはプロなのでこのミッションを確実にこなしていく。

 同じ日にJリーグの試合が行われているスタジアムなので、関東に集中しているということもないだろうし、犯人は北海道から鹿児島まで全部のスタジアムに行って爆弾を仕掛けたのかなぁ
 犯人の動機と犯行が釣りあっていないのはこの頃のコナン映画の特徴だが、メインキャラのフォローなどにはちゃんと気を配っている。なので、大きな引っ掛かりはなく楽しめたし、やはりプロサッカー選手の描き方がカッコよくてとても好きだ。

 個人的には、冒頭で登場し、ビッグマウスと軽薄な口ぶりで印象に残った真田というキャラが、重責に向き合いながらも「自称エースストライカー」としての矜持を果たそうとするシーンが好きだ。上映後、女性ファンがついたらしいが、むべなるかな。

17作目『絶海の探偵』

 海上自衛隊とイージス艦をテーマに扱った、スパイアクション要素の高い映画だ。コナン映画なので一応殺人が起きるが、謎の主題は「イージス艦にスパイが潜り込んでいるのでは?」という疑念に置かれている。見慣れた阿笠博士の発明品が完全にスパイの秘密道具みたいになっているのが面白い。

 本作は一貫して、海上自衛隊のメンバーを、格の高いプロフェッショナルとして描写していた。公開演習中のトラブルを、客に悟らせずに解決するシーンに始まり、「国家と国民を守るため」という自衛隊のプライドに忠実に描かれている。
 事件は一般参加客向けの体験航海中に起き、事件の発生を受けて目暮警部を始めとした警視庁おなじみの面子も乗艦するのだが、自衛隊がその特殊性ゆえに情報開示を渋るシーンのピリつき方も良い。双方がプロであるが故の緊張感という奴だ。
 そして、ここで小五郎のおっちゃんが感情的になった自衛官を諫めて、「協力し合おうじゃねぇか。日本のためにな」と言うのだ。この作品のおっちゃんは、「イージス艦で死体が発見された時に検死を行い、生活反応に言及する」という元刑事らしいムーブもしており、こちらもプロとして尊重されている。

 この映画のクライマックスは、海に落ちてしまった蘭の救出だ。しかも海に落ちたのが推理パート開始のずっと前。イージス艦に置き去りにされ、だだ広い海のド真ん中を、救命胴衣を着たまま漂う蘭という、絶望感の高いカットが挿入される。

 海上自衛隊のキャラたちが一番カッコいいのはここからだ。
 海に落ちたひとりの少女を救うために、日本最高峰の自衛官たちが、名無しからモブに至るまでベストを尽くそうとする。艦の急旋回、その際の緊急アナウンス、潮の流れの計算、哨戒ヘリの出動など、自衛隊全面協力だからこその解像度の高い描写が挟まる。
 ここで大事なのは、コナンが「僕も(ヘリに)乗せて!」と言って、目暮警部に止められるところだ。警部も「自衛隊の人を信じて」などとは言わず、「子供がいたら足手まといになるだけだ」とハッキリ言うのが良い。コナンの焦りと無力感が描かれている良いシーンなのだ。

 日没というタイムリミットが近づく中、捜索は難航する。絶望的かと思われた状況で、コナンが捜索のヒントになるようなことを思い出して、口にする。
 ここで、「それはどういうことだ?」という悠長な疑問を挟むキャラが誰もいないのが、地味に良い。艦長は一瞬でコナンの言うことを理解するし、電波技師に「できるか?」とだけ聞く。電波技師は「やってみせます」と答える。

 ここから蘭を見つけて救助するまでの流れも良く、自衛官のキャラひとりひとりがベストを尽くしている様子が描かれている。蘭が見つかった瞬間に大喜びするモブ自衛官も良い。

 話題に上がることの少ない本作だが、僕と友人の評価は高い。他のコナン映画に比べるとやや地味だがソツなくまとまり、エンタメ的にも完成度の高い一作だと思っている。
 カッコいい大人もいっぱい出て来る。ミリタリー好きも楽しめるんじゃないかな。おすすめです。

1作目『時計じかけの摩天楼』

 コナン映画と言えば、クライマックスの良い感じのシーンでかかる「キミがいれば」だ。最近はかからないことも方が多いけど、初期の映画ではそういうイメージが強かった。
 じゃあ、記念すべき1作目ではどうだったのかというと、コナンなど1ミリも映っていない、モブおじさんとおっちゃんと目暮警部が顔を突き合わせているシーンで流れるのである。

 中盤、犯人が東都環状線(山手線)に爆弾を仕掛ける。爆弾がどこにあるのかも、その解除方法もわからず、犯人から伝えられた起爆条件を満たさないよう、すべての電車が時速70kmで走り続けるしかない。
 そんな中、コナンは爆弾が線路に仕掛けられていることに気づき、目暮警部を通じて、すべての列車を環状線の外の線路へ逃がすように要請する。

 この一連のシーンでは、東都鉄道の運行部長、中央管制室のモブ職員たちの描写に、異様な尺が割かれている。描写の細やかさは「絶海の探偵」の方が圧倒的に上なのだが、誰も彼もが、「このシーンにしか出てこないモブおじさん」なので、妙に印象に残るのだ。
 そして環状線全列車の避難を始めさせるシーンで、あのアツい前奏と共に「キミがいれば」が流れる。「真剣に仕事をしてるおじさんってカッコいいだろ?」という強烈なメッセージを感じるほどだ。

 ちなみに、カッコいいのは東都鉄道の職員たちだけではない。この後、「あとは我々の仕事です」と言う目暮警部もカッコいい。
 線路に仕掛けられた爆弾捜索の指揮を執る警部が、爆弾の特性を伝えて捜索班のメンバーに注意を促すシーンは、ディティールがとてもしっかりしていて印象的だ。
 当時は映画に登場するキャラも少なかったから、こうした細かい部分に割ける尺が多かったのだと思う。特に、今では高木・佐藤、赤井、安室、FBI、灰原、服部あたりがやるような役どころを、小五郎のおっちゃんと目暮警部、そして白鳥刑事の3人で回していたわけでもあるし。

 この「キミがいれば」のシーンは、他の作品で見たいものではないし、やはりメインキャラの活躍場面にこそ流してほしい曲ではある。だが、この一作目だからこそ出来た無茶は、間違いなく本作トップクラスの名場面だ。

 ちなみに本作では、犯人が使用する爆薬の出どころがハッキリしている。どこどこから盗まれたというニュースがあり、それを前提に話が進むのだ。やはり一作目だから、「お約束」化されておらず、いろいろと気を使ったんだろうと思われる。
 次回作でも派手に爆弾が使用されているのだが、すでに爆薬の出どころについては語られなくなってしまった


 コナン映画に登場するプロフェッショナルについて語ってきたが、僕は、割とプロに限らず、コナンに登場するモブの民度は高いと思っている。
 やはり主人公が非力な小学生ということもあってか、割と手を貸してくれるモブや、巻き込まれたコナンの無事を祈ってくれるモブが多い。僕はコナン映画のこういうところが好きだ。
 一部の映画はミステリー的な犯人捜しの要素を膨らませるため、疑いをかけるためだけの名有りキャラが多めに登場したりするのだが、犯人にも被害者にもならない人はだいたいみんないい人である。僕はモブがいい人だと、人間の善性に触れた気分になってとても嬉しくなる。

 これは決して作品のメインの要素にはなり得ないし、するべきではないが、作品を作る時には気を使えたらいいなと思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?