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空手について解説してみる ~東京オリンピック観戦のススメ~

空手についてどこまで知っていますか?

色々と言われながらも東京オリンピックが1年の延期を経て開催され、そして盛り上がりを見せています。

スポーツ観戦が好きな自分としては、中止かなと思っていた中でせっかく開催されたんですから、時間が許す限り楽しんでいるような状況です。


多くの競技で日本人がかなりの活躍を見せていますが、その中でも特に柔道は凄いですね。

阿部兄妹の同日金メダルや大野将平選手の2連覇など、本当に素晴らしい事だと思います。


柔道が大盛り上がりを見せる一方で、日本が誇るもう一つの武道である「空手」も今回のオリンピックの種目になっている事をご存知でしょうか。

空手は、8/5(木)~8/7(土)の3日間に掛けて、型(※)競技と組手競技が行われます。

(※今回採用されているルール的には「形」という表記ですが、この記事では敢えて「型」の表記で統一しています)

https://sports.nhk.or.jp/olympic/schedules/sports/karate/

もちろん柔道と同様に空手も日本にはメダル候補の選手が多く、かなりの活躍が期待できるはずです!


ところで、この記事を読んで下さっている皆さんは、空手についてどこまで知っているでしょうか?

空手を「知らない」という人は、まぁまずいないとは思います。

しかし、経験者以外で「試合をしっかり見た事がある」という人はどれぐらいいるでしょうか?

そして、空手の中でも流派や会派によって内容やルールがかなり異なり、今回のオリンピックで採用されているのはその一部でしかないという事は、どのくらいの人に伝わっているのでしょうか?


この記事では、そんな知っているようであまり知らない、空手についての「基礎知識」的な部分を解説していきます。

これが少しでもオリンピック観戦の助けになれば幸いです。


そもそも、空手って何?

何故、稽古内容やルールが違うものが「空手」と一括りにされているのか、というか空手とは一体何なのかを少し説明したいと思います。


空手の源流を辿ると、琉球王朝時代に沖縄で形成された「手(ティ)」という武術に辿り着きます(更に遡れば中国の拳法などに行きつくようですが…)。

まずこの琉球時代の「手」は地域ごとに特徴がある程度分かれていて、現在で言うところの「流派」のような厳密な分類では無かったようですが、そのまま地名から「首里手」「那覇手」「泊手」と大きく分けて3系統の「手」があったと考えられています。

つまり、琉球時代の「手」の時点でそもそも1つではなかった訳ですが、琉球王国が日本に吸収され、そして本土に「手」が伝わる際に、更に複雑な流れになります。

統一の組織や体系では無かったそれぞれの地域の「手」が、同時多発的に日本の各所に伝わっていき、そこから更に細かく枝分かれなどを起こしてしまったのです。


この空手の「様々な系統がそれぞれに広がる事で普及していった」流れは、統一団体を作る事で普及に成功した柔道や剣道と比べると違いがよく分かります。

柔道(講道館柔道)は、嘉納治五郎が様々な流派の柔術の理合いを独自に纏めた技術体系です。

剣道は、各流派同士が流派の垣根を超えて試合を行っていたものを、大日本武徳会が統一の試合規定を定める事で競技化したものです。

空手は、様々な体系のものがそれぞれ独自に広まっていき、その中で更に細分化されていったものです。

つまり、その普及の流れや「統一団体」が無いという状況からして、「同じ空手と言う呼称なのに稽古内容やルールが違う」というのは、ある種必然とも言えます。


そんな「統一されていない」現代の空手ですが、敢えて定義づけるなら「琉球時代の武術『手』を起源・源流とし、日本で広がっていった武道」と言ったところでしょうか。


どんな空手があるのか

琉球時代の「手」にはいわゆる「試合」は基本的に存在しませんでしたが、本土に伝わって普及した「空手」は「組手試合」と共に発展していったと言っても過言ではありません。

現代に伝わる空手にはどんなものがあるのか、「組手試合のルール」で大別した5パターンの空手を紹介したいと思います。


①寸止め空手

最も広く普及しているのがこの寸止め空手です(「伝統空手」や「伝統派」と呼ばれる事も多いですね)。

高校や大学の部活で空手と言えば、ほぼ間違いなくこの寸止め空手です。

読んで字の如く、「安全性のために当てない」寸止めで打撃を繰り出し、その技が有効打となるかを審判が判断してポイントが加算される、ポイント制で試合が行われます。

今回の東京オリンピックで採用されているのもこの寸止め空手です。

打撃を当てない事から「実戦性が無い」と揶揄される事もありますが、その想像以上のスピード感や昔ながらの間合いの駆け引きは、決して簡単に馬鹿にできるような代物ではありません。

代表的な流派としては、四大流派と呼ばれる「松濤館流」「剛柔流」「糸東流」「和道流」が挙げられます。


②フルコンタクト空手

未経験者の知名度ではもしかしたら寸止め空手以上なのが、大山倍達が設立した極真会館から始まったフルコンタクト空手(通称「フルコン」)です。

試合は直接打撃制、つまり寸止めと違って実際に当てる、そして「倒す」事を目標としています。

細かいルールは色々とありますが、ざっくり言えば「3秒以上のダウンで一本勝ち」、「3秒未満のダウンで技あり」、「技あり2つで一本勝ち」、そして「拳での顔面への打撃は禁止」と言った感じです。

顔面への突きが禁止な事、そして結局は体が頑丈な事が有利になる点が「武道ではなく我慢比べ」と言われたりもしますが、「相手を倒す」という事に主眼を置いて築き上げられた技術体系はやはり凄いものです。

起源である極真会館、そしてそこから派生した多数の団体が存在します。


③防具付き空手

歴史的には前述の寸止めやフルコンよりも古いのがこの防具付き空手です。

上段(頭部)と中段(胴体部)に防具を着用し、その防具への打撃を有効としてポイント制で試合が行われます(剣道の試合がイメージとしては近いと思います)。

防具を付けているので全力で打ち込んでもケガの心配が少ないのが最大の特徴であるのと同時に、「軽く当てただけ」のような浅い打撃はポイントとして認められないというシビアさがあります。

防具着用を「動きが制限される」と嫌がるような声もありますが、寸止めのスピード感とフルコンの力強さ、その両方が求められるようなスタイルは想像以上の実戦性を有しています。

東日本では錬武舘、西日本では少林寺流錬心舘が代表的な流派と言えるでしょう。


④格闘空手

総合格闘技のように、打撃だけでなく寝技や投げ技も取り入れた空手を格闘空手などと呼びます。

「より実戦性を求めて」と言う事で試合に打撃以外の要素が加わった訳ですが、ここまで行くと「これは果たして空手と呼んでいいのか?」という意見も勿論出ています。

ただ、前述の通りとりあえず自分の考えた定義は「琉球時代の武術『手』を起源・源流とし、日本で広がっていった武道」なので、広義の空手には充分含まれると思います。

もはや総合格闘技に近いようなそのスタイルは、ある意味では空手の新しい可能性の一つなのかもしれません。

有名な流派としては、真っ先に格闘空手を標榜した「大道塾」、総合格闘家の朝倉兄弟が所属していた「禅道会」といった辺りが挙げられるでしょうか。


⑤琉球空手

琉球王国時代の「手」の伝統を守り、組手試合を基本的に行わないのが琉球空手です。

型の稽古を重視していて、その型の動作に込められた意味を理解し実戦的な応用技術を身につける「変手」や「型の分解」と呼ばれる稽古が、現代の空手で言うところの組手稽古に該当します。

「戦わない(試合を行わない)なら実戦的な技術は身に付かないのでは?」と思う方も多いと思いますが、空手の型の中には単純な突きや蹴りの他に、多くの実戦的な技法が隠されています。

そこには打撃以外の投げや極めといった技術も含まれますし、「金的」「目潰し」「部位破壊」と言った試合では使えないような危険な技が隠されているのです。

それらの技を身につける、その理合いや体の動かし方を身につけるためには、型の稽古を繰り返すのが一番の近道なのだと思います。

本土に伝わった空手では失われてしまった要素も多く、琉球空手は空手の源流にして、その神髄を守り続けている存在と言えるでしょう。

代表的な流派としては、「少林流」「沖縄剛柔流」「上地流」「松林流」などがあります。


東京オリンピックでのルール

前述の通り、オリンピックで採用されているのは「寸止め空手」です。

また、組手だけでなく型の試合も行われます。

組手と型、それぞれの基本的なルールや知識を少し解説していきます。


組手試合

打撃を当ててはいけない寸止め、そしてポイント制という事は既に書きましたので、もう少し具体的に説明してみます。

ただ、自分は寸止めではなく防具付きの空手をやっていた人間なので、もしかしたら細かい間違いがあるかもしれませんが…、大筋は合っている筈です(多分…)。


まず基本情報として試合時間は3分間です。

もし途中で8ポイント以上の差が付いてしまった場合は、時間に関係なくその時点で試合終了となります。


寸止めの基準についてですが…一応「技を出した部位と相手の体との距離」について、具体的な基準が決められています。

有効とされる距離は「胴体への技なら5cm以内」「頭部への技なら10cm以内」で、打撃が当たってしまうのは「スキンタッチ(ダメージのない軽い接触)」ならOKとなっています。

ただ、実際には中段への打撃なんかは多少当たっても反則はほとんど取られないようですが…まぁ、とりあえずルール上はこんな感じです。


ポイント制についてですが、突きか蹴りか、そして技を入れた部位によってポイントが違います。

突きは上段も中段も1ポイント蹴りは上段が3ポイント、中段が2ポイントです。

あとは、足払いなどで相手を倒したところへ技を入れると3ポイント入ります。


最後に、反則について。

組手試合では、カテゴリーの違う2種類の反則があります。

カテゴリー1(C1)が、危険行為。

強く当てすぎる打撃、特定の部位(腕・脚・喉・関節・股間・足の甲)への攻撃、開手(拳を握っていない状態)での顔面への攻撃などが、C1に該当します。

カテゴリー2(C2)が、その他の反則。

場外へ出る行為、得点を与えないために格闘を避ける行為、不必要な掴み合いや押し合いなど、主に試合の進行上の反則がC2に該当します。

このC1とC2は別々に集計され、どちらも4回反則が重なると反則負けとなります。

例えば、C1とC2どちらも3回ずつ(合計6回)反則を重ねても反則負けではないですが、片方のカテゴリーの反則が4回あればもう片方が0回でもその時点で反則負けです。


型試合

…かなりの語弊があるかもしれませんが、分かりやすさを重視してまずは一言で説明するなら、「体操」のルールに近いです。

体操との大きな違いは、型の内容(技の順序など)は決まっているので、自分で好きな技を構成したりはできないという点ですかね。


基本的な流れは以下の通りです。

102種類ある「指定型」の中から自分の得意な型を選んで演武を行い、その演武が点数で評価されます

ただし、予選ブロックで2回、準決勝ブロック、そして決勝と、最大で4回の演武を行いますが、同じ型を複数回選ぶことはできません

例えば、女子の日本代表として出場する清水希容選手は「北谷屋良 公相君(チャタンヤラ クーシャンクー)」という型を最も得意としていますが、もし予選でその型を演武してしまったら決勝では使えなくなるので、間違いなく決勝戦まで温存するでしょう。


型の評価基準についてですが、「テクニカルポイント」と「アスレチックポイント」の、大きく分けて2つの評価基準があります。

テクニカルポイントは、型が正しく行われているかについて、以下の7点が評価されます。

・立ち方
・技
・流れるような動き
・同時性
・正確な呼吸法
・極め
・一致性(流派の型の基本に一貫性があるか)

正直なところ、空手を知らない状態でこの7項目を判断するのはかなり難しい(というか一部はほぼ不可能…?)ですが、要は型が正確にできているかという事ですね。


アスレチックポイントは、技にスピードやパワーといったものが伴っているかどうかが評価されます。

評価基準は以下の3点です。

・パワー
・スピード
・バランス

先ほどと違い、こちらは分かりやすいですね。

正確に技を出せていても、弱かったり遅かったりしたら意味がないという事ですね。


喜友名諒選手の型だけは見て欲しい!

長々と書いてきましたが如何だったでしょうか?

空手に少しは興味を持って頂けたでしょうか?

正直なところ、多くの人にとって空手の試合を見る事があまり馴染みがないだけでなく、取っつきにくいと言うか、パッと見て分かりにくい競技だとは思います。

それでも、もし少しでも興味を持って頂けたのなら、是非見てみて下さい。


個人的に特に見て欲しいのは、男子の型に出場する喜友名諒選手です。

ガッチリとした体格から繰り出される力強い技、そして鬼気迫る表情と全身から迸る凄まじい気迫は、型の一つの極致に達していると言っても過言ではないでしょう。

喜友名選手は全日本選手権9連覇に世界選手権も3連覇と、現役屈指の型の名手であり、もちろん金メダルの最有力候補なので、その活躍を見届けてきっと損は無いはずです!

男子の型は8/6(金)に行われますので、是非応援してあげてください!

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