見出し画像

スタートアップにおけるやりがい搾取を防ぐための期待給与という考え方

スタートアップは給与が安いという先入観ゆえに、大幅な年収ダウンであっても受け入れてしまうケースを観測範囲内でもよく見かけます。

かくいう私も大手企業からスタートアップに転職するにあたって、少なからずの給与を下げた身の一人です。

資金力に乏しいスタートアップへの転職にあたっては、一定程度の給与ダウンは致し方がないところです。とはいえ、必要以上の給与ダウンや、やりがい搾取とも見られかねない給与水準を通常としている企業は観測範囲内でもまだまだ多く、これらの企業への就職を考えるきっかけになればと思い、この文章を書くことにしました。

結論としては、単純な額面ではなく「期待給与」をベースに転職における給与ダウンを捉えましょうということですが、まずはスタートアップにおける給与事情から話を始めたいと思います。

スタートアップの給与事情

近年のスタートアップエコノミーの隆盛により、スタートアップにおいて資金調達がしやすくなったこと、大型の資金調達が増えたことにより、スタートアップの給与水準は比較的改善されつつあります。

外資を除く創業10年未満の企業に転職した人の平均年収は2019年1~2月に720万円超と、上場企業の平均より100万円多い。

2019/3/20 日本経済新聞 電子版
設立後10年未満の企業へ年収1,000万円以上で転職決定した数は2018年は2017年の3倍を超え、急速に増加

株式会社ジェイ エイ シー リクルートメント 2019年上半期中途採用市場動向レポート

もちろんこれはいわゆる役職者の転職においてのファクトでしかないのですが、非役職者においても同様の傾向は見られ、全体で見たとしても4-5年前と比較しても給与水準自体は徐々に上がってきている状況です。

他方で、数百万円以上の年収を下げての転職や、年収300万円以下の求人なども、観測範囲という狭い世界ですら数多く見かける状況です。これは何を示しているかというと、お金のあるスタートアップにおいての給与事情は改善されつつあるが、お金のないスタートアップにおいての給与事情は大きく変わっていないという事実に他なりません。

やりがい搾取は何故生まれるか

ここからは、多方面で問題となりがちなやりがい搾取についての話を進めていきます。

私自身、いくつかのスタートアップで正社員として働いた経験や、フリーランスとして関わらせていただく中で、やりがい搾取としか考えられないような事案に遭遇したケースがあるのは事実です。例えば下記のようなケースです。

・インターンはどれだけ良い働きをしても時給1000円という暗黙の了解
・「今は」年収300万円程度しか出せないという言い訳
・今までと違って裁量の多い仕事ができるため多少の給与ダウンは許してほしいという口説き文句

もちろんこれらの多くは、やりがい搾取をしたくて生まれた結果ではなく、ただ単にキャッシュフロー的にこれ以上の給与を払うことが大変であるが、それでも成長のためには人を雇う必要があるという背景から生まれる話です。(インターンは安い労働力という発言は無数に聞いたことがあるので、もう少し闇は深いのだとは思いますが、今回は深掘りしません)

悪意を持ってやりがい搾取をしている人がいるのも事実ですが、多くのケースにおいては単純なキャッシュの問題でしかないなと感じています。

給与が安くて許される理由はどこにもない

とはいえこれらの理論はあくまでも経営サイドの話であって、従業員としては知ったこっちゃありません。そこをなんとか説得すべきという企業があるのも事実ですが、給与が必要以上に安くて許される理由や、年収を必要以上に下げることが許される理由はどこにもありません。

キャッシュがないなら人を雇わないというのが本来の経営の姿だとは思いますが、そうは問屋が卸しません。人を雇って売上を伸ばさなければ、会社自体が潰れてしまからです。

それゆえに経営サイドは、「今」の給与が安くても許されるという言い訳を準備するのが通常です。これすら準備していない経営サイドは本当の意味でのやりがい搾取をしたい人たちなので、即刻離れるべきです。

給与ダウンに対して経営サイドが用意できる手段

転職時などの給与ダウンに対して経営サイドが用意できる手段は大きく下記の二つです。

・将来的な給与アップの約束
・株式の分配

将来的な給与アップの約束
「会社が儲かったら給与をアップするから今は我慢してください」という、信じて良いのか全くわからない約束です。これを本当に守った会社もいくつか知っていますが、これが守られる前に辞めていかれるケースが多いなと観測範囲内を見て感じています。

株式の分配
ストックオプションなどを利用してIPOやM&Aの際に分配した株式をお金に変換できることを約束し、実質的な給与の後払いをするという話です。うまくIPOまでたどり着ければ高額な実質的給与を受け取ることもできますが、夢物語となるケースが多いのも事実です。

とはいえこれらは不確定要素も多く、そして情報量に差のある給与交渉段階において従業員側に不利であることは事実でしょう。

リスクとリターンからみる期待給与という考え方

経営サイドが上述の手段を利用してきた際に、それをそのまま鵜呑みにしてはいけません。それらをベースに期待給与を算出し、この給与ダウンは受け入れて良いかを考えてみるべきです。

例えば下記のようなケースを考えてみます。

・転職前の年収:600万円
・転職後の年収:300万円
・ストックオプションの予定換算額:1000万円
・IPOまでの予定期間:5年

転職前の企業にそのまま勤め続けていたと仮定すると、IPOまでの5年間で3000万円の収入を得ることができます。

他方、転職した場合はIPOまでの5年間で1500万円の収入および、うまくIPOできた場合に1000万円の臨時収入を得ることができます。

この場合、転職後の5年間での収入合計は2500万円であり、ストックオプションがあったとしても収入上は転職しないほうが良いと言えそうです。

とはいえ、この計算式にはIPOの確率は含まれていませんし、IPOまでの予定期間も基本的には楽観的な期間となっているはずです。

IPOする確率を50%、5年でIPOする確率を50%とすると、入社後5年間でのストックオプションの期待値は250万程度、1年に換算すると50万円程度となります。もちろんこれは上振れすることもあるので一概に言えませんが、このケースにおいて大幅な給与ダウンを受け入れることはあまり得策ではありません。

期待値だけを考えるならば、年間50万円程度のダウンにとどめるべきと考えられます。

このような期待値で給与を考えていくことを、私は期待給与と呼んでいます。

期待給与を踏まえた上で期待給与を自衛する

ストックオプションを付与された際によくあるケースは、「IPOしたあともN年間在籍しないと権利を喪失する」といったものです。

給与ダウンの対価として付与された部分が一定あるにも関わらず、この場合は辞めてしまうと何のメリットもありません。経営サイドが闇堕ちした場合、従業員を退職に追い込むという選択肢を取ることも十分に考えられるでしょう。

これらのケースを防ぐためにも(もちろん、非常に好条件にすることをバーターとしたケースなどもあるため一概にはそうは言えませんが)、退職時のストックオプションの扱いや、権利行使の条件などを事細かに聞いておくべきでしょう。

また、「ストックオプション付与」としか言われておらず、具体的な株数やIPO時の想定価格を提示していないケースも多く見受けられます。

通常、IPOを考えている会社の多くにおいては1株あたり幾らで売り出していくかということは計算されているはずなので、当然の権利として付与予定の株数とIPO時の想定価格を聞いておきましょう。これを教えてくれない会社だとした場合、先の計画を何も立てられない会社か、何かしら不穏な動きをしている会社であることは間違い無いので、就職を避けることをお勧めします。

その上で、これらは全て契約書に落としておくべきです。雇用契約書内に含まれることもありますが、含まれない場合には最低でも覚書などには落としておき、将来的な言った言わないを防ぐ形にしておきましょう。


P.S. 色々書いてみたものの、そもそも就職できないので全て夢物語に過ぎないアカウントがこちらです。よろしくご査収ください。


まいにちのご飯代として、よろしくお願いします。