老いない魔女5

■5 老いない魔女と夢闇の書斎

◆1話と同じロケーション。気がつくと老人の書斎に立っている。
 
◆魔女
あれ? ここ、この部屋……。
あの人、の……?
 
◆老人
どうしたんだね?
◆魔女
え? あ、え……君、なんで……。
◆老人
狐にでもつままれたような、と。そんな顔じゃないか。
急に呆然として、どうしたんだ?
 
◆魔女
あ、ああ……や、別に。
夢……見てたのかも。
 
◆老人
白日夢か。得意分野だものな。
 
◆魔女
うん……そう、だね。そうかも。……あはは、変だね。魔法も使ってないのに。
 
◆老人
元があやふやなのだから、そういうことも、ままある。
そんな講義をしてくれたのは、いやはや……ふふっ、誰だったかな。
 
◆魔女
昔のこと引き合いに出すのはマナー違反、って教えとくべきだったなぁ。
 
◆老人
至らぬ師、とは自称しないでくれよ?
 
◆魔女
出来過ぎる教え子も考えものだねぇ。
ああでも……どんなだったかな。
 
◆老人
その、夢のことかな?
 
◆魔女
ん……誰かが居たんだよ。
大切な誰かがいなくなって、その誰かに託されて。
誰だったかな……君に似てる子だったんだよ。
その子に言ったんだ。一面の紅葉の中で、たったひとつだけ……すぐに……。
 
◆老人
……すぐに?
 
◆魔女
すぐに、見つけられる……そんな人。
……あの写真は? 写真、そこになかったっけ?
 
◆老人
まだあるとも。今ではない、ここに。あれは君に必要なものだった。
 
◆魔女
ああ……うん、そっか。夢は、こっちの方か。
 
◆老人
寂しげに言うものだね。
 
◆魔女
そりゃ寂しいでしょ。一瞬、期待したんだから。
私はまだこの書斎に居て、君も変わらずここにいる。
私が見ていた何日かは夢で、本当はただ……居心地のいい場所にいる。
でも、そっか……これは夢か。
 
◆老人
木星の守護、第5番。アドリブでやるにしては大袈裟だ。
並みの魔法使いなら、反動で命を落としても不思議じゃない。
眠るだけで済んだのは、幸運と呼べるんじゃないか?
 
◆魔女
どうだか。……ていうかさ。
 
◆老人
うん?
 
◆魔女
君、私にとりついてたの?
 
◆老人
それほど未練に尽くせる人間だったなら、私は家族を作っていないよ。
 
◆魔女
でも君はここにいる。この書斎も。再会した、あの日のままだよ。
 
◆老人
根本的な、誤解というのかな。
君の知っている私はここにいる。だが決して私になり得ない。
私は君の問いに答えられるし、物の見方は変えられる。
けれど君の知らない方程式を、私が答えることはできない。なぜなら……。
 
◆魔女
……虚像だから。私が知ってる君についての記憶……思い出でしかないから。
 
◆老人
すまないな。……酷なことを言わせている。
 
◆魔女
謝んないでよ。夢の中でも律儀なんだからなぁ。
木星5番……起きた時には三日後かな。
 
◆老人
まばたきする間だね、まさしく。
あれはどうかな。
 
◆魔女
助手君? いい子だよ。じーちゃんみたいに捻くれてないし。
ふふっ、誰に言ってんだろ。
 
◆老人
だとしても、安心したよ。置き土産というのは、あの子に悪いかな。
 
◆魔女
雑な言い方だなぁ。まあでも、また迷惑かけちゃった。
元気にしてるかなぁ……。
 
◆老人
楽しんでいるよ。
 
◆魔女
……わかるの?
 
◆老人
この私は、言ってしまえば神経のようなものだ。
君という意識の外にあるものを拾える。
だから……ああ、これは中々面白そうだ。
 
◆魔女
何の話よ。
 
◆老人
君の助手で、私の孫。それからもう一人。
 
◆魔女
もう一人……? ちょっと、それって……!
 
◆老人
やっていけるさ。君は、私の憧れなんだ。
どうか助けてやってほしい。あの子だけじゃなく、私の師匠を。
残すのなら未練でなく遺産を、と。
これを教えてくれたのは、君でなく妻の方だったな。

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