老いない魔女4

■4 老いない魔女と覚めない夢

◆3の翌日。魔女中心の視点、詠唱描写あり。『』内は魔女の独白です。
 
◆『魔女』
魔女様、と。そう呼ばれるのが怖かった
私には、まるで魔法しかないみたいに思えて……。
たとえ本当のことだとしても、私には魔法が怖くて仕方ない。
讃えられ、恐れられ……自分が化け物だと思い知る。
そもそも私が知っている賞賛は、みんなにとって単なる過去だ。
求められたことをした代償が……私をまた眠らせる。
この才能を使う度、私はまた、みんなの時間に取り残される。
ああ、また、目覚めない、夢の中にいる……。
 
◆青年
……魔女様……魔女様……。
 
◆魔女
んん、んう……?
 
◆青年
起きてください、魔女様。
 
◆魔女
んあ? ああ、ふわぁ……なんだぁ、助手君かぁ。
 
◆青年
またご挨拶ですね、開口一番でなんだとは。
 
◆魔女
ごめんごめん。って、もしかして今……。
 
◆青年
ええ、もしかしなくても朝ですよ。
よくもまあ、座ったまま器用に寝れますよ。
 
◆魔女
あははっ、ただの慣れだよ。
 
◆青年
どういう慣れですか。というか、何してたんです?
 
◆魔女
んん? 何って、見ての通り?
 
◆青年
と言われても、キャンバスに絵筆?。
魔女様って絵も描くんですか? 絵の具がないけど。
 
◆魔女
描くって言うか、移すっていうか。
 
◆青年
移す?
 
◆魔女
うん、そうそう。魔法だよ、これもね。
 
◆青年
絵を描く魔法……ですか?
 
◆魔女
そんなとこ。まあ見てて。
絵筆を持って、キャンバスに触れる。自分の心の一部を、こっちに映すイメージでね。
そうすると……。
 
◆青年
わっ! なんか浮かんできた!
 
◆魔女
うんうん。いいねぇ、素直な反応だねぇ。
これが、いわゆる命を植えた絵。生景(しょうけい)魔法ってやつ。
封印術の応用……というか、まんまだけどね。
記憶や知識なんかを、キャンバスに直接封じるんだよ。
 
◆青年
ああ、聞いたことありますね。へえ、これが……。
 
◆魔女
どうだー、すごいだろー?
って言っても、私のスペックだと……。
 
◆青年
あ、消えた。
 
◆魔女
固定しないと戻っちゃうんだ。
はぁー、これが悩みの種だよ。
君の呪いについて、情報整理したくってさぁ。
これ使っていらない記憶を一旦移そうと思ったんだけど……ねえ。
 
◆青年
ええと……魔女様の魔力量だと、固定する前に眠っちゃう。
だから移したくても移せない……と?
 
◆魔女
理解が早くしてよろしいー!
ま、そういうわけよ……もー諦めた! ご飯食べよっ!
 
◆青年
あ、ああはい、出来てますよ。
 
◆魔女
ありがとーっ! ……助手君、やってみる?
 
◆青年
え?
 
◆魔女
だから、これ。生景魔法。命を植えた絵。
 
◆青年
い、いやいやいや! 何を簡単に言い出してるんですか、あんたは!
 
◆魔女
えー、簡単だよぉー。私には無理だけどさ。
君ってほら、じいちゃんそっくりじゃん? たぶん魔力量とか並みはあるからさぁ。
 
◆青年
いやそんな言われても、魔法なんて使ったことないですし……。
 
◆魔女
大丈夫だって。ほら、座って座って。
絵筆握って、キャンバスに向かう。あとは教えた通りにやってみ?
 
◆青年
は、はぁ……わっ、なんか浮かんできた……!
 
◆魔女
そうそう、その調子。
そんな感じで、自分の切り離したいものを移してくの。
じゃ、私ご飯食べてくるから。
 
◆青年
え、ちょっと! この後どうするんですか!?
 
◆魔女
大丈夫、大丈夫。しばらくかかるから。食べたら固定の仕方教えるよー。
さーてっ、ごっはんー、ごっはんーっ♪
……ん?
 
◆『魔女』
私、なんかやらしかしたんじゃ?
絵に出来るのは作者の内面……。
精神性や魂に左右される魔法も、当然含まれる。
助手君はたぶん無意識に、一番切り離したいものを移す。
あの子が切り離したいものは……呪い?
で、その呪いは元は私の中にあった、超ド級の……。
 
◆魔女
ってことは……!
 
◆青年
魔女様!? ちょっと! なんか変ですよこれ!?
 
◆魔女
やばい! 助手君ッ!
ああ、バカだ私は! 切り離された呪いが暴走する……!
 
◆青年
ま、魔女様! なな、なんかキャンバスが光って……!
 
◆魔女
ごめん、私のせい! 手を離して私の後ろ!
動かずそのままじっとして!
 
◆青年
は、はい!
 
◆魔女
火星の6……いや木星5番!
私は自ら手足を切り落とし、私の骨を見渡し、数えるッ!
助手君、伏せて!
 
◆数秒の間。
 
◆青年
た、助かった……?
 
◆魔女
う、うん、助かった、ねえ……。
死ぬかと思った……死ねないのに。
 
◆青年
何を余裕っぽいこと言って……え?
 
◆魔女
ど、どうしたぁ、助手君……っていうか、ごめん……マジでごめん……。
あと、フラフラする……。
 
◆青年
い、いや魔女様、あれ! キャンバスの前……!
 
◆魔女
えぇ? だから……どう、したって……なっ!?
 
◆青年
子供、倒れてますけど。なんか、ちっちゃい魔女様みたいな……。
 
◆魔女
あぁ、やばい……やらかし、たぁ……。
 
◆青年
え!? 魔女様!? ここで眠っちゃうんですか!?
ちょっ……起きてくださいよ!

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