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珍味② 郷愁のハチの子

小学校時代の話です。

うちの小学校には、週一回お弁当の時間というのがありました。

机をくっつけて、お弁当を食べるのですが、ある日のクラスメイトKさんのお弁当箱の中に、みなれないオカズが入っていました。Kさんとは、仲が良いようなそれほどでもなかったような、大人しい女の子でした。

Kさんの小さなピンク色のお弁当箱のはしっこには、うすいクリーム色でマカロニを極細にしたようなのが何本か詰められていたのです。マカロニに似ているけど、マカロニに似た何かでした。

動物的勘がはたらいたのと、

私は人のお弁当の中身に、人一倍興味がある方だったので

不躾に「それ、なに?」と聞きました。

Kさんは、「ハチノコだよ」と答えました。

ハチノコ、なにそれ。

聞いたことのない食べ物です。どんな味だろう。

「ちょうだい」と、思わず言いました。

Kさんは嫌がらずに、私の手のひらの上に、ハチノコを乗せてくれました。

食べると、おいしい。クセのないチーズのような味。もっと食べたいなぁ。

Kさんを凝視すると、笑ってもう1本くれました。

これが、私のハチの子初体験です。

Kさんがなぜお弁当にハチの子を入れていたのか、お母さんが長野か岐阜の出身だったのか、いまだもってわかりませんが、私はこのようにしてハチの子を食べることになり、

二十年以上の時間が経過し、昆虫料理研究会と出会い、イベントでハチの子のソテーを食べることになりました。

小学校の時にKさんからハチの子を貰ったできごとは、

すっかり記憶の底に眠り、埃をかぶっていて、色褪せていたのですが、

子供の頃の体験があったために、抵抗がなかったのかもしれません。

美味しい昆虫料理はなんですか?と、よく聞かれることがありますが、ハチの子、蝉の幼虫は文句なく美味しいです。タガメや蚕も美味しいのですが、チーズで言えば、ウォッシュタイプやブルーのようなもので、クセがあるけど美味しいといった類いの味です。

ハチの子、蝉は伝統的に食べられているだけあり、万人ウケする味だと思っています。

特にハチの子は、卵のような旨味、コクで、特に前蛹がおいしく、

焼いても良し、茹でてポン酢で食べても良し、甘辛煮をハチの子ご飯にしても良し、軍艦巻きにしても良し、いろいろな料理に合います。

まだ試していないのですが、サンドイッチもおいしそう。

特に好きなハチの子料理は『人生が変わる!特選昆虫料理50』でご紹介した、ハチの子のうまき風で、卵焼きと甘辛のハチの子の相性が抜群で、だしが効いたふわふわの卵焼きに、甘辛のハチの子の旨味、ぷちぷちした細かな歯ごたえが美味しく、本家のうなぎをしのぐのでは!と思います。

ハチの子と一言にいっても、ハチにも種類があるのですが、基本的にスズメバチです。西洋ミツバチも食べましたが、小さいので食べ応えがあまりありません。

オオスズメ、コガタスズメバチ、キイロスズメバチ、クロスズメバチを食べました。

目隠しをして食べて、どれがどの蜂と当てる、利き酒ならぬ利き蜂をしても、当てられる自信はありませんが、今まで食べた蜂の中で、クロスズメバチがいちばん美味しかったように思います。

岐阜の方ではクロスズメを「へぼ」と呼び、旬の伝統料理としてへぼ飯が食べられていると聞きましたが、ぜひ現地で食べてみたいです。

椎名誠さんの『食えば食える図鑑』にも、”愛と策略の蜂の子まぜごはん”と、心躍る見出しがあり、伝統的な蜂猟の「すがれ追い」体験とハチの子料理について書いてあります。

Kさんとは、卒業以来1度も会っていませんが、ハチの子弁当のこと、覚えているのかなぁ。

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