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喜安浩平の『庭から』~脚本創作4・タネ~

春までに、なにもないところから小編の脚本を書く。今、私の庭では、そういう企画のタネが準備されつつあります。おかげさまで、少しずつですが、動き出しております。


関東が雪に包まれた日。それでも集まってくれた3人の編集部のお仲間(鳴海・浦嶋・山田)に、無作為に「お題のようなもの」を出していただきました。以下、表にまとめられております。


庭をイメージしたのでしょうか。作業に当たってくれた山田編集員のデザインセンスが光ります。マス目の幅がまちまちなのもご愛嬌。山田よ、ありがとう。


3人のうち、誰がどの言葉を提案したかは、ここでは問題ではありません。提案者の個性はここでは不要です。浦嶋が今、マッチングアプリに興味を持っている。たとえそうだとしても、そんなことに私たちが左右されてはならないのです。マッチングアプリはマッチングアプリ。言葉だけを眺めます。


…………………実に無作為。無策な私に、無作為なお題。目の前にはボーッとした荒野が広がるばかりです。実際には、ボーッとした図表が広がるばかりです。眺めるうちに、つい、雪積もるかね?などと余計なことを考えてしまいます。


これではいけない。そこで、あることないこと、思ってること思ってもいないこと、私の頭の中の消しゴムで今にも消されそうなガラクタな思考の数々などを駆使して、ここからなにかを探してみることにしました。とにかく耕す。庭には、汗をかく作業も必要です。


さて、ここから先のことを書こうにも、お仲間とこの相談をした日、私は耕すのに必死で、うまく文章にまとめられないかもしれない、ということで、あらかじめお仲間にレポートをお願いしておりました。以下、そのレポートを掲載いたします。なにかをご想像いただければ幸いです。


まず鳴海編集員のレポートです。彼女のそれは、改行がどうにも特徴的だったので、あえてセンター揃えにしてみました。


■■■鳴海レポート■■■

【テーマを決めよう】と喜安浩平の庭に集まりました。


そもそも【テーマ】ってなんでしょう?

あくまでも【テーマ】って見る側にとって、
必要なものではないと思っていて、
作品から自由に掬い取ってくれれば良いはずで、
もちろん、
「これを掬い取って欲しい」と思って願いを込めて書くわけですけど、
さらに興味のある方には、
それ以外の解釈や気付きがあってもいい。

作品を創作するうえで、
「何が(誰が)どう動き出して、
どういう道を通って、
どこに辿り着こうとするのか。」
それをその都度考えるうえでの【目印】
なのでしょう。

『さみしさ』は底を這っているもの、
というイメージ。


編集部員が持ち寄った【テーマアイデア】計62個の単語を一望してみる。

テキストを商品化するにあたって、
どう喜んでもらうかを考える必要があるよね。

内容が面白ければ関係ないという気がする一方で、
例えば、【筋肉】っていうテーマで出来上がった作品を、上演したい人がどれくらいいるんだろう?(笑)

ニッチさに惹かれるものの、
テキスト自体がどれほどの広がりをもつんだろう、と。

ニッチなものをひっそりこそこそやっていていいのでしょうか?

普遍的で大衆的で、
誰にでも上演できるものを創って、
誰かの役に立った感じがしたい、
自己満足で終わらないだけの影響力をもって活動したい。

これから『庭から』で創るものには、
こういった思いがあります。


『庭から』のコンセプトに立ち返る。

みんなが庭に集まって来て、みんなで楽しく「語り合える」ものがいいか。

…………………………………

【ジャングル】について語れる、
もしくは語りたい、
って人いる?いないんだ。じゃあナシで。(笑)

そう考えると、【筋肉】はありなのかな。
「○○筋ってやつを痛めたことあるか?」
ってやつがいたり。(笑)

【貯金箱】だと、
知らない誰かの貯金箱の話はできないだろうから、
「【修学旅行】の思い出聞かせてよ」っていうのより
なんとなく面白い気がする。

……………本人とその題材の距離感みたいなことなのかな。

そのなかに【マッチングアプリ】みたいな、

庭にはふさわしくないだろ!
っていうのがたまにあるのは面白い(笑)


【神】は?
…ヤバい(笑)

……………単なるエピソードトークに収まっちゃわないものがいいね。

【草野球】はしたことある?

野球したいけどどうしたらいいか、みたいなところから始まっていって。
【マジック】もみんな出来ないから一緒だ。<草野球理論>。

【雲隠れ】はどうだろう。
雲隠れしてる人とされた人と全然関係ない人とで語ることは違うだろうからね。「雲隠れしてた間どうしてたの?」とかね。

【美少女】…。
美少女と誰かが話しているのと、
美少女について誰かが話しているのとでは違うよね。

【ゲーム】って的が広いね。
広がりそうな気配があるけど、どこに絞り込むかだな。
既にあるものから拾い出さなくてもいいって意味ではありかな。

【外国】、行ってみたい所はある?

山田:「行ったことはないんですけど、ネットで写真とか見て、行った気分になってます。」

既に若干の『さみしさ』を感じるね。(笑)


■■■おわり■■■


はい。語ったり、語りかけたり、発言がいろんな風に飛び交いますが、だいたい私のそれです。続いて、浦嶋編集員のレポートです。


■■■浦嶋レポート■■■


今回の議題は【さみしさ】にかけ算する、もう一つのテーマをどうするか。

編集部の3人が提案したのは全部で62個。この中からどれを選ぶのか。どのように選ぶのが良いか話し合われました。

まずはこの62個を俯瞰して見るために、
「場所」「人」「状況」「物質的に存在するもの」「物質的に存在しないもの」などにジャンル分けしてみました。

しかし、分けてはみたものの、どれを選ぶのが良いか見えてきません。

そもそも「テーマ」とは何でしょうか。

テーマというのは観る側にとって必要なものではなく、あくまでもこちら側が試行錯誤する上での目印。

であれば、
テーマ選びも『庭から』のコンセプトと繋がっていた方がいいのかもしれません。

「ただテキストとして面白いものではなく、上演・上映など次の段階に行ったときのことを想像して面白いものがいい。」

「ニッチなものをコツコツよりも普遍的で大衆的で誰にでも触れることができるものにしたい。」

「単なる暇つぶしにはしたくない。役に立った感じがしたい。自己満足で終わらないだけの影響力を持って活動したい。」

その為には、読み手と作り手が同じような距離感で向き合えるテーマを選びたいところです。

みんながそれについて語り合えるもの、みたいなことでしょうか。

「そう考えると【筋肉】はありなのかなあ。語ることがありそう。【水辺】は難しそうだね。」

「みんなで庭に集まって話をしようよってなったときに、【修学旅行の思い出聞かせてよ】というより【貯金してる?】みたいな話の方が、庭に集まってわざわざ話して面白そうな感じがするよね?(笑)」

みんなで語り合えるもの。
庭に集まってみんなで話をしたくなるもの。

あるいは

1人だけ詳しくて、その人の話を聞きにみんなが集まるようなもの。

そして絞り込まれたのが以下の6個。


■■■おわり■■■


はい。どの6個かは、次回の投稿に譲るとして。


読み返すと、そうだなと思うこと、なに言ってんだと思うこと、そうなのか?と疑ってかかりたくなること、いろいろあります。お仲間よ、レポート本当にありがとう。大いに助かります。


気になったところを取り上げておきます。

“【テーマ】は見る側にとって必要ないもの。”

「○○をテーマに…」というような謳い文句は、もはや通用しないコンニチだと思われるので、ということを言いたかったのかもしれません。果たして本当に必要ないのでしょうか…。だとしたら、私は、なにを手がかりに、芸術や表現に出会い、見て聞いて触れているのでしょう。

<草野球理論>

不意に出てきた言葉で戸惑われたことでしょう。【草野球】というテーマはどうだ?と話し合われた際に、『庭から』の仲間たちは、誰も草野球らしい草野球をやったことがないということがわかりました。やったことのないものを採用するというのか。その場合、やったことのない者たちが初めてそれをやるために、学び、集まり、実行するのか。そういう試行錯誤が同じようにあてはまるものが【マジック】だろう。誰も【マジック】はできないし、やり方も知らない。我々にとっての【マジック】は、草野球と一緒だね。つまり、〈草野球理論〉だね。と至った次第です。

ジャンル分けしてみました。しかし、分けてはみたものの、どれを選ぶのが良いか見えてきません。

ほんと、分けてみただけでした。耕したけど耕しただけ、という状況。それも庭づくりです。

「そう考えると【筋肉】はありなのかなあ。語ることがありそう。【水辺】は難しそうだね。」

その時はそう思いましたが、【水辺】だって集まって語ろうと思えば語れると思います。ただ、集まった人たちの頑張りが必要なだけです。その頑張りがここに注がれていいのか?と考えた時に、この時は「難しそう」と答えたのだと思います。

「みんなで庭に集まって話をしようよってなったときに、【修学旅行の思い出聞かせてよ】というより【貯金してる?】みたいな話の方が、庭に集まってわざわざ話して面白そうな感じがするよね?(笑)」

人によっては逆でしょう。ここだけ切り取って文章として読むと、鼻持ちならないやつという感じがします。最後の、よね?(笑)とか。ただ、修学旅行の思い出を聞かせてもらっても、なかなか楽しいと思えることがないのは、どうしてなのでしょう。人の修学旅行の思い出話ほど面白くないものはない。世の中には、似たようななにかが多数存在するような気がします。〈修学旅行理論〉と名付けましょうか。

“「ニッチなものをコツコツよりも普遍的で大衆的で誰にでも触れることができるものにしたい。」”

小編でありながらそんなことができるのでしょうか。小編、あるいは短編を軽んじているわけではありません。コツコツはボリュームの大小によって変わるものではないし。なんだか勢いで言ってしまっているような気もします。そして大衆的とは。


他にもいちいち掘り下げたいところはありますが、今日はこの辺りで。明日、絞り込まれた6つのタネをおしらせして、次の試行錯誤へ移ります。

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