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魅力的なキャラと世界を描き続けること【高畑勲展】

高畑勲は、日本を代表するアニメーション監督です。主な作品は「かぐや姫の物語」「平成狸合戦ぽんぽこ」「火垂るの墓」「おもひでぽろぽろ」「アルプスの少女ハイジ」「フランダースの犬」「母をたずねて三千里」「赤毛のアン」など、人間の成長や変化、人間関係のドラマを描くものが多いです。

雰囲気を作り出す①背景

高畑勲作品では、物語世界の魅力的な雰囲気を作り出すポイントが3つあります。

1つ目は背景です。背景を描く上で、それまでアニメ作品ではみられなかったロケハンを行い、等身大の作品世界を描いています。

それに加えて作品世界の雰囲気をより伝えるための画法も考案もしています。

「母をたずねて三千里」では、油絵のようなタッチで石造りの建築物を表現したり、「かぐや姫の物語」では透明水彩によって、単調になりがちな背景に変化を生み出しています。

雰囲気を作り出す②キャラクター

2つ目は登場するキャラクターの設計です。

「赤毛のアン」の主人公アンは、おでこが広く細い体、でも大人になった時に美人になるような骨格という設定であらゆる案をスケッチして検討しています。

「アルプスの少女ハイジ」の主人公ハイジは、当初案ではおさげの少女でしたが、検討を重ねる末に活発な少女の雰囲気を出すべくショートカットになっています。

雰囲気を作り出す③アニメーション

3つ目はアニメーションの動きです。キャラクターは動きを与えられることで、その雰囲気を一層強めます。

「アルプスの少女ハイジ」の第1話ラストシーンでは、ハイジが重ね着していた服を脱ぎ捨て、下着一枚になって野山を駆け上がるシーンがあります。原作では冒頭に登場していたこのシーンですが、アニメではラストシーンに持ってくることで、ハイジの活発な性格を印象付けることに成功しました。

「太陽の王子 ホルスの大冒険」での村人たちが踊るシーンは実際に振り付けを決め、数人の人に踊ってもらいその動きを元にアニメーション制作を行っています。これは当時のアニメにとっては画期的なことでした。

作品の世界を魅力的に仕上げるには、ポイントとなるいくつかの視点での丁寧なモノづくりが必要なのだと思います。

短時間で質を保ち、意図を伝えるシステム

1週間に1本仕上げなければならない長編アニメーションはクオリティを保つのが大変です。そのため、正確に製作者の意図を伝えるための画面構成を素早く行えるように「レイアウトシステム」というものが考案されました。

限られた時間の中で質を保ち、正しく意図を伝えるための工夫です。

アニメでなくても、このようなシステムの工夫は大事だと思います。制限された時間、与えられた課題、目指すべきクオリティの3つを前にしてどうやって全てをクリアするかを事前に考えておくことが重要だと考えられます。

作り込まれた絵コンテ

アニメーション制作は絵コンテを書いて、レイアウトを決めて、作画し、編集に入ります。ここで一番重要なのは絵コンテで、絵コンテが作り込まれて完成されていれば、レイアウトを悩む必要もなく、不必要な作画をすることもなくなり、無駄のないアニメを作ることができます。

高畑勲は、自分のことを「貧乏性なのかもしれない。無駄に絵を描いて、それを使わなかったらもったい」と言っています。完成された絵コンテはスムーズに製作を動かす要である作戦指示書だと思います。高畑勲の美しく無駄を省く貧乏性は大変素敵だと感じました。

プロジェクト全体を滑らかに動かすため、アクション前に完成された設計図を仕上げるのはアニメ、プロダクトデザインに限らず他分野で大事なのだと思いました。

線の魅力

高畑勲はよく手書きの線の魅力を考えていました。鉛筆でスケッチした線は躍動感があるのに、アニメーションにすると線に動きがなくなってしまうのが残念だったそうです。

そして、この思いから生まれた劇場アニメが「かぐや姫の物語」でした。かぐや姫の物語は鉛筆で描いたような躍動感のある線を、そのまま画面に取り込みアニメーションにしています。

一枚一枚の絵を見ると勢いのある線が乱立しているだけでよくわからないものですが、繋げて動かすと意味が見えてきます。

かぐや姫の元気いっぱいな動きを、イラストとしての静止画的な線ではなく、アニメとしての時間的動きを前提とした線の描き方によって、鉛筆スケッチの生きた線以上の生命感が感じられるようになります。

動き出す線(労力は3倍)

初めて動きのある線を利用したアニメは「かぐや姫の物語」の前に製作した「ホーホケキョ となりの山田くん」でした。

高畑勲はこのアニメで、鉛筆スケッチのような線のアニメ実験を行い、見事に生命感のある線を生み出していました。

この実験結果によって、劇場アニメ「かぐや姫の物語」製作に取り掛かったのです。

しかし、実は鉛筆スケッチの線でキャラクターを動かすには通常のアニメの3倍の労力がかかりました。その理由は、通常なら1枚で済む絵が、3枚必要になるからです。

基準となる絵に対し①外に振れる線、②内に振れる線、③キャラクター線内に背景が入らないようにするためのマスク線、の3種類の絵を描く必要があり、これらを組み合わせることで「かぐや姫の物語」は完成したのです。

最後に、高畑勲という人を感じて

理想を目指して、どんなに労力がかかってもそれを実現するという努力が実ったのが、高畑勲監督の遺作となった「かぐや姫の物語」です。

展示を通して、その随所に作品を魅力的に見せるための工夫が見られました。

常にどうしたら魅力的な作品を作れるかを考え続けて、その時その時の最善のものを生み出していく姿勢を感じました。

モノを生み出す仕事につく自分自身も、こんな風に努力をしていきたいものです。

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