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二十四の瞳

[2010年10月17日の日記]

壺井栄の「二十四の瞳」を知らない日本人なんていないだろう。いないよね?僕と同じように小中学校の読書感想文の課題で読まされた、という人も多いのではないか。けれど読後に何か強い印象を残したという記憶は全く無いし、内容もすぐに忘れたし、またいずれ読み返そうなどと思ったことも無かった。義務教育というか、教材の匂いがするんだよね。「二十四の瞳」って。

なのになぜ今更この映画を観ようと思ったのか。理由は単純、木下恵介が監督だからだ。黒澤や溝口にも引けを取らない偉大な監督だと僕は思っている。

「お嬢さん乾杯!」「破れ太鼓」「善魔」「カルメン故郷に帰る」「カルメン純情す」「野菊の如き君なりき」「喜びも悲しみも幾年月」「風花」「笛吹川」「永遠の人」と、それなりに木下作品を観ているけれど、「二十四の瞳」は前述のような印象から中々手を出せずにいた。150分という長さもあってつい後回しにしていた。

けれど久しく木下作品を観ていなかったし、いつのまにかレンタルのラインナップも充実していたので、ここは久しぶりに木下恵介を見ようという気分になった。せっかくだから未見のを。そこで手を伸ばしたのが「二十四の瞳」だった。

教え子や我が子に対する大石先生のまっすぐな愛情が胸を打つ。

「あなたが苦しんでいるのは、あなたが悪いからじゃない」
「あなたには普通の人間になってほしい。命を大事にする普通の人間に」

ただ純粋に「命」を大切にしたいという思いによって「アカ」の疑惑をかけられる。教え子たちとは国定教科書を通じてしか関わることができない。そうして絶望した大石先生は教職を離れてしまう。けれど自分が受け持った子供たちのその後の人生にずっと寄り添い続けた。

海の色も 山の姿も 昨日につづく 今日であった

小豆島の風景は変わらず美しいままだった。けれど時代がそこに暮らす人々の生活を変えてしまった。戦争の恐ろしさ、悲しさ、苦しさは戦場だけにあるわけではない。こんな離れ島でつつましく暮らす人々の生活さえ変えてしまう。

終戦を迎え、かつての教え子たちと再会する大石先生。教え子たちが大石先生にプレゼントを贈るシーンを観て号泣してしまった。映画観て泣いたことなんて一度も無かったのに。よりによって「二十四の瞳」を観て泣くなんて思わなかった。

いつか小豆島に行ってみたいな。

この日から約7年後に僕は小豆島に行った。写真はそのときに撮ったもの。

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