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ピアノレッスン

監督:ジェーン・カンピオン
音楽:マイケル・ナイマン
出演:ホリー・ハンター、ハーヴェイ・カイテル、アンナ・パキン、サム・ニール

とても思い出深い映画。レンタル店のラインナップから消えることもなく、いつでも観ようと思えばまた観ることができたこの映画。それでも20年以上もの歳月観返すことなく、それだけの時間を隔てたことには何らかの意味があったのかもしれない、ということをふと思った。

この映画を観た当初、僕はよく「ハーヴェイ・カイテルみたいなオッサンになりたい」ということを口にしていた。一方のサム・ニールなんて全く眼中になくて、「サム・ニールだっさ、みじめすぎるだろこのオッサン」なんてことも言ってた気がする。でも今の自分にはよくわかる。当時ハーヴェイ・カイテルになりたいと豪語していたあの若い男(つまり僕)は、その実既にこの映画のサム・ニールのような男であったということを。この皮肉な構図に気付くこともなく、20年以上もの時間が過ぎていたとは。

僕はずっと自分の中で、「彼女」との物語を自分を主役にして、悲しくも美しい物語に仕立てていた。けれど本当は違った。わかっていたはずなのにわかっていなかった。僕は脇役の悪役で、第三者が見ればどうしようもない最低のみじめな男だったのだ。ようやくそのことをしっかりと認識できたような気がする。

それは遠い過去の出来事。もう長い間、その過去に苦しめられることも足を引っ張られることもないし、この先もそれは変わらないだろう。この映画を観ても、この先の自分の人生が何か変わるということはありえない。ただ、ふと振り返ったときのあの頃の出来事が、今この映画を観直したことによって、全く違う景色になったというだけのこと。そしてそのことで僕は落胆することもなければ、悲しみを新たにすることもない。ただ感慨に耽り、あの頃とは恐らく変わっているであろう現在の自分を改めて見つめ直すだけだ。

この映画の撮影当時、ハーヴェイ・カイテルは54歳。今の自分から見てもやっぱり彼は魅力的な存在だ。こんな風に年を重ねられれば素敵なんだろうな。でもまあ、僕は僕のやり方で自分に合った年の重ね方を模索するだけだ。

[2016年9月3日の日記]

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