見出し画像

そこに愛はあるのかい

ボーっと電車の座席に座っていたら、メトロ直通の向かいの列車からカップルが乗り換えてきて僕の隣に座った。その二人の会話。

男「・・・なんで乗り換えたの?」
女「え?どっちにする?って訊かれたからこっちのほうがいいのかなって」
男「○○駅で降りるんだけど?」
女「え?じゃあ乗り換える必要なかったよね?」
男「俺、ちゃんと目的地言ったよね?」
女「え?聞いてないよ聞いてない、聞いてないから分からなくてこっちに・・・」
男「・・・」
女「・・・怒ってるの?」
男「怒ってないよ、自分自身に呆れてるだけ」
女「・・・」

男は終始不機嫌な様子で、女はそんな男の機嫌を直そうと必死な様子だった。僕はウンコを踏んづけたような気持ちになっていた。

乗換えの前にどのようなやりとりがあったのかは分からないけど、おそらく女の何かが気に食わなかったのだろう。最初から乗り換える必要が無いことは明らかだったのに、あえて女に選択を間違えさせた。それはなぜか。女を責め立てる理由が欲しかったから。どうしても女に難癖を付けたかったから。そんなとこよね、たぶん。自覚はしてないんだろうけど。

男はその後もずっとムスッとした態度だった。女の方はおそらく納得はしていなかったのだろうけれど、その扱いがいかに理不尽であるか、そういうことを筋道立てて説明するのが苦手なタイプのように見えた。そこに突け込んでるのもまた気に入らない。女はとにかくその場を丸く納めようとしていた。男は態度を軟化させる様子がない。あれでマウントを取ったつもりなのだろうか。女の大らかさに甘えてるだけだということがなぜ分からないのだろうか。

若いのかな、とチラッと横目で見たら二人ともまあまあ年食ってる感じだった。若く見積もっても二十代には見えない。ただ、やはりというかなんというか、男のほうは女慣れしてなさそうな、要するに端的に表現してしまえばいかにもモテなさそうな容貌の男だった。男の「モテなさそう」ってどこから滲み出てしまうのだろう。取り立てて顔がマズイわけでも服装に難があるわけでもなかったんだけどな。僕も滲み出てたらイヤだな、などと図らずも自分の心配までするハメになり更に不愉快な気持ちに。

せいぜい10分足らずの出来事だったけど、何か妙に色々考えさせられて疲れた。しかし男がモテそうであろうとモテなさそうであろうと、結局「愛がない」ことが一番の問題なんだろうと思う。

「そこに愛はあるのかい」

なんて、時代遅れの柄にもない言葉が妙に説得力を持って僕の頭の中を駆け巡った。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?