[再掲]サマタイムと値段のつけかたの話

※本記事はAllrightのブログにて2018年7月31日に投稿された記事の再掲版です。

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 いよいよサマタイムのアナログレコードが発売となる。

 「刺すような陽射しがどうしようもなくただ」という歌い出しがぴったりな酷暑。MVを作ってくれたソーシキ博士による描き下ろしのジャケットイラスト。昔から大好きだったイスラエルのButtering Trioによるトロトロのリミックスバージョン。そしておなじみ唯さんのアートディレクションにより、最高の作品が完成した。

 普段はこちらに見える向きで棚に置いておき、ちょっとゆっくり過ごしたいときに等にプレーヤーへセットし針をオン。そうすれば夏の気だるさも、暑さの陰にひそむちょっとした物悲しさも、いくらか付き合いやすくなるだろし、ちょっとしたパーティーでDJがサマーチューンとしてかけてくれてもうまくいくはず。とにかく平成最後の夏を飾るにふさわしい名シングルだ。

 500枚だけ製造して、増産する予定はない。もしかしたら一瞬でなくなってしまうかもしれない。そんなときに残念がる顔をみたくない。是非みんな早めに入手してほしいと思っている。


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 さて、そんなサマタイムの価格は2曲入りで3,000円である。あなたはこの値段をどう思うか。「あれ、ちょっと高くない?」そう思う方々に向けてきょうはこのブログを書いた。(そうでない方もぜひお読みください。)

 確かに、「サマタイム」はシングルサイズのレコードとしては、相場と比べると高額だ。普段アナログレコードを買わない方はピンとこないかもしれないが、同じ収録曲数の作品を探してみるとだいたい1,600円~2,000円くらい。

 1曲あたり1,500円と計算して「高い」と思う人もいるかもしれない。そういえば2兆円は60曲入りで2,000円で、同じように値段をつけるならこのレコードは67円になるだろう。配信でもふつう1曲250円くらいだし…。

 じゃあなぜ、今回の「サマタイム」はこの価格なのか。それは、これまでと全く異なるやりかたで値段をつけたからだ。僕にとっても初めての挑戦だったけど、結論からいうと、この方が健全だろうと思っている。

 どういうことだろうか。

 具体的な話をすると、①ソーシキ博士のイラストへの対価②Buttering Trioへのリミックスへの対価③レコード製造費の三つを合算して、作りたかった500枚という枚数で割って、そこにいつも通りの利益率をかけて販売価格を算出した。原価に対する利益の割合でいうと、東郷清丸のほかのグッズと変わりがない(2兆円だけ例外だけれどそれはおいておく)。むずかしいことはない。単純な値付けだ。

 反対に、これまで僕がどういう風に計算していたのかお伝えしたい。まずは作る前に相場を考えて売価を固定。売れる予定枚数を考えて、総利益を試算して、「では今回かけられるお金はこのくらい」という予算のラインを定めて、それを超えないように制作する。以上。…どうだろう。これはこれでなんか普通っぽいが、僕は日頃から、こと創作においてこの設定方法でいい結果が生まれるだろうかという疑問を持っていた。

 そもそも、なんでみんな販売価格をほかと合わせたがるのだろう。もっとも大きいのは「ほかと比べて高いから買いづらい」というのを避けたいのだと思う。頑張ってつくったものが、うまく売れなかったり、ましてや損にでもなったりしたらこんなに辛いことはない。絶対にいやだ。そうすると「売値はできる限り安いほうが買いやすい」という心理が働いて、いろんなことを切りつめようとする。

 まずは製造費がターゲットだ。より安い発注先はないか、印刷の色数は減らせないか、校正はとらなくてもいいんじゃないか。

これら全ては価格を下げるためにクオリティを犠牲にすることに繋がる。経験則だけど激安の発注先は対応が値段なりなので細かいところの表現性はかなり劣る場合が多い。ほかと比べて高いところはそれなりの理由がある。しっかり対応してくれて技術があるところは往々にしてちょっと高い。

 この辺りは、ふつうに買う人にとって気にならないかもしれないレベルの差で、しょうがないかと切り捨てやすいところでもあるが、ソーシキ博士と唯さんに入ってもらってそういう安易な選択はしたくなかった。

 次に、今回でいうソーシキ博士やButtering Trio、すなわち一緒にやる人たちへの対価としての費用。イラストでも音楽でも「予算にはまりそうにないから」という理由で自分でやるとか、なにか過去の素材を使い回すとかそういう風にして費用を抑えてなんとなく形だけはそれっぽくしたもの、というのは目に見えてガクッとパワーが落ちる。

 "この座組みでやったらいいんじゃないか"と閃いたときに超ワクワクした気持ちや、そのときに想像した「こんなすごいものができるんじゃないか」という大きな期待。それを弱めるようなことは今回はやりたくなかった。

 あとは、たくさん作ると単価が抑えられるということもあった。例えば1,000枚とか2,000枚つくればもう少し単価が抑えられたはずだけど、いまの自分の活動規模を考えるとそんなに作ったところで余らせるだけだろうから無駄だ。届けたい人に頑張って届けられるちょうどいい部数として500枚というのも変える気が起きなかった。

 そもそも「サマタイム」の曲の良さには自信があるし、遠くの地にいてコミュニケーションが難しいButtering Trioの面々にも気持ちよく制作して欲しくて頑張ってメールして(Kerenはやりとりの最後にWe enjoyed making it very much.って言ってくれた)、ソーシキ博士のイラストもかわいくて最高だし、アートディレクターは唯さんでビュジュアル面も文句なし。そうして関わってくれた全員のエネルギーをしっかりと仕上がりにのせるために、お金を惜しみたくなかった。

 おまけに付け加えると時間も惜しんでいなくて、マスタリングもアナログカッティングもジャケット印刷もすべて工場まで立ち会った。どれもこれも繊細な差だけれど、とにかく全ての選択肢において油断せずに最善を選びたかったから手間も惜しまなかった。

 さあ、そして完成して手元に届いた「サマタイム」は僕には神々しいほどビカビカに光って見えた。最高だ。こんないいシングルが3,000円=アルバム1枚くらいの値段で買えるんでしょ?やっぱり全然高くないじゃない!!と思ったりした。適切にかけたお金は成果物にきっちり反映される。関わってくれたみんなのおもしろパワーが僕にはありありと目に見える。そういうわけで今もこの価格にかなり自信があります。みなさんもためらわずに、一度手にとってほしいと思います。よろしくお願いします!

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 さて、ここまでは作った僕の気持ちの話であって、それを売るショップの方々はまた別の論理がある。

 完全手売り限定の「よこがおのうた」と異なり、今回は直接付き合いのあるレコード屋さん何件かに置いてもらっていて、事前の交渉段階で実際に「高いです」って言われたりもしたんだけど、そりゃ当たり前だなと思った。

 いくら素晴らしくても売れないと利益が出ないし、ほか作品と並べなきゃいけないし、お客さんの意識にはどうしたって相場感覚が作用するだろうし…。

 それでもどのお店も最終的には取り扱いしたいと言ってくれて、大変嬉しかったです。各店舗の方々の判断いつもよりすこし踏み込んだものだろうなと思いました。2兆円でがたくさんの人に広がっていったから、そのときの信用が少し残っていてよかったなと。今回僕のやりたいことに付き合ってくれたお店の方々にも大変感謝してます。

 物販とwebショップで購入できますが、お近くに店舗があるかたは是非そちらでお買い求めください◎

★取り扱い店一覧(適宜追加します)

<東京>
ココナッツディスク 池袋店
ココナッツディスク 吉祥寺店
ディスクユニオン 日本のインディーズ館

<千葉>
16の小さな専門書店 (そごう千葉ジュンヌ3館F)

<大阪>
フレイクレコーズ (南堀江)

<長野>
MARKING RECORDS (松本)

<静岡>
論LONESOME寒 (熱海)

<群馬>
September Recors (高崎)

<福井>
ホシとドーナッツ (福井)
※現・HOSHIDO

<広島>
STEREO RECORDS (広島)

<香川>
サンリンシャ (高松)


圏内にショップがない方は Allright Music Store へゴー!

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