矢沢永吉の自伝はお前らが思ってるよりも全然凄い

気分がすぐれないまま夜半に突入してしまったオレは、気晴らしに矢沢永吉の書を写経することにした。

矢沢永吉は凄い。
矢沢の音楽、聴いたことある? オレ、無い。
時々ビールとかプラズマテレビのCMに出てる人、みたいな感じでしょう?
最近だと、リネージュ2で痺れちゃってる人とかね。
それでもね、どんなわけでだか、ある日ワオっと手に取っちゃったりすることがあるわけ。
矢沢の自伝

これよ。
『成りあがり How to be BIG』

YAZAWAの音楽なんて、言ってみたら地方で土建やってる兄ちゃんが聴いてるやつ、そんなイメージでしょう?
古くて、なんか顔とか悪そうな感じなのに、アイラブユーみたいなこと言っちゃってて、わけわかんない、何も考えて無さそうな詞、みたいなイメージ。
言っちゃ悪いけど、オレもそう思ってた。先入観ね。

だから、これ読んだ時には、そりゃたまげたよね。

オレ、絶対に金持ちになってやろうって思ってたよ。金さえあれば何でも手に入ると思った。
金で買えないものがある? うん、あるだろうな。あるって、軽く言ってやる。
でも、そういう「金で買えないもの」って言い方には、すごく抵抗があるんだ。
金があれば、二兆円ぐらい持ってたら、京王プラザなんかでも買える。でも、言われるだろう。
「彼はきっと孤独なんだ」
うん、孤独かもわかんない。
オレ、進んで孤独になる。オレにはそっちの孤独のほうがいいから。長屋の孤独、嫌いだもん。大邸宅の孤独を選ぶ。
もうごめんだよ。長屋の孤独は……。
金がすべてじゃない。こう言う人にも、やはりふたつのタイプがあると思う。
まったく、頭から金持ちになることを放棄してるやつ。自分の才能がないってことを、完全に理解してるんだ。
もうひとつは、苦労を知らないやつ。
金では買えないものがある。
すばらしい愛。
うん、そうか。いまの愛情は、だいたい金で買えるね。女の愛情も、金で買える。言っちゃ悪いけど。
人間て、タブーがたくさんあって、その緊張感でバランスをとってる。つまり、それを言っちゃったらおしまい、そんな感じがあるんだよ、世の中には。でも、ほんとに、ほんとのことを言えってことになったら……。
全部、金で買える。島も買える。ナオンも二十人ぐらい買える。
田中角栄、おおよし、認めるよ。オレの正義っていったら銭だ。銭さえあれば、正義も悪魔も全部買える。
カラーテレビ一万台くらい部屋に置いて、朝から一発ずつぶっ壊せる。ナショナルからソニーから、片っぱし。本日は朝から晩までかかって十八台壊したから、明日は八十台追加持ってこい。こうね。
オレの正義は銭だっての、合ってるね。(P24)

読みはじめてさ。表紙だ目次だちょうちんだっていって、最初のほうは意味のあることは書いてないから。本文に入る24ページ目から、いきなりこれね。

「金では買えないものがある」、これはよくある話。で、「金では買えないものがあるとか言うやつはフェイク野郎」、これもまあ実際よく聞く話なわけよ。ホリエモンとかよく言ってたような気がするな。

矢沢がYAZAWAだなって思うのは、その後。
金があったら、テレビを買うというわけよ。それも、カラーテレビ
これ、時代性ね。
つまり、テレビっていったらカラーじゃない可能性がそこそこあった時代の話なのね。女のこともナオンって言ってるしね。
それなのに矢沢ときたら、テレビをさ、カラーテレビをさ、買い占めるとか積み上げるとか、そんなチャチな話じゃなくて、ぶっ壊すって言うのよ。何ら意味もなく。ナショナルのテレビを。パナソニックではなくナショナルの、カラーテレビを……これには、たまげたね!

まあこういう、極貧から這い上がったスター特有のね、あえてあけすけにビッグマネーのことを話すカッコよさが、まずあるわけ。

で、そう思ってたら、そういうイメージがオレの中にできてきたら、その足でそれがまた、ぶっ壊されるわけよ。

銭じゃない。オレ、そんな銭に不自由してないんだよ。
とんでもない山奥に行って、田植えしてるオバサンが、手を休めて「おお、矢沢が来た」って観にくるくらいまでやりたい。鳴門海峡から、佐渡島から、村中の人が観にくる時代にしたいよ。
乗りかかった舟じゃないか、こっちも。外国にも行きたいよ。日本っていうところには、矢沢ってオトーサンが椅子構えて待ってますよ……言われたいもん。(P268)

不自由してないんかい。

てか、「おお、矢沢がきた」って何だよ。どんな有名になってもそんなことならないだろ……と思ってたんだけど、実際それに近いことが行われていて己の至らなさを痛感したね。

徳之島で新YAZAWA伝説!「伊勢エビ消えた」
https://www.tokyo-sports.co.jp/entame/602473/
2016年10月10日 東京スポーツ

「村中の人が観にくる時代にしたいよ。」って、個人の成功を時代単位で語ってるの、ロシア倒置法っていうのかな? アレみたいな感じ。当時まだソ連だけど。
まあとにかくだな、矢沢はさ、あっちからこっちから、日本中を駆け回ってたわけだ。それを象徴するエピソードを引用してみようか。

風呂に入って、鏡があった。自分のからだを、しげしげと見た。顔がかなりやつれて、からだが疲れてるみたいで、オレの方を見返してる。
ひとりで、鏡の中のオレを見てつぶやくわけよ。
「永吉、お疲れさん。もうちょっとの時間、旅、長いから頑張れよ。きょう一日は、ともかくごくろうさん。おまえも最近やつれてきたな」
オレにとっての、最高の親友だよ。このからだは、よくオレについてきた。誰もが見放して、誰も面倒みてくれない時も、オレという魂にこのからだは、まじめに忠実についてきてくれたもん、今日まで。いちばんかわいそう。
でも頑張ってほしい。矢沢のからだには……。(P266)

「風呂に入って、鏡があった。」って、微妙に接続詞とかがおかしいんだが、疲れてるっつう話だからね。偽りなしだと思うよ。
頑張ってほしい。矢沢のからだには……。」って、離人症だもん。疲れすぎでしょ。矢沢の名言のなかでも特にポピュラーな「俺はいいけどYAZAWAがなんて言うかな?」ってのがあるが、あれは意識的にやってるからね、こっちのほうがヤバそうな気がしてるよ、オレは。
(余談だけど、オレのGoogle日本語入力では「オレ」と打つと「俺はいいけどYAZAWAがなんて言うかな?」に変換できるようになってる。)

とにかくこのあたりでもう、矢沢永吉の、極めて独特かつ鋭く本質を抉るような言語センスや思考パターンが、認識できてくるんじゃないかな?

次は矢沢永吉でも恋をするというエピソードを引用しよう。高校時代にクラスにいたちょっと上品なお嬢さんに恋してたっていうんだから、わからんね。人間。

高校を卒業して横浜に出てからも、いろいろ、オレたまんないとか、手紙では言うわけ。なんだかんだと。
便箋なんて、山よ
前略、あ、ダメだ。バリッ。この横棒が曲がった。バリッ。二枚くらい手紙を書くのに、ができちゃう。
あいつは、サラサラと達筆なわけよ。
「この間、中禅寺湖の白樺並木に行ったの」とか。その時分、もう大学だわね。神戸の薬大行ってるわけよ。
「学校の仲間と四人くらいで行ったんですよ。すごく素敵でどうのこうの……」って、白樺並木よ。オレ、そんなもん、見たこともきいたこともない。物語の世界。当時、オレ、何よ。キャバレーまわって、ワオワオやってる。
そういうぐあいに進んでた。手紙のみ!
(P47)

「手紙のみ!」の、崖からハングライダーで離陸するような飛翔感ね。
これ、積み上がった手紙を「山」と断言したことによる連想効果とかも、あるんだと思う。ビジュアルが。
そんで、キャバレーで演奏してる様子の、謎の矢沢擬態語「ワオワオ」。これは、矢沢節のパロディでは必ずといっていいほど使われるから、知ってるひとも多いんじゃないかな。
でも、「あ、本当にワオワオって書いてたんだ。本人が。」っていう驚きは、確かにあったと思う。

この「ワオワオ」っていうのは、ミュータント・タートルズにおける「カワバンガ」みたいなもんかしらんね。矢沢は何かっていうと、「ワオ」って言っちゃうんだよな。それはたとえば、こんな具合。

それから、一ヶ月、ピタッとジョニーから連絡がこなかった。電話番号も聞いとくの忘れてたしね。
その間、あいつ病院入ってたでしょう。大問題起こしちゃって、カミソリでワオッとやっちゃって手首なんか。
そんなこと、こっちは知らない。「あ、あいつ連絡こないな。ダメかな」って思ってた。(P190)

ワオッとやっちゃって手首なんか」!! なんなんだろうね、コレは……リストカットに、決してふざけてるとか不謹慎ネタっていうわけでもない。かといって、とんでもなく深刻なとこからは、やっぱり出てこなそうだし。なんかもう、そういうものとして受け入れるしかないんじゃないかね。はい、みなさん、矢沢は形容しがたいときにワオッと言いいますよ。今で言ったら、「エモい」みたいなのを音で表してんのかもしれないね。どこまでいっても矢沢はミュージシャンだから。

それと、この本、妙に読みやすいなと思ったら、これ、文字起こししてるの、若き日の糸井重里なんだってさ。糸井の人、『となりのトトロ』で「この木はね、このあたりの守り神なんだ」なんて言いながら、こんなロックンロールなことやってんのよ。人は見かけによらないよね。

そんで『成りあがり』は小学館から単行本で出て。当時、文庫版つったら単行本と同じ版元が当然の常識よ。それを、コカインで捕まる前のまだ角川書店でワオワオやってた角川春樹が、オイ、文庫版は角川で出すぞって無茶苦茶言って、それで「やったったります」つって正面からワオッと突っ込んでったのが、若い頃の見城徹だっていうのよ。
https://cakes.mu/posts/8598

もういいだろ。だいぶ長くなったからね。もう十分。矢沢の半端じゃない言語感覚、思想、スピリット。だけど最後に、今日イチ長い引用をさせてもらっていいかな、OK?
新装版文庫全300ページの、ほとんど最後の方だ。

ファンって、大事。そんなのは常識だ。
そんなふうなことは、当然の当然。
オレに言わせれば、まず、ファンてのは冷たい。身勝手なのね。
これは、悪いってことじゃないよ。そういうものだ。
よく見てる、オレたちを。
だから怖い。そして幼い。そういうこと全部含めてファンだと思う。それを知ってるか知らないかじゃ、大きな違いがある。
浮かれちゃいけないし、媚びちゃいけないと思ってる。
オレ、六割は、自分指向でやってる。
オレのオリジナリティーを出して説得していく。ファンよりも先を走る。
合わせよう合わせようと考えてるやつには、本物はできない。
もちろん、ファンが何を求めてるか、考える。でも、それをあんまり意識したくないんだ。それが信条だね。
「オレ」なんだ、まず。
オレの「オレ」との闘い。
それをファンが評価すればいい。
ファンていうのは怖い、そして身勝手。それでいい。
なぜなら、法律に「矢沢のLPを買いなさい。ステージを見なさい」と載ってないもの。自由なのよ。感受性のままに、自然にレコード屋に行って、自由な判断のもとに選べるわけ。
こういう彼らを説得する道は、ただひとつ。
ハート・トゥ・ハート。
泣かせるしかない。こっちで努力するしかない。
ファンは、単純なんだ。ナメてない意味でね、これ。
つまり、もっといいものがあれば、そっちにすぐ行くってこと。
だから怖い、ナメられない。
手を抜いたら、ファンの決断というのは、すごく速いね。
何百種類、お店に、レコードが並んでるんだ。
その中から二千五百円出して、一枚買う。重いよ、これは重い。
でも、ハート・トゥ・ハート。信じてる。
オレは煮つまらないもの。四分六の強気を持ってる。だから言う「何でオレが媚び売らなきゃいかんの」
オレは、オリジナリティーを大切にしてる。自分のテーマが大切なんだ。(P276)

もう、何も付け加えることは無いね。
最後にもう一度、Amazonのリンクを貼っておくよ。アフィリエイトとかは付けてない。混じりっけ無し。

Thank you!!

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