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おまえはそんな体たらくで『胎界主』の「無責任飛行」を生き残れると思っているのか

よく来たな。おれはロジオン・ロマーヌイチ・ゴンブローヴィッチだ。言っておくが http://www.taikaisyu.com/ で『胎界主』を読んでなお自分が胎界主であり真の男であると気が付けないのであれば、おまえは救いようのないあほか現実を直視しようとしない腰抜けだ。

胎界主!おまえはそのタイトルを聞いて古傷がじくりと痛むのを感じた。右目を縦に切り裂いたその傷だ。覚えがあるだろう。「全編無料で読めるダークファンタジー長編webコミックがある」かつて風の噂にそう伝え聞いたお前は居ても立っても居られなくなり、胎界主というメキシコの地に降り立った。だが、終わりまで読もうとせず、投げ出した・・・・「設定がわからない」「何の話をしてるのかついていけなくなった」そんな泣き言を言いながら、おまえは幌馬車で胎界主の荒野を後にしたのだ。右目という、大きすぎる代償を後に残して。

以来おまえの暮らしはどうだ。昼間からHUBとかでウィスキーに溺れ、醜い傷痕を見たくないからと言って鏡の前に立つことにすら怯える始末だ。初めて胎界主という作品を知ったときに覚えた胸の高まり、魂の震え、そうしたものを心の奥底では覚えていながら、そんなものはもう終わったことで自分には関係がないなどと自分に言い聞かせている。

このまま行けばおまえの末路はすでに決まったようなもの・・・・これから胎界主を読もうという者を見ては「やめおてけ、若いの」とか知ったような口を聞く凝り固まった老人と化し、そしていつしか刺激に満ちたウェブ漫画や、豊穣なる個人サイトの存在そのものを忘れて日夜TUUITTERのタイムラインを眺めるだけの人だかAIだかよくわからない存在になり、死ぬ。

そんな腰抜けの日々に、おわりが訪れた。おまえが再び立ち上がり、胎界主を読む時が来たのだ。今回おれはおまえを徹底手敵に鍛えなおし、胎界主の歴史に残る一大イベントである「無責任飛行」を生き延びられるだけのタフネスを授けてやるつもりだ。言っておくが、これは今日初めて胎界主という作品を耳にしたおまえにとっても当てはまることだ。なぜならメキシコの熱風は、いつも突然吹き荒れるのだから・・・・・。

多くの血が流れるだろう

おまえは蠱毒という中国の故事成語を知っているか?狭い壺の中に入れられたつわものどもが殺し合い、最後まで生き残ったやつが皇帝になる。「無責任飛行」ではちょうどそれと似たことが起こる。そこに至るまでの間にそれなりに修羅場をくぐった経験を持ち、また相応の自信も備えたギャングたちが殺し合いの坩堝に放り込まれ、虫けらか何かのように命を落としていくのだ。

とは言え上の説明だけではまだ不十分だ。かつて右目を抉られた時のことをおまえはよく思い出してみるといい。おまえは胎界主の圧倒的な情報量と一癖も二癖もある展開を前に膝を屈したのではないのか?「無責任飛行」は第1部のクライマックスなので、それまで張られてきた伏線の総決算がなされる。このことはある程度情報を整理してから挑まねば、残る左目も失うことになりかねないことを意味している。その場合おまえのウェブコミックライフは困難を極めることになるだろう。用心してかかることだ。

おさらい:「無責任飛行」に至るまで

第1部の中盤から終盤にかけて、物語の筋をわかりづらくしている要員の一つが三つの派閥に分かれた悪魔どものパワ・ゲームだ。こいつらは基本的に派閥間で凡蔵稀男を取り合いをしているのだが、その動機がそれぞれ別だったりまたそうでなかったりして大変ややこしい。各派閥がBOSSの名前を冠しているにもかかわらず、実際にそれらのBOSSは出てこず、なんか能があるんだかないんだかわからない中間管理職的な魔王どもしか出てこない点もおれをひどく悩ませた。

三派の中でもベリアル派はもっとも典型的な悪魔らしい振る舞いをする派閥と言える。BOSSはそのままベリアルだが、君主はメフィストフェレスだ。こいつは賢ぶって紅茶の種類とかに詳しいわりに良いところがなく、だいたい初登場時からしてジャリの口車に乗せられる始末だ。また遠方からやってくる亡者の軍団骸者を討つべく使い魔(魔王との契約者)を募っているが、現状ろくなメンバーが集まっていない。

メフィストフェレスはパーティーに稀男を加えるべく前世の亡霊である傀(かい)サッキュバスを送り込んで自分と契約させようとしたが、稀男にはいつも軽くあしらわれている。ヤバさで言えば悪魔とは無関係にどこからともなくポップして殺しまくった罰犬やレフ・レックスの方が数段上だったと言えよう。少なくともおれにはこいつが真面目にやっているとは思えない。

続いてベール派だ。君主はベールゼブブで、こいつはあらゆるステータスをカンストさせた大魔術師ソロモンに散々詰められた挙句パァになった狂王だ。行動原理は謎に満ちており、訳のわからないことを口走りながら場を引っ掻き回した後には大抵死屍累々になっている。稀男に対しては殺し屋ルーサー・ナッチェスや不死者の丸大豆ニキを送り込み、危うく殺しかけるところだった。

というわけで稀男の取り合いにはあまり積極的に参加していないが、上がパァだったためかベール派はあちこちガタが来て虫の息と化しており、いつの間にかルキフグ派に吸収合併されることとなってまた話をややこしくしたのでおれは心底うんざりした。残るルキフグ派にまだまだ謎が多く、存在感をあまり示していないのが救いだ。君主はアスタロトだが、こいつはジャリ魔導師タロット・アスの後見人以上のことはしていない。だが何にせよ危険な奴らだ。あまりジロジロ見ておくな。

悪魔以外の勢力にも触れておこう。東郷はアジア全土を陰から支配下に置く危険なごろつきの一味だが、稀男と関わったばかりに次期当主と当主が犬にも慰められない死に方をしたので流石にちょっかいをかけてこなくなった。勢力としては当分動きがない。

人狼ウェンディゴシャクヨウファージャルグを覚えているか?やつらは異界から来たゾンビ軍団の尖兵だ。狂信者ピュアの命を受けて、同じく異界の出身であるタロット・アスを追って来た。骸者は生き物と見れば手当たり次第に殺す連中でヤバく、基本は遭遇次第やるかやられるかだと考えてよい。普段穏やかな稀男もこいつらのことはキッチリ始末していた。そういうことだ。

直近の展開のおさらいとしては、稀男の護衛につけられたルーサー・ナッチェスが派閥間を行ったり来たりしてタイトロープな立ち回りをした挙げ句稀男ともども地獄に落とされた。だが少し前から二人の主君ヅラをしていたタロット・アスが全方位にゴネたので何とか現世に戻ることができた。このところ稀男の立場は悪くなる一方だったが、これで一旦は歯止めがかかった形だ。

また正気に帰った魔王ベールゼブブにより、魔王たちが数千年紀に渡って戦ってきた真の敵の存在が語られた。詳細はここでは語らない。なぜならそれはあまりに忌わしく呪わしい・・・・話を聞いたおれが、メフィストフェレスと二人して震え上がるほどに。おれとメフィストフェレスの額を、じっとりと冷たい汗がつたった。長い戦いになろう。そんな予感があった。前後のエピソーソ・・・・具体的に名前を挙げると「塔の男」から「生成世界の奇跡」にかけての一連の流れは非常にダイナミックであり、情感に訴えかけてくるものがある。胎界主という作品の中で、紛れもなく一つの到達点と言えよう。

荒野を歩む男たち

「無責任飛行」はガタガタになったベール派が醜い遺産争いを繰り広げるエピソードだ。ベール派の契約者(使い魔)どもが一つの島に集められ、容赦なく殺し合う。島全体が危険なメキシコと化し、最後に生き残った者がベール派の溜め込んできた莫大な財産を総取りするという寸法だ。しかしながら参加者の大部分は強制的にユカタン半島に召集をかけられたに過ぎない。こいつらは半ば死ぬために集まってきたとすら言える。

これまで手堅く短編形式で妖魔退治を続けてきた作品で急に殺戮大会が始まったことに、お前は違和感を覚えるかもしれない。反面分かりやすい展開を歓迎する向きもあるだろうが、別段テーマはこれまでと比べてブレていない。胎界主は「真の男とは何か」を追い続ける物語であり、「無責任飛行」の殺し合いは男がまた別の男を超えていく様をミニマルに描いたものに過ぎないからだ。それはちょうど西部劇の決闘のようなものだと思えばいい。

先ほど挙げた陣営のなかでは、ベリアル派と東郷がこの争いに一枚噛もうとしゃしゃってくる。ベリアル派の使い魔にして、人類最古の男アドニスと部下たちは参加者の中から骸者討伐隊のメンバーを募るために来た。アドニスは飲んだものに不死の命を与える天肢(てんし)の血をガブ飲みした不死者であり、不死身の肉体をフルに使ったインチキ拳法の使い手でもある。百戦錬磨だが、相手をすぐ舐め腐る癖があるのが命取りだ。おれはこいつが歩きスマッホとかして今まで何度も痛い目を見てきたが、そのたび不死パワーでゴリ押ししてきたので結果脳がヤワになったのではないかと疑っている。

東郷からは身内の復讐のために数名の球体使いが参加した。ただしその標的は稀男でなく、先々代の頭主東郷善を殺したレフ・レックスだ。東郷一味の筆頭は東郷情であり、こいつは党首東郷正義の弟にあたる。いい歳して少年漫画の主人公みたいな顔をしているが、テレポテーションの達人でその実力は折り紙付きだ。が、視野が狭くこいつも相手を信じられないほど舐め腐るので、真の男からは遠いところにいると言わざるを得ない。

レフ・レックス。こいつはどの陣営にも属していない。完全に独立した存在だ。長年悪魔どもに追われているが、レーザービームを撃ったり不死身だったりしてハチャメチャに強いので生き延びた。またこいつは世界各地で子供を作っており、娘は生かしておくが、息子は一定の年齢まで達すると殺してしまう。

レックスは経歴だけ見れば力にモノを言わせてメキシコの荒野を歩んできたサイコ野郎だが、ある種の際どい価値観に従って行動しており、ゆえに「無責任飛行」ではドラマの中しん的存在となった。こいつは自分が価値を見いださないものに対しては全く情けを知らない上、自分自身を除いて他のほとんどの物に価値を見出そうとしない。そのため自分の分身として完璧な息子を創り出そうとしているが、息子たちが理想に到達することは決してなかった。

ひたすら他の価値に対して厳しく、慈悲の心を失くした男・・・・果たしてこれが真の男と言えるか?「無責任飛行」はそうゆう疑問をおまえに投げかけている。これは周りの迷惑を考えろとか廊下を走るなとかというクソみたいな社会人のイロハではなく、人のあり方とかco-ミュニケーションとか、もっと根源的な部分に根差した問いかけだ。

当然主人公である凡蔵稀男も参加する。こいつはやるときはやる男だが、真の男としては未だ道半ばだ。なぜならこの男には「あれをしたい」だとかの願望がない。彼にとってあらゆる物事はゴミ箱に向かって放り投げたゴミに等しい。別段入らなくとも後から拾って捨てるだけのことだ。確実に入らなくてはならない理由などどこにもない。レックスとは真逆と言えよう。

稀男は人として不安定なさなぎのような状態にある。ユカタン半島を訪れたのも、ルーサー・ナッチェスが親父であるレックスの影から逃げ続ける人生にケリをつけに行ったのを後から追いかけたに過ぎない。そして死地において普段通りヘラヘラ振る舞うタフさを見せたが、名だたる悪党どもの業はこいつの上にも容赦なくのしかかった。実際かなりの死線に引きずり込まれ、シャレで済ますわけには行かなくなった。稀男は先ほどおれが述べたような問いと、真っ向から向き合うことになる。すなわち、真の男とは何か、胎界主とは何か・・・・だ。「無責任飛行」を読むということは、おまえにもまたそれらの問いに答えを出す時が来たということだ。

「無責任飛行」では一つの決着がつくだろう

胎界主はハードコアな真のWebコミックなので、出てきたキャラは役割を果たすとアッサリ退場する。もう一度言うが、「無責任飛行」では多くの血が流れる。真の男と目される人物であっても例外はない。レックスとルーサーの血で血を洗う争いにはちゃんと決着がつくし、魔王ベールゼブブも所属する派閥の崩壊とともに最後の戦いに挑むことになる。そこにあるのは矜持を賭けて戦う悪党どもの姿・・・・全てが終わったとき、後にはのわールの香りがほのかに漂い、おまえの傷ついた右目からはとうに枯れたはずの涙が・・・・流れる。

おまえがこの記事を読み終えたとき、おそらく、おれはもうこの世界にいないだろう。今や文明の利器の発展は留まることを知らない。社会のために役立つ取り決めや、金儲けの仕組みはAIにでも考えさせておけ。おまえはおまえにしか、できないことをしろ。真の男について思いを馳せることを、だ。そしてどうかおれの語ったことを、忘れずにいてほしい・・・・バンデラスのこと、トレホのこと、レックスのことを・・・・そうすれば、おれとおまえが再び巡り合う日も来るだろう。こことは違う、もう一つの世界のひながた・・・・ロックヘイムで。

W.R.G

ワシーリイ・ロマーヌイチ・ゴンブローヴィチ先生プロフィール:
エグゼクティブネットサーファー。逆噴射聡一郎先生を一方的にリスペクトしているが、実在の人物・団体とは一切関係がありません。

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