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【航空医学専門医がいない】航空自衛隊に戦闘機開発を指導する能力はない。


戦闘機に限らず、自衛隊の航空機を開発する際には単に機会やエレクトロニクスやソフトウェアだけはなく、裾野が広い多くの業際的な分野の協力が必要です。

そのひとつが医学、特に航空医学です。例えばF-35のヘルメットのように、従来と全く異なるヘルメットの開発には医学の知見が必要不可欠です。当然対Gスーツの開発にしても医学的な知見が必要となります。従来は無かったスーパークルーズを続けた場合のパイロットの体調などについても研究する必要があるでしょう。

そして航空自衛隊にはそのような航空医学を専門とする医官が殆どいません。先日空幕長会見でその件を質問しました。後ほど広報室の方から回答がありましたが、現在約120名いるという回答でした。ですがそれは質問の意図を誤解した回答でした。

空幕の回答の約120名というのは航空医学を履修してパイロットの健康診断などが可能なの医官です。

約120名とは、「航空医官課程(約6週間)を履修した医官で、部隊等で通算して概ね2年以上、航空衛生業務に従事し、航空幕僚長より航空医官に指定された医官の人数」です。

本来「専門医」とは、専門診療に必要な基本的な講習を受講後、3~4年の専門的な診療を経験し、筆頭での論文執筆や筆頭での学会発表を行い、試験や審査に合格した者に与えられる資格、その様な意味での「航空医学の専門医」(航空機の開発 や、現在の搭乗員に関する検診を改めるような専門知識をもった医官)は何名ほどいるのかと問いました。

回答は、「国内においては、ご質問のような航空医学に関する学会認定専門医制度は存在しない。航空自衛隊においては、航空業務に関する医学適性や航空身体検査業務等に従事
する医官を航空医官として指定しているが、各航空医官の専門性も多岐にわたることから、問い合わせの様な医官の人数を提示することは困難である」

とのことです。
防衛医大でも航空医学を専門に研究している医官はゼロ、ということです。これでは航空医学を発展させることは不可能でしょう。

防衛医大医学部の卒業は毎年75人くらいです。 概ね陸自45、海自15、空自15で振り分けられます。空自全員と海自の半分(海自の医官の半分は航空医官課程を受講、残りの半分は潜水医官課程を受講)、陸自は1~2名が防衛医大卒後2年間の研修医のあと、航空医官課程(約6週間)という講習を受けます。

航空医官及び航空身体検査判定官に関する達
http://www.clearing.mod.go.jp/kunrei_data/g_fd/1993/gy19930716_00024_000.pdf
「フライト・サージャンの役割と要請」
3. 航空自衛隊の航空医官制度
https://www.sasappa.co.jp/online/abstract/jsasem/1/045/html/1110450457.html

航空医官課程は、パイロットの身体検査の判定を基地で行うための必須の講習です。この講習の受講者を自衛隊では「航空医官」とか「航空身体検査判定官」などといいます。運転免許を取得するための最低限の講習と同じです。専門医とは次元がことなります。例えば運転免許を取ったからといって即座に教習所の教官になれないのと同じです。

一般的に専門医とは、専門診療に必要な基本的な講習を受講後、3~4年の専門的な診療を経験し、筆頭での論文執筆や筆頭での学会発表を行い、試験や審査に合格した者に与えられる資格です。空幕の広報は、航空医学の専門診療に必要な基本的な講習を受講した医官を専門医と勘違いしている。ということになります。
何しろ防衛医大では論文がゼロの医官を教授に据えたり、専門医や医学博士も持っていない医官を1佐や将官にしてしまう「医学組織」です。

国土交通省では、自衛隊の航空身体検査判定官にあたる医師を、指定航空身体検査医といい、3日官の講習を受けます。自衛隊の講習が長いのは、基地業務や基地の標準的な医療業務についての内容や実習が付随するためです。日本では欧米の宇宙航空医学専門医にあたる制度はないのですが、日本宇宙航空環境医学会 宇宙航空医学認定医 という制度があります。
http://jsasem.kenkyuukai.jp/special/?id=4690 

ここでは3日間の講習を受講後、宇宙航空医学認定医という資格を得ます。専門医は認定医のさらに上級の資格ですが、対外的に宇宙航空医学の専門医といえるレベルの医官は数名しかいません。多くの医官は、規則通りの身体検査と判定を行っているだけです。そのため治療法の進歩や診療のガイドラインが変わったときに自衛隊の規則改正を考える能力がないようです。

航空自衛隊では米国で8か月の上級航空医官課程を受講したものは、数名に過ぎず。多くは受講後に自衛隊のレベルの低さに落胆して退職しています。

航空医学専門医に相当する医官は、空自では一人だけ。JAXAに数名、JAL ANAに数名といったところです。現在空自で残っているのは1名だけ。最後のひとりもこの3月で空自に見切りをつけて退職します。つまり4月以降航空医学の専門医とよべる医官はゼロ、になります。

パイロットや宇宙飛行士の健康診断に関する知識の豊富な医師は民間に数十名 航空宇宙医学の医学研究に関する知識が豊富な医師はやはり民間に数名という感じです。
これで航空医学の進歩は全く期待でないし、他国から取り残されていくことになるでしょう。このような現状で戦闘機の開発を医学的に支えることは不可能です。共同開発のパートナーである英国やイタリアに期待するしかないでしょう。

このような現場を知ってか知らずか、空自や三菱重工の人間は世界尖端の戦闘機は国内で十分に開発できると豪語してきました。常識的に考えればこの程度の「素人以下」の人物が集まって戦闘機を開発できないことはそれこそ素人にも理解できるでしょう。

また海自や陸自でも航空機の開発をしているわけですが、なおさら航空医学の観点からの能力はないでしょう。また実は海自の潜水医学の専門医も殆どいないということです。これでまともな潜水艦や潜水救難システムを開発したり、潜水医学を発展させることができるでしょうか。

自衛隊の衛生は極めて貧弱です。衛生は3自衛隊と統合して第四の軍種として独立させて、その陣容を強化すべきです。


■本日の市ヶ谷の噂■

防衛医大の国家試験の合格率は詐欺です。
今年の医師国家試験(第118回)合格発表が3月15日にあったが、防衛医科大学医学教育部全体70/72(97.2%)、新卒64/66、既卒6/6合格で、全国9位!、国立では1位!!と自画自賛。だが。そもそもこの学年の入学は85名から72名に減少し、6年生も6名卒業させなかった。つまり新卒の受験者が66名というが、この学年の入学は85名、途中で19名が抜けている。6年生になりながら6名卒業できていないから、13名は途中で留年。
85名入学して64名合格なら 合格率は75%、全国びりになる、との噂。

https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/001226842.pdf


月刊軍事研究4月号に陸自の18式防弾ベストに関する記事を寄稿しました。


軍事研究 2024年 04 月号 [雑誌]

apan in Depthに以下の記事を寄稿しました。
次期装輪装甲車、AMV採用を検証する その2 AMVのライセンス生産によって日本の装甲車事業は壊滅する
https://japan-indepth.jp/?p=81695

次期装輪装甲車、AMV採用を検証するその1
駿馬を駄馬に落とす陸自のAMV採用
https://japan-indepth.jp/?p=81667

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