日記っぽく書いたコント「ほっとけねえよ」

今日はとても忘れられない出来事があった。

俺は一人河原で佇んでいた。するとそこへ、親友のタケルが息を切らせながらやって来た。
「おいケンジ。こんなとこで何やってんだよ」
「…何がだよ」
「何がじゃねえよ!キョウコのやつ、今日の便でアメリカ行っちまうんだぞ!」
そう言いながら、タケルは俺の胸ぐらを掴んできた。
「好きなんだろ、キョウコのことが!早く行けよ!ちゃんと気持ち伝えろよ!」
「…うるせぇな……お前には関係ねえだろ?ほっといてくれよ」
「…っ…この……馬鹿野郎!」
タケルは俺の顔を思いっきりぶん殴った。
「関係ねえ訳ねえだろ!俺ら親友だろ?親友のお前がこんなんなってて、ほっとけねえよ!」
タケルの真っ直ぐな熱い想いが、俺は苦しかった。
「ほら、行け!いいから早く行けよ!」
「…ってぇな。離せよ」
「びびってんじゃねえよ!キョウコの事が好きなら、ちゃんと空港行って気持ち伝えろよ!」












行ってた。









もう行ってた。









行った後だった。













空港に行き、キョウコに気持ちを伝えた。まだ時間に余裕もあったから、変に慌てることもなく、ちゃんと落ち着いて話をした。
その上でしっかり、公式に断られた、その後だった。








「いいから…ほっといてくれよ」
「ほっとけねえよ!なぁ、お前このままでいいのかよ?このままじゃ絶対後悔すんぞ。男ならよ、惚れた女に、ちゃんと好きだって伝えてみろよ!」


伝えてた。
もう伝えてた。伝えて断られた、その後だった。
時間に余裕もあったから、喫茶店でコーヒーを飲みながら、ちゃんと言葉を整理しながら伝えたけど断られた、その後だった。

「……もういいんだよ」
「……いい訳……いい訳ねぇだろうが!」
俺は再び、タケルに顔をぶん殴られた。

「お前はどんだけ馬鹿野郎なんだ!お前は自分で、キョウコのことがどれだけ好きかわかってねぇんだよ!」

わかってた。
だって行った後だったから。一回断られても、だいぶ粘ったから。
流石にあんまり粘るのもみっともないかと思ったけど、でも時間に余裕もあったから、目一杯ごねてみせた。アイスコーヒー奢るからとか、ケーキセット頼んでもいいよとか言ったけど、それでもダメだった。
余命3ヶ月って嘘もついた。でもダメだった。
「1ヶ月なら!?」って聞いたけど、「それ聞く意味がわからない」と言われた。ちらっと靴も舐めたけど、それでも断られた、その後だったから。



「ほらよ」
タケルはそう言って、俺にある物を放り投げてきた。
「俺のバイクのキーだ。それ乗って、早くキョウコんとこ行ってこい」

嫌だった。
だってもう行ったから。タクシーで行って、タクシーで帰ってきたばかりだったから。なんでわざわざもう一度交通手段を変えて行かなきゃいけないのか。例えもう一度行ったって、俺はまた空港の真ん中で、ヘルメットが割れるくらい土下座して終わるだけだ。





「あの、もう…ほんとほっといてくれ」
「だからほっとけねえって言ってんだろ!」
殴られた。また殴られた。タケルは毎回、俺の右頬を的確に振り抜いてくる。

「ほら行けよ!いいから行けって!びびってんじゃねえよ!ほら、いいから早」
「もう行った!!!!!」




静寂が訪れた。


「……え?」
「…もう……行ったんだわ」
俺は白状するしかなかった。もう、本当にほっといて欲しかった。



「あ……行ったん?」
「…うん」
「あぁ……そうなん…」



タケルはそれ以上、何も聞いてこなかった。
きっと俺の態度で、結果がどうだったか察しがついたんだと思った。



「……いや……行ってないと…思ったから……」

それ以上何を言うでもなく、タケルは居心地悪そうにその場に佇んだ。
殴った事は全然謝ってこなかった。けど俺もそれを言うでもなく、ただただ黙ってその場に座り込んだ。
「……帰んないの?」
俺がそう聞くと、タケルは
「……いや、まぁ…ほっとけねえから…」
と、小さな声で言った。俺は
「ほっか……」
と呟いた。右頬が腫れすぎてうまく舌が回らなくなっていた。


どれだけの時間そうしていただろう。
不意に、沈みゆく夕日が俺達を照らした。
俺はゆっくりと立ち上がり、夕日に向かって「バカヤロー!!」と叫ぼうとした瞬間、口の中に蚊が入った。




元ネタ












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