人牛倶忘

今年に入って何かと忙しく,弓を引くひまも本も読むひまも無かった。ようやく先週末あたりから時間が取れるようになり,今日はいつものとおり過ごすことができた。忙しいと思ってしまう自分は嫌いだ。

今年はまだ3冊しか本を読んでいない。本当はもっと読みたい気もするが,本を読む時間は少し削って,課外活動に精を出すことにしている。先々週は山奥の集落に入って木を切ってきた。ボランティアだ。ボランティアをするひまなんてあるのかと言われそうだけど,仕方がない。身体がそちらに向かうのだ。

そんな合間を縫って,養老孟子著の「神は詳細に宿る」を読了した。おもしろくて一気に読んでしまった。とは言っても,これまで筆者が語ってきたことをトレースしたもの。言ってることは30年前とそう変わらないかもしれない。だからすらすら読めたのか。

意識と感覚,差異と同一性,環境問題。ざっくりと印象に残ったテーマ。さらにざっくり言うと,社会を変えるのは,政治でも環境でもなく,自分自身だということ。より良い社会を目指すのであれば,自分自身が変わらなければならない。あたりまえのようなことだけど。

昨年,大学生の前で男性の育児参加について講義した。その準備をしているとき,考えあぐねていた僕は,別業界の先輩にかなり相談に乗ってもらっていた。そのとき導き出された一つの答えが,「いくら男性が育児に参加しやすく,女性が働きやすくなるような制度ができたとしても,その制度を有効に活用するマインドが無ければ形骸化する」ということだった。

言ってしまえば,その人次第。男性が育児休業をとるような雰囲気ではない職場であれば,その制度は活用されないだろうし,また育児休業する男性をネガティブに捉えるのであれば,その人自身も育児休業をしないだろう。

だから,これから社会に進出する大学生には,一人ひとりがどうすればより良い社会にすることができるか考えてほしいと思っている。

「より良い社会をつくりあげていくのは,これから社会に出ていくあなたたちです。」という言葉で締めくくった。要は,それぞれのものの考え方。育児休業に対するポジティブなマインドが,男性が育児休業しやすくなる社会を実現することができる。と,僕は思っている。

育児休業だけが答えとは思ってないけど,それぞれの人のものの考え方が社会を作り上げていくということに関しては,この本を読んで養老先生に「〇」をいただいたような気持ちがした。まあ,勝手にそう思っているだけだが。

「〇」と言えば。この本の表紙は中心に円が描かれている。この円が一体何なのかという疑問が,ネット界隈でちょっとだけ議論になっていた。禅にまつわる円相ではないかという意見もあった。

しかし僕は少し異なる印象を抱いた。禅という点では納得していたが,どうも円相の〇とは少し違う気がする。そこで思い出したのが,いわゆる十牛図の人牛倶忘だ。十牛図は禅の階梯を描いたものと言われており,円の中に人と牛が登場する。この図は八番目で,円の中には何も書かれていない。人も牛もいない。悟りの境地とされるものか。人牛倶忘について,河合隼雄著の「ユング心理学と仏教」では「死の体験」と推察されていた。

本の中では,1人称の死,2人称の死,3人称の死というように「死」とはということについて,著者の考察,死生観にも似た議論があった。また,飲み友達が一人また一人と死んでいくことに寂しさも感じているようである。

著者は自分が死んで困るのは自分ではなく,周りの人だとのほほんと語っている。死に対してポジティブもネガティブもない。「人がいない世界というものを,私はものすごくリアルに考えています。」とも言っていた。それはそれと,まるで悟ったかのよな気さえする。だから,僕は人牛倶忘であると推察した。

けれどもやっぱり,それは考えすぎか。おそらくこの円は,飼い猫のマルのことだろう。多分間違いない。この本は猫のマルと語り合って綴った本のような気もする。だから,この本の中心はマルなんだろう。

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ジロー

家族と自然と弓と歌と喫茶店。妻1人子ども3人。地元高知の自然が大好き。作詞作曲なんかも少し。喫茶店は僕の大切な隠れ家。 30代に入り目まぐるしい日常を過ごす中、湧き上がる直感にロジックを与えて記録に残す。 サブの肩書 エコピープル。緑サポーター 。防災士。弓道四段。

FAITH FOR FIXING

思索の日々 思いついたこと,考え込んだこと。脳内でぐるぐる回していると気が滅入るので,とりあえず文字にしてみる。散らかった自分に言葉を与えて整理整頓。でもやっぱり散らかっている混沌と混乱・・・しないようにすこしづつ記事を積み上げていきます。解決のための信念。
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