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アメリカラグビーの給料事情/スタープレーヤー:エリックの物語



https://m.seattlepi.com/sports/article/Seattle-Seawolves-13841225.php#photo-17432518(記事より翻訳:あくまで意訳であり、正確な訳ではない)

 
ワシントン州タクウィラ、三月下旬の涼しい夜、スターファイヤースタジアムで大勢の人が衝撃を受けた。

すでに80分をすぎ、スコアは28-22、アウェーのSan Diego Legionがボールを宙にあげて、外へ蹴り出す。
メジャーリーグラグビーの2シーズン目にして、Seawolves(以下シーウルブズ)は初めてホームゲームを落としたのだ。

しかし、ファンがシーウルブズのフィフティーンを迎え入れると、すぐさま拍手が起こった。
少なくとも3600人以上の観客が。ホームでの初めての負けというマイナスの感情はすぐさま消え去った。
ファンは自分のお目当の観客をめがけて、駆け寄っていく。30分以上もの間、選手たちはファンサービスを行った。
両チームの何人かのプレーヤーが、サインや2ショットに応じた。

シーウルブズの195センチの大型フランカー、ビーストの愛称で親しまれるエリックは馴染みのファンの元へと駆け寄っていく。思いっきり手を振りながら、大人とは会話を、子供へはサインをして。

彼はプロラグビーのために空軍でのキャリアを諦めた。すべてはラグビーのために。

だがそれは犠牲するに値するだけのものだった。

「私はシアトルが大好きだと言いたいだけです」
エリックは言う。
「私たちが持っているこの文化が大好きです。私は、これほどまでに必要とされていると感じたことは感じたことはなかったし、何か自分自身より大きなものの一部になったことはありませんでした。」

「このチームではそれを感じることができます」

2018年にメジャーリーグラグビーの初代チャンピオンになったシーウルブズは、スタートアップなリーグであり、シアトルにおける最年少のプロチームです。(野球のマリナーズ、アメフトのシーホークスは長い歴史を持つ)

チームのほとんどのプレーヤーは外国人だ。
常緑の街、エメラルドの街と言われるシアトルにはたくさんのチームがある。
アメリカで最も人気のあるスポーツ、アメフトから見ればこのリーグの存続を疑うのは簡単なことだろう。

しかしシーウルブズの周りにいる人々は別の考えをする。
彼らはメジャーリーグラグビーが長続きするだろうと信じている。
チームの長期的な成功はシアトル地域がラグビーをどう受け入れるかにかかっている。リーグ全体についても同じことが言えるだろう。

彼らがそう考えているように、このリーグは上向きであるだろう。

「Nothing is like playing in front of this crowd」
シーウルブズのホームゲーム、スタンドを見れば、熱狂した観客たちがいる。昨年、今年と創立以来、ずっとシーズンチケットは完売。立ち見席のみが残っている。チームブランドのビール(チームはビール会社とスポンサー契約を結んでいる)、チームグッズのレインボースカーフやジャージ、コートを見ることができる。

スターファイヤーでのシーウルブズの観客の間では独特な関係性が見られる。昨シーズン2回目のホームゲーム。歌手が国歌を唄い出す瞬間に、観衆たちは国歌を唄い始めた。その歌手は何度も観客たちの先を行こうとしたが、観客の誰にも彼女の歌声は届かなかった。観客の歌声がとても大きかったからである。

シーウルブズのスタッフや選手は、新たなファンが増えてきていることに気づいている。一方で、彼らはラグビーの伝統的な習慣に敬意を表してもいる。
ホームチームのキック時、世界中の他のスタジアムと同じように沈黙が支配する。
ファンはスクラム、モール、ラックの様々な場面において、轟音とも言える声援を発している。

情熱的なシアトルのスポーツファンと既存のラグビー愛好家の組み合わせは、ここスターファイヤーで他に類を見ない雰囲気を作り出す。

「ここはかなり特殊な場所だ」
ニュージーランド出身でアメリカ代表のスタンドオフ、センターのシャロム・スニオラは言う。
「シーウルブズのサポーターとシアトルの人々はスポーツが大好きだ。私は大勢の観客の前でプレーしきたが、これほどまで地元とのつながりを感じられる場所でプレーしたことはない。」

アウェーゲームでも同じことが言える。チームマネージャー兼コミュニケーションディレクターのケビン・フリン氏によると、昨シーズンアウェーゲームに応募したサポーターはほんの一握りだったが、今年は40人以上に増えたそうだ。少なく見えるかもしれないが大きな進歩である。

シーウルブズは「ラグビ−100」というパートナープログラムを持つ。チームによって選ばれたファンのみを連れて、遠征に行くのだ。その選ばれたファンは独占的で貴重な経験をすることができる。

チームの共同オーナーのシェーン・スキナー氏によると、シーウルブズのチケット販売数は18年シーズンから19年シーズンにかけ60%増加した。具体的な数は答えなかったもののそれは数千に登ると言う。
2020年シーズンはシーズンチケットホルダーの名前が青のストライプのサインがジャージーに刻印されたものになるという。

Elysian Brewingに加え、T-mobile, Virginia Mason, Ivar’s そしてBECUなどとパートナーシップを持っている。チームの試合は、スポーツ専門チャンネルであるROOTスポーツやESPN+で全国放送される。

「Rugby Struggles in America」
ラグビーは米国において、成長著しいスポーツとして認識されている一方で、リーグの維持に苦労してもいる。
その主要な問題は資金面だ。

北米最初のプロラグビーリーグ、PRO RUGBYは2016年4月に5つのチームで開始されたものの、わずか8ヶ月で折りたたまれた。

これまで最も長く続いたリーグは、1997年から2012年まで15年間続いたUSA RUGBY SUPER LEAGUEである。
このスーパーリーグは2013年にアメリカエリートラグビ〜クラブに置き換えられ、1シーズンしたのち、折りたたまれた。

それでも、最も新しいリーグであるメジャーリーグラグビーがこの負のサイクルを打破できると言う楽観論は根強い。メジャーリーグラグビーチームは個人投資家とのパートナーシップによって維持されている。

シーウルブズは2018年、このリーグが開幕した時の最初の7チームのうちの一つだった。2019年にはさらに二つのチームが加わり、来年からは2カンファレンス制になる。
「これは特別な何かの始まりだ」とスニオラは言う。
「我々の以前の試みはもっと排他的であったが、今は包括的でありそれでこそラグビーだ」と。

ロイターの最近のインタビューで、MLRのコミッショナー、ディーン・ハウズ氏はここアメリカにいたいと語った。

「世界のスポーツののモデルが、アメリカのスポーツモデルに適用されたのは、MLRが初めてだからである」とハウズ氏はいう。

シーウルブズのリッチー・ウォーカーコーチは、ラグビーはアメリカで最もポテンシャルのあるスポーツだと思うとかたる。なぜならたくさんの有能なアスリートがこの国にはいるからだと。

「ラグビー強豪国はアメリカが眠れる巨人だと今に見ることだろう」とウォーカー氏は語る。

でもスタートアップはいつも経済的な問題を抱える。

フリン氏は「最低限の」契約を選手と結んでいるものん、米国のプロスポーツリーグで頻繁に行われているような数億単位の契約とは無縁なプレーヤーもたくさんいると語る。
現在リーグに参加している9チームはそれぞれ29~40人ほどのプレーヤーを持つ。

試合に出場することにより数百ドル(数万円)を稼げるシステムになっている。何人かのプレーヤーはこのシステムで生きていくことはできるが、ほとんどのプレーヤーは不可能である。
シーウルブズはスポンサーや地域のつながりなどから住宅やその他の物流でプレーヤーを支援することはできるものの、現実ほとんどのプレーヤーが生活のために他の収入源を必要としている。

フルタイムのラグビー選手となる前に、空軍で10年間過ごしたエリックは、イラクでの仕事でお金を節約しなければ、ここでプレーすることはできなかっただろうと語る。
彼はシアトルで今年のシーズンプレーするために、カリフォルニアの家を売った。ケンタッキーに持つ、自分のアパートも売るつもりである。次のシーズンにもっといい報酬を得られることを願ってはいるものの、それがどうなるかはわからない。彼の唯一の収入源はチームだけである。

彼の家はシアトル郊外のフリーモント地区にある。姉と親友とのシェアハウスだ。

「私はこのリーグがもっと大きくなるだろうという望みにかけている。来年の契約はもっと良くなると思ってはいるが、そうでなくても私は気にしない。この夢を叶えるためにこの道を選んだのだから。」

フリンチームマネージャーは「家族のために他のフルタイムの仕事が100%必要だ」と語る。
彼は他のシーウルブズのプレーヤーと配管の仕事をしている。


「痛みが増している」フリン氏は語る。
「我々のモチベーションに誰も疑問を持ってはいないし、自分自身が給料をもらっていないと言う事実にも満足している。だけれども家族にとってみれば私がいつも自分の情熱のあるところに行ってしまうと言うのはマイナスでもある。」

シーウルブズは小学生の子供達がラグビーに情熱を持つようになることは可能だと期待していて、今年の最優先事項の一つに、小学校への普及活動も存在している。

そのプロセスはすでに始まっている。
イリノイ州から来たシーウルブズのウィング、ディオン・クラウダーはシアトルのレイニアビーチ高校でボランティアをしており、チームメイトと一緒にベルビューの小学校で授業を持ってもいる。
このチームには退役軍人や障害者へのコミュニティも存在している。

シーウルブズはプレイヤーの人種や体のおおきさなどの多様性が子供達に、誰でもラグビーはできるのだと感じてもらうことに役立つだろうと感じている。

チームの存在はスポーツへの意識を高めるのを助けた。しかしチーム、ラグビーをアメリカの若者に根付かせるのはこのリーグの生存の鍵であるだろう。
現在はチームの半分以上がアメリカ以外の国から来た選手だが、アメリカ人でチーム名簿が埋まることを期待している。

シアトルにおいて、長い間男女共にトップラグビークラブであり続けたシアトルサラセンズは、シーウルブズの強力なパートナーでもある。
ほとんどのシーウルブズの選手は、サラセンズでプレーしているからだ。

「サラセンズ無しにして、シーウルブズは生き残ることはできない」と、シーウルブズのマネージャーであり、サラセンズの総監督であるフリン氏は言う。

「アメリカにある他のスポーツは皆、自然に選手たちが集まってきます。彼らのプレーする機会もある。」
「しかし我々は違うのだ。サラセンズのような地域トップクラブが機会を与えないことには、プロでプレーすることを夢見るプレーヤーにトップレベルのラグビーを体験する機会を提供することはできない。」

「A worthwhile endeavor」

空軍で10年、イラクとアフガニスタンへ、そしてアメリカ中へ、海外へのミッションの後、エリックはキャプテンから少佐へと昇格した。しかしそのわずか2週間後、エリックはその外の世界へと移ることを決めた。
彼は悟ったのだ。予測可能で安定的な空軍の生活は自分には物足りないと。

彼はラグビーの道を究めたいと思っていた。
高校で彼はラグビーという競技と恋に落ちた。経済的に安定しない、危険な仕事。しかし確かに彼は単なる仕事以上のものを求めていたのだ。
彼は冒険を望んだ。アメリカのラグビー史の一部となるために。

それは彼がカリフォルニア州ロングビーチ、ワシントンDC,そしてシアトルのような都市でチームのためにプレーすることへと導いた。2015年にはサラセンズで全米チャンピオンとなった。米国で3つの全国のタイトルを得たのである。

だがMLBの中のシーウルブズでプレーするということは32歳のエリックに価値ある経験だった。彼はラグビーがアメリカのプロスポーツになるとは思っていなかった。
少なくとも若いうちは。

スターファイヤーは熱心なファンによって常に満員である。
ゲームの雰囲気は電気ショックのようだ。去年全米チャンピオンになった時、シアトル市長は市役所でチームをたたえた。シーウルブズの旗が掲げられ、クラブはそれにちなんだ1日を過ごした。

「代表チームでさえ、我々の、このシアトルのやり方を真似することはできない。それはとても素晴らしいことだ。」エリックは語る。

アメリカの、この先の見えないスポーツやリーグにおいて、確かなことは彼らへのサポートである。エリックは語る。
ラグビーにおける成長と情熱と努力の全てが無駄ではないことは時が経てばわかるだろう。

だが少なくとも、そのために犠牲を払うことは簡単な決断だ。

「この街が大好きで、だからこそラグビーやその素晴らしさを知ってもらいたい。」とエリックは言う。「私は彼らのために戦うつもりだ。どこへ旅するときでもそのことを考えているし、ジャージを着るときはいつでも、この街を代表しているのだ。」


アメリカの学費高いです。バイトも禁止。助けて・・。