Past.21 ~夕焼けの記憶~


 ——白い建物……【神殿】の中。


「深雪たちは、無事にヒアたちと合流出来たようね」

 金髪の少女……【予言者】リウ・リル・ラグナロクが、傍にいた赤い髪の子どもに話しかける。

「うん、まにあって、よかった……。 ほんと、黒翼おにいちゃんは無茶ばかりするんだから」

 くすくすと優しく笑う子どもに相槌を打ってから、リウは遠くを見つめて呟いた。

「彼は、どうするのかしら……?」

「大丈夫だよ」

 子どものどこまでも優しい声に、再びそちらを見やるリウ。
 子どもは慈愛に満ちた左右異色の瞳で、言葉を続けた。

「だって、ヒアくんたちも“双騎士(ナイト)”だもの」

「……そうね」

 【太陽神】のその笑みに、リウも釣られて優しく笑んだ。





 ……意識が浮上して、真っ先に見えたのは、閉ざされた視界だった。
 砂埃の匂いと、隣に人の気配を感じる。
 それに戸惑っていると、『オレ』はその隣にいた人物に話しかけた。


「……私の視界は閉ざされているのではなく、自ら閉ざしているのだよ」

「……どうして……?」

 聞き覚えのある声が、困惑したように問いかける。 この、声は、もしかしなくても。

「クラアト、どうして君は、そんな……」

「私のこの紅い瞳は不吉だからね。 ……私自身も、余計なモノを視てしまうし」

 そう言って『オレ』は、瞳を閉ざしていた布を取る。
 開けた視界に映ったのは、夕焼けの光と案の定というか隣にいた人物……ソカルだった。


(嗚呼、嗚呼、嗚呼……思い、出した)


 そう……思い出した。
 『オレ』の名は、“クラアト”……この砂漠の国の、国王候補。 そして、ソカルは『オレ』の従者だった。


「それにね」

 悲しげな顔で黙ってしまったソカルに優しく笑んでから、『オレ』は再び口を開いた。

「この瞳が不吉だと言って、私が王に相応しくないと……私を王にしたくないと言う者たちがいるのも事実だからね」

「…………」

 俯くソカルの頭を撫でて、『オレ』は続けた。

「私のこのチカラを、神聖なるモノだと言って私を王にしたい者たちと、不吉だと言ってそうしたくない者たち。
 ……ソカル、私は、疲れてしまったんだ。 私が原因で起こる、そんな醜い争いに」

「クラアト……」

 名を呼ぶソカルに再度そっと笑いかけてから、『オレ』は再び瞳を布で隠した。
 闇に閉ざされる視界。 だけど、『オレ』はそれに慣れてしまった。


(そう、疲れたんだ。 この生に、運命に)

(だから、『オレ』は……——)






 意識を失ったヒアを、静かに地面に横たえる。
 封じていたチカラが戻ってくる感覚に、ヒアが記憶の一部を取り戻したのだと感じる。


(……本当にこれで良かったのかなんて、わからないけど)


 鎌を握り締めて立ち上がる。 【神】と戦うみんなを見やって、僕は深呼吸をした。


(やらなきゃ、だってこれは、『命令』だから)


 吸血鬼の剣士は、どうやら止血には成功したものの意識が戻らないらしい。

「ほんと……バカだよね」

 一歩、また一歩と最前線に近付く。 背に【死神】の翼を生やして、【戦神】を睨む。

「ヒアを守るのは、パートナーである僕の役目なのにさ」

 それなのに、別のことに気を取られて他人に守らせるなんて……。
 ヒアに、あの記憶を思い出させることになるなんて。

「ほんと……バカすぎて、嫌になるよ」

 鎌を【戦神】に向けて、僕は詠唱を始めた。

「——“永久なる時間の果て,暗闇に潜む光を……死に至る光を。
 目覚めぬ悪夢に紡ぐ死を…… 。 【死神】の名の下に”」

「っ最上級、魔法ですか……っ!?」

 魔術師の言葉を聞きながら、僕は【戦神】と対峙していた連中に声をかける。

「みんな、そこを退いて!!」

「!?」

 驚く【戦神】と、彼から離れたみんなを確認してから、僕は【戦神】の前に降り立った。

「……死んでよね、【戦神】アイレス。 我が主の名の下に……。
 “『シュヴァルツ・ フロイントハイン 』”!!」 

 鎌を振って、自身の最上級魔法を放つ。
 ゼロ距離だったからか、【戦神】は避けることも出来ずに黒い魔法を受けた。

「……っな……オレが……なぜ……ッ!?」

 よろめきながら、【戦神】は僕を睨み付ける。 僕は再度鎌を構えて、彼を睨み返した。

「お前は【死神】のチカラを封印していると聞いてたのに……。 チカラを解放しないって聞いていたのに……ッ!!」

「僕だって、封印を解きたくなんかなかったさ。
 ……でもこれは……ヒアとクラアトからの、『命令』だから」

 ゆっくりとカラダが消えて逝く【戦神】の絶叫が、この場所に響き渡る。

「あ、ああ、あぁぁぁぁぁぁ……ッ!! ぜ、うす……さま……ッ!!」

 それだけを残して、【戦神】アイレスは……その命を終えた。
 慟哭は消え、静寂が僕らを包む。

「倒した、の……?」

 猫耳娘の声が、ぽつりと戦場であった草原に広がる。

「……そう、みたいですね……」

 リブラがそれに答えて、彼女らと魔術師、そして僕までもが一斉に安堵のため息を吐いた。

「あ……ソーくん、アーくんは……?」

「そ、そうよ! それに黒翼も……あとアンタたち、誰なの?」

 魔術師が心配そうにヒアを見やると、猫耳娘も便乗して呪符使いと突然現れた二人組にそう尋ねた。

「えーと……黒翼はまあ、大丈夫だと思うけど一端連れて帰る。
 お前らの旅の連れは、オレたちじゃなくてコイツらにバトンタッチするな」

「ヒアの方は……」

 呪符使いが剣士を抱えながら二人組を指差して答えて、僕もヒアを見やれば、ちょうど彼が起きたところだった。





 目が覚めて真っ先に見えたのは、傾きかけた太陽だった。 あの砂漠の記憶が脳裏を横切る。
 ゆっくりと身体を起こせば、心配そうな顔のソカルが声をかけてきた。

「ヒア……大丈夫?」

 それに曖昧に頷いてから、オレはぐるりと周囲を見回した。
 心配そうなみんなの表情はあれど、どうやら無事に【戦神】を倒したようだ。

「ヒア、オレたちはここでお別れな。 後はこの二人が一緒に旅するから」

 イビアさんの言葉にもただ頷いて、先ほど突如として現れたその二人組を見つめる。

「あの……おふたりも……“双騎士”ですか?」

「お、よくわかったな。 そう、オレたちも“双騎士”。 イビアたちの仲間だ」

 リブラの問いかけに答えたのは、金髪の青年だった。
 彼女はイビアさんたちと二人組を交互に見ながら、ええと、と続けた。

「皆さん、お揃いの星形のアクセサリーや刺繍をつけてらっしゃるので、そうなのかなぁと……」

 言われるまで全くもって気付かなかったけど、リブラの言うとおりイビアさんは手袋に、黒翼はポニーテールの髪留めに、白髪の方は頭の左側に、そして金髪の方は左耳に、揃って星を模したモノを付けていた。


(……よく見てるなぁ……)


「わあ、気付いて下さってありがとうございます!
 いやあ、嫌がった方もいらっしゃいましたが、こうして区別も付きますし、『先代“双騎士”お揃い作戦』は成功ですネ、ソレイユ!」

「だな!」

 にっこりと満面の笑顔の二人組に、イビアさんが気付かなくても良かったのになぁ、と苦笑いを零した。
 ……ていうか、なんだその作戦……。

「では改めて自己紹介を、現“双騎士”の皆さん。 ……私は深雪、と申します」

「オレはソレイユ・ソルア。 よろしくな、現“双騎士”!」




 あの記憶と同じ夕焼けが、オレたちを包んでいた。





 Past.21 Fin.
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