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最高のプレゼンと最悪のプレゼンを体験して、自分のプレゼンが見えた

日本の大学での専攻や卒業後の仕事では、スライドを使ったプレゼンにはあまり縁がなかった。アメリカの大学院でマーケティングと広告を学ぶようになって、パワーポイントやGoogle Slidesを使ってプレゼンテーションをする機会がすごく増えた。ラッキーなことに、タイトル通り渡米前に両極端なプレゼンを目の当たりにする機会があり、そのおかげでいつも、自分の中で目指したい理想のプレゼンテーションの形を描きながらプレゼンに臨んできた。

私が今までに見た最高のプレゼンテーションスライドは、2014年4月19日に下北沢のB&Bで行われた「だれかを好きになったことのない者のみ、我々に石を投げよ。」という、コピーライター阿部広太郎さんと歌人木下龍也さんのトークイベントで拝見した。当日は、こぢんまりとした会場に、お客さんがびっちり入っていた。トークイベントは恋愛にまつわるコピーや短歌について話をするというテーマで、おそらく阿部さんがつくったのであろうスライドを見ながらトークが進んでいった。

そのスライドがとてもシンプルで美しく、文字が与える印象が重要なトピックだからこそ、本当に必要な言葉だけが書かれていた。そのため要点が頭に入ってきやすく、スライド上の簡潔な文を読んで理解したあとはスピーカーの方々の話に集中することができた。

(1枚のスライドに文字量があまりに多いと、それを読んでいるうちに次のスライドに移ってしまい、しかもスピーカーが話している内容も全く頭に入っていないという状況が発生することがある)

これが電通のコピーライターがつくるプレゼンスライドかぁぁさすがだなぁ!と、感動すら覚えた。参加者がびっちりと会場に入っている状況で、資料を配るなんてことはおろかメモを取ることすらはばかられそうな中で、手ぶらで話を聞くだけでここまで楽しませてくれたトーク術とプレゼン術は素晴らしいと思った。それ以来、自分がプレゼンスライドをつくるときは、あの時の体験を思い出しながらつくるようにしている。そして同時に「ああはならないようにしよう」と常に頭に入れている『反面教師』的なプレゼンもある。

その『最悪のプレゼン』、これは状況の詳細は割愛するけども、端的にいえば、「スライドに書いてある内容と、配られた資料と、プレゼンターが話す内容が全部同じ」プレゼンテーション。これはもう、プレゼンターはスライドに書いてあることを読み上げているだけだし、その情報は全部手元の資料にまるっきり同じことが書いてあるし、それだったらもうこの資料だけもらって帰ってもいいんじゃない?いまこの場にとどまっている必要ある?と正直思ってしまった。文字量が多い割に重要なところがわかりづらいというおまけつきだ。

そんなわけで私が常々つくろうとしているプレゼンテーションスライドは、「文字情報は極力少なく。画像を効果的に使って、観客が文字を追わなくても話の内容がすんなり頭に入るプレゼンテーション」を目指している。大学院のプレゼン課題でこのスタイルを試したところ、教授からは「スティーブ・ジョブズのプレゼンのようだ!」とかなり好評を得た。ほめすぎ!(笑)

先日、わたしがアシスタントをしている教授から「プレゼンスライドをつくってほしい」という依頼を受けた。「わたしのつくるスライドは、文字を極力少なくして、写真を全面に使うようなスタイルですが、それでもいいですか」と確認すると「そういうのがいい」とのことで、その教授が新学期に授業で使うスライドを作成した。

そうしてつくったスライドの一部が以下の2枚です。このスライドは、創造性(creativity)を構成する性格特性とは何か、というトピックでつくりました。

これはもう大変です(笑) 文字情報をキーワードのみにしているので、プレゼンターはこれを見せてあとは自分のしゃべりでプレゼンを成り立たせないといけない。

そのぶんといってはなんだけど、画像選びには結構時間をかける。運良く権利フリーでクオリティの高い写真をダウンロードできるウェブサイトを見つけたので、辛抱強くいろいろな単語で検索をかけて、キーフレーズを象徴するinspirationalな写真を選んだ。特にconscientiousness (誠実さ・まじめさ・慎重さ)という単語をビジュアルで表現できるイメージを見つけるのに苦労した。結果として使ったこの写真は苦心の末だけれども、割と気に入っている。

ここまで相当な文字数を割いて「最高のプレゼン」「最悪のプレゼン」などと偉そうなことを書いてしまったけれど、自分の現状が『最高』だとは全く思っていない。スライドをつくって実際にプレゼンを行うたびに「もっとこうするべきだったな」と改善点が見つかる。

でもわたしは「ここで何を話そうかな」「どういう写真を使ったらいいかな」と考えながらスライドをつくって、観客の反応を見たりしながらプレゼンをするのが結構好きだ。映画を撮ったり舞台でパフォーマンスをしたりするには機材や技術が必要だけど、面白いスライドをつくって楽しいプレゼンテーションをするのは、最も手軽に挑戦できる自己表現の手段のひとつだと思う。

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