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ブックレビュー「メタバースとWeb3」

昨年来続く流れで、本書で”Web3”関連の書籍を読むのは四冊目、その内ブックレビューを公開したのは二冊目(一冊目はこちら。まだnoteのドラフト段階のものが二つほどある)。

本書はWeb3がバズった2022年4月に第一版が発行されている。他の書籍も同年の末までに発行されたものが多く、Google Trendで見てもWeb3のピークは2022年7月なので本書発行のタイミングは適切だったと思われる。

過去読んだ四冊にはそれぞれ特色があるし、著者のキャラクターやポジション、出版会社の意図などがそれぞれ違う。本書は「10億人の挑戦を応援するクリエイターエコノミーの実現」をミッションとする株式会社フィナンシェのFounder兼CEOである著者國光宏尚氏の立ち位置から読み取れるように、「新世界は夢がたくさんあって面白い」タイプと言えよう。

そして表紙に記載された通り、ハッシュタグはVR/AR、SNS、ソーシャルゲーム、ミラー・ワールド、リモートワーク、トークン、NFT、GameFi、DAO、Defi、暗号資産と盛りだくさんだ。

そのキーワードは「モバイルファースト」から「バーチャルファースト」で、メタバースとWeb3によってネットがすべての生活の中心になる、のだという。

それでは「バーチャルファースト」とは何か。著者は「映画『レディ・プレイヤーⅠ』のVRワールド「オアシス」のような完全なる仮想世界があって、その中でみんながゲームだけでなく友だちを作ったり学校に行ったり、仕事をしたり、さらにはこの世界の中のすべてがNFT化されていて、バーチャルワールドの中に経済圏もある」世界を目指していく、という。

本書のChapter 4「メタバースとWeb3が辿り着く未来の姿」には次のような業界でのゲームチェンジ像が描かれている。

  • 20年ほどかけて移行して行く中、金融、ゲーム、エンターテイメント、コミュニケーションなどの分野のシフトが比較的早くその分数年単位でDisruptされる可能性が高い

  • 一方、教育界は供給側のレディネスが低いのでシフトは遅い。

  • 「レジャー」はメタバースにより淘汰されるというよりも体験価値が拡張され、「働き方」の変化でバーチャル空間でお金が稼げるようになる。

そして新しい世界とは次のような世界になっていく、という。

  • 任意のアバター利用で人類史上初めて「人生が見た目に左右されなく」なり、「一人一人が自分の選択肢を持ち、なりたい自分を生きていく」世界になる。

  • 「フォーク」(分裂)することで意見が分かれても別々のビジョンを試す(PDCAをどんどん回す)ことが可能になる。

  • ブロックチェーン技術によりメタバースで経済活動ができるようになる。

  • 自分が生きやすい社会を選べる仕組みを作り出す。

  • Web2.0時代のSNSは承認欲求ベースだったが、これは今後長く続かない。WEb3時代はSNSはDAO化し、ビジョンをベースに共感する人が集まってコミュニティが形成され、独自トークンが発行され、ビジョンの実現に向けて頑張り、コミュニティメンバーが増えることで皆がハッピーになる。

  • 「組織の時代」ではなく「個の時代」になる中、個人や団体が自分の夢やビジョンに賛同する人を集めて、リスクをとった挑戦ができるようになる。

  • マーケッティングでは消費者をファンとして巻き込んでいく「ファンエコノミー」が重要となる。それは初期からファンだった人にメリットがあるようにすることで加速する。

本書が発行してから2年近くが経ち、上記のゲームチェンジや新しい世界がどこまで進展しているのか専門外の私には判断できない。その速度は期待したよりも遅いのかもしれないし、想定した以外の変化があったのかもしれない。

ただ「メタバースとWeb3」で彼らが新たに築きたいと思った世界がぼんやりとわかってきたように思う。要は中央集権的な組織では無く、個人が主体となって、共通ビジョンをもったコミュニティ(DAO)を作り、ブロックチェーン技術によるトークナイゼーションを活用してファンエコノミーを形成することでリスクをとった挑戦がやりやすいようにする、ということなのだろう。

最終章の事例を見ると、バーチャルライブ、ファッション・旅行業界、金融とGameFi、バーチャル渋谷(VR渋谷)、クラブトークン、巨大資本とWeb3という六つの事例が挙げられているが、個人的にはコミュニティ作りという意味では著者の会社が支援する湘南ベルマーレの活動が最もわかりやすかった。

過去大企業や地方自治体におけるDAOの事例をいくつか調べたことがあるが、どこも「同好会」の枠を越えていない印象を持った。「コミュニティ」作りなのだから「同好会」という表現も当たらずとも遠からずだろう。ただそこからまだ脱皮できていないのは、「ファンエコノミー」が十分広がらないのと、リスクをとった挑戦にまでつながっていないからではないかと思う。

そういった目でこれからも引き続きDAOの事例を研究していきたいと思う。

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