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ブックレビュー「高田渡の視線の先に」

2005年に亡くなった高田渡の息子で、ギタリストの高田漣が、渡の1972年から79年まで撮りためていた写真にコメントを付けて2021年4月に発行した写真集。この本の発行元はリットーミュージックで、本書は同社が発行しているアコースティック・ギター・マガジンの別冊という位置づけのようだ。

高田漣はソロの活動以外に、細野晴臣のバックバンドのバンドマスターとしての活躍も有名だ。

70年代の高田渡はいつも愛用のライカや二眼レフを抱えていたらしく、妻の富美子はいつか写真家になるのではないか、と思っていたらしい。

彼が70年代に撮りためた写真を集めて写真展を開催したことがあり、タイトルは「写真擬(もどき)」とある。その際の彼のコメントが渡らしい。

地味ではあるが確かに生きている人達にボクは酔いしれ、いつの間にかシャッターを切っていました。
写真などと、とうてい呼べる、シロモノではありませんがこれを機会にボク自身新たに出発ってみようと思っています。

写真集は次のような章立てになっている。ヨーロッパ(72年)、京都と人々(72-74年)、ソウル(73年)、仲間たち(72-74年)、沖縄(74年)、吉祥寺と人々(72-77年)、春一番コンサート(74年)、旅芸人の記録(74-79年)、スタジオ(72-74年)、ヨーロッパ(74年)、駅(72-74年)、JAMコンサート(75年)、『フィッシング・オン・サンデー』レコーディング@LA(75年)、年輪・歯車、街と人(72-74年)、ブランコ。

そこには高田渡が捉えた「市井の人々や生活(「高田漣の卓眼」より)」があり、彼が「詩を通して、そして人生を賭けて紡いできた世界観(同上)」がある。

そして高田漣が「人誑し(たらし)」と評する渡の友人やミュージシャン仲間たち。中川五郎、友部正人、遠藤賢司、小林政広、佐久間順平、あがた森男、オリジナルはちみつぱい、なぎら健壱、かまやつひろし、はっぴいえんど、井上陽水、斎藤哲夫、加川良、中川イサト、松田幸一、西岡恭蔵、泉谷しげる、三上寛、シバ、佐藤GWAN博、村瀬雅美、金森幸介、ディランⅡ、西岡たかし、石田長生、オリジナルレッドバルーン、坂本龍一、共栄龍、田中研二、伊藤銀次、布谷文夫、福岡風太、大垣兄弟、坂庭省悟、吉田日出子、佐藤B作、朝比奈尚行、朝比奈逸人、大津あきら...70年代を代表する人達。

あとがきで高田漣は「人誑し」である渡について、「いつもの夕暮れ」がやってくる頃には「極上の酒肴として各々が経験したその人誑しとの逸話を大いに怒り、かと思えば精魂尽き果てるまで笑い、最後には自慢し合う、そんな世界一の幸せ者でした」と表現している。渡に対する最大の賛辞だろう。

この写真集は是非2003年3月27日に高田親子二人きりでNHK-FMの人気音楽番組「LIVE BEAT」用に公開録音された音源をCD化した「27/03/03」を聴きながら楽しむのがお薦めだ。



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