先日投稿したガフロBoxに関しての補足


本文が非常に長くなったため、まとめを最初に置いておきます。

まとめ
・カプコンが曖昧なまま規制に走った「心情だけ」には斟酌する余地もある
・現実と違う場のルールだからこそ、現実を参考にすべき。不遡及の原則は必ず意識しろ
・カプコンは今回の事例で、悪意ある人間が世論を煽り、特定の選手を出場できなくする行為の道筋を立ててしまったリスクに留意しろ
・性善説的な要素で成り立っているこのコミュニティを本気で「中長期的に」拡大させる覚悟があるならば、カプコンは危難の時、まっさきに「単独で」悪者になるべき


ワンコネクト所属のプロゲーマー、ガフロ氏製作のレバーレスコントローラー(以下ガフロBox)を規制するに至ったCapcom Fighters(以下カプコン)の声明

に抗議する形でtwitterに書きなぐった文章(修正版)は、思った以上の方々にご覧いただけたようで、感情のまま何かすることの恐ろしさを感じました。

読み返せば誤字脱字と文法間違い、くどい表現のオンパレードで、ひとり羞恥に身もだえております。
なんにせよ、リツイート&いいねありがとうございました。

先だっては例の決定の筋の悪さに憤りすぎたせいで、なぜ私がそこまで怒りを感じたのかや、なぜカプコンがあんなに曖昧な態度をとっているかに対しての見解を書かなかったため、ご覧いただいた方々に、いくらか誤解をあたえることとなってしまったようです。

匿名で怒りをぶちまけるだけぶちまけて対案もなく、現状へのダメ出しのみで自分の意見を主張せず、さらには自らの文章で与えた誤解を放置するとあっては「コミュニティの一人」などと言う資格はないと思い、いくつか補足をさせていただきます。

まず、カプコンがこの件で終始曖昧なまま態度のまま規制という結果に至った理由について。
あくまで私見ではありますが、おそらくこれは、大きく分けて二つの、コミュニティに対する配慮が元になっていると思っています。

第一にComboBreaker(以下CB)というイベントそのものへの配慮。
海外では、ウメハラ氏がガフロBoxでの練習風景を配信していたことで、このコントローラーに対する(誤解もかなり混じった)ヘイトが、なかなかの量で発生していた模様です。

ガフロBoxが採用している方式が、同系統のコントローラーの祖と言ってしまっても過言ではない、HitBox社のHitBox※1と、方向ボタン同時押し時の挙動が違ったことが、特に心理的抵抗を煽ってしまった原因であるようです。

実際はこのHitBox自体も、方向キー同時押し時の仕様がPS4純正のDUALSHOCK 4(以下パッド)と違ってしまっており、スト5においてはガフロBoxとの相違はボタンの数ぐらいで、立場としてそこまで変わるものではないのですが……詳しいことはここでは割愛します。(詳しくは※2参照のこと)

さて、元々人気に比例して、病的なアンチも数多いのがウメハラ氏です。もしもCBでウメハラ氏がガフロBoxを用いて勝ち進めば、この問題によってイベントは荒れに荒れたことでしょう。

実際にはそこまでのポテンシャルはなかったと私は思いますが、イベントを成功に導こうと努力してきたCBのスタッフたちが、「ガフロBoxのせいで大会が壊されてしまいかねない」とナーバスになったとしても無理からぬことではあります。

カプコンとCBの間で交わされた議論がいかようなものだったのか、実際のことは存じませんが、もしトーナメントオーガナイザーがガフロBoxのみを規制したいと思ったとしても仕方ないことですし、CBは、先日の文章で記載した通り、カプコンがCapcom Pro Tour(以下CPT)立ち上げ前からやっているイベントであるため(前身のUFGTは1997年から活動:※3)、もしカプコンと意見が対立しても、カプコン側が強く何かを言うことはなかなか難しかったのかもしれません。

第二に、海外ではすでに多数存在するらしい「自作コントローラー勢」への配慮。
私は断片的にしか知識がありませんが、どうやら自作/改造コントローラーで大会に出場する人数はかなりのものとなるようです。※4

もともと格ゲー限らず自作/改造コントローラーは活発なようで、中には自作/改造コントローラーを使用することで、ハンディキャップを持った方が健常者と同じようにゲームをプレイできるよう支援している団体もあります。
「STREET FIGHTER LEAGUE: Pro-US 2019」で活躍しているBrolylegsをスポンサードしているAbleGamersなどが有名です。※5

少々下衆の勘繰りではあるかもしれませんが、こういった層は、競技人口を増やし、eスポーツの社会的な悪感情をなんとか払拭したいカプコンにとって、簡単に切り離すことのできない層だと言えるのではないでしょうか。

ガフロBoxは「自作」とはいえ基盤やボタンは市販のものを使用しているため、そのどれかを規制するとしても、この層への影響は免れなかったのだと思います。
他にもボタンの数などで規制することはできますが、いずれも誰かに痛手を負わすことは間違いないため、基準を明確にするためには時間が足りず、かなりに難しい情勢であったのは確かだったのです。

では、そこまで理解しておきながらなぜ私はカプコンにあれだけの怒りをぶつけたのか。
まず、今回の決定が「不遡及の原則」に反することになったからです。
そして、今回の決定で一番泥を被ったのが特定のプレイヤー(ガフロ氏、おまけでウメハラ氏)であり、あろうことかそれを成したのがカプコンであったという部分です。

「不遡及の原則」とは、誤解を恐れず端的に言えば、現実の先進国の、特に刑法において、法律で定まっていない処罰、もしくは法律が定まった際に、過去の事例をその法律で罰することを禁ずるものです。
これをご覧になっている諸兄も、社会の時間などで聞いたことがあるのではないでしょうか。

今回の件は、事前に明確なルールの制定がなく、その上さらに、今後詳細な指針を決定するまでは、念のため大会運営側に「ガフロBoxによる参加の可否をまかせる」という結論に達したがため、一部の人間からヘイトが高いガフロBoxのみが、世論の高まりがあって狙い撃ちで禁止された。
というものでした。
そういう意味で、現実とかなり乖離した判断だったと言えるでしょう。

もちろん、CPTは現実とは違う場であり、ルールが曖昧なのも、実は一つの美点ではあります。
上述した、自作/改造コントローラーの件もそうですし、CPT確立前から行われていた大会が多いため、こと大会内の判断については、大会責任者に「人治主義」もしくは「超法規」的な権限を与えていることが珍しくありません。

EVOのルールを読んだことがある方はご存じかもしれませんが、なかなかの分量の規則の中に、「未知の事態に対応するために、トーナメントディレクターは、いつでも、どんな理由でも、唯一の裁量として、トーナメントルールを変えたり、プレイヤーをトーナメントから除外する権利を持っている」という記述があったりします。※6

危ういように見えるかもしれませんが、これは、このコミュニティに属する人間が、もともと格ゲーが「好き」であるという前提があってこそです。

格ゲーコミュニティの人間は、実のところかなり排他的だとは思いますが、その反面、格ゲーが「強い」人間に対しては、ガードがゆるゆるになるという側面があります。
これは、言い換えれば、格ゲーを「好き」であることを示せる人間には、相当に寛容であるということの表れに他なりません。

なぜなら、一度でも格闘ゲームをプレイしたことがある人間なら、「強い」という事が、格ゲーを「好き」であることと直結しているのを知っているからです。

(もちろん、そうであるが故に「好き」を脅かす存在にはすさまじく敏感になります。今回の件も、ガフロBox否定派は、「好き」の象徴である「強い」にズルして簡単に手を届かせようとしてる奴がいるらしい、という印象から動いているように思えます)

であるからして、身銭を切って大会を開くような、格ゲーが「好き」なことを行動で示せる人間も、格ゲーを「好き」だと無邪気に信じ、一定のリスペクトを与えようと思ってしまう傾向があります。

何度も言いますがこれは美点であり、カプコンは、そういったことを考慮して、そもそもCPTのルールを曖昧にしたのでしょう。

今回のCBに関しても、Punkの優勝で大会は盛況のまま終了し、ガフロBoxを規制したことは、この点では成功だったと言えるのかもしれません。
ただし、それは、格ゲーマー特有の性善説的な世界観で物事を見たときにだけ成立するのだという事を、カプコンは絶対に忘れてはなりません。

不遡及の原則を採用せずに、なかば世論の声に押し切られる形で今回の事例を残したのがどういうことか。

今回、もしガフロさんがCBに出場していたら、他のプレイヤーからアケコンを借りるなどして出場したかもしれませんが、場合によっては辞退したことも考えられます。

つまり、今回の事例は、今後、悪意を持った人間が、格ゲーマーの世論を煽ることに成功すれば、
特定のプレイヤーの大会への出場を、不当に妨げることができる可能性を残してしまったということです。

現実で、なぜ先進国が「不遡及の原則」に重きを置いているのかと言えば、法が、権力や争い、もっと言えば「悪意」と密接にかかわっていると、歴史から学んだからです。
「悪意」を持った人間が国民を扇動し、法を意のままに使い、人の血を多く流させたり、不当に利を得てしまう事例を知っていたからです。

CPTは現実とは違い、判断を違えれば、即、人の血が流れるような場所ではありませんし、大多数の人間は、先述した通り、格ゲーに対して性善説的な価値観を共有しており、それがコミュニティを成立させているとも言えます。

しかし、こういった構造では、今回の件がこのような結論になってしまったように、悪意に対してたいへん脆弱です。

CPTは賞金のかかった大会です。
私のようなものが思いつくことを、現実で「悪意」をもった人間が思いつかないはずがありません。

他のコミュニティの面々は今のままでよくても、カプコンだけは、本気でCPTを「中長期的な観点で育てる」※7 気があるのなら、統領として現実を参考に、現実の規範に即した判断を重ねなければなりません。

今回の件で一番被害を被ったのが、ガフロさんになってしまったのも、その点に関する自覚が全くなかったからと言わざるを得ないでしょう。

これまで述べたように、カプコンには、今回の件でいろいろな配慮があったとは思います。
ですが、それでも、このようなときはカプコン自身が泥を被らなければならなかったはずなのです。

具体的には、ガフロBoxや自作コントローラー等の明確なルールを規定するまでの間、「これを使用した参加を不問にする」と明言し、その一方で、「シーズン中の改定もあり得る」と断言することで、度を越えた改造コントローラーでの参加を掣肘する。
それに対するコミュニティの不満からCBの運営を守るために、「カプコンが決定したことに無理矢理従わされたと言ってよい」と伝えるなど、一貫してカプコンのみが悪者になり、決然とした態度を示す必要がありました。

そうであるはずなのに、カプコンは、自らの役目を放棄しました。
あろうことか曖昧な態度をとるがために「CPTの精神」などと言う文言を恥知らずにも使ったことで、カプコン自身が、「CPTの精神」を冒涜しました。

この点に関しての非はどんなに弁護を重ねようと明らかであり、カプコンは自らの行いをいま一度顧みるべきです。

何がしかの物事が決定的な失敗をし、衰退を続けるとき、その渦中にいた人間は、その事実を認識することはできません。
ひょっとしたら今回のことは、私が言うほどに意味のあることではないのかもしれません。

ですが、だとしてもカプコンだけは、このコミュニティを守り、拡大させるために、こういった視点をなくさないでいただきたい。
今後、似たような事例が起きたときに、もう二度と間違えないでください。
危難の時に、真っ先に動いて泥をかぶることをいとわない。
それが守られる限り、私はカプコンを尊敬し、顧客として最大限の配慮をし続けることを約束します。

世界的なeSportsの時流に乗っただけとはいえ、ずっと社会の片隅で、コミュニティ外の誰にも認められず、カプコンの格闘ゲームを「好き」と言い続けた人たちに対して、一緒にこのコミュニティを「中長期的に成長させていく」と決断した貴社の覚悟が、本物であったという事を、コミュニティの一員として信じております。


◆註

※1
https://www.hitboxarcade.com/
そもそも「ヒットボックス」という名称自体が、もとはこの製品のことです

※2
https://kakuge-checker.com/topic/view/06487/
格ゲーチェッカーさんがレバーレスコントローラーについてよくまとめてくださっています。ぜひご一読ください。

※3
https://ufgtus.wordpress.com/about/
より

※4
http://blog.livedoor.jp/kakugeblog/archives/77578925.html
https://www.redbull.com/jp-ja/controller-mods-what-they-are-and-who-uses-them-2017-15-04
などありましたが、スト5での明確な実績は確認できませんでした。
情報をお持ちの方はご教示いただければ幸いです。

※5
https://ablegamers.org/
Brolylegs自身は純正パッドを口で操作して闘う春麗使い。

※6
http://evo.shoryuken.com/tournament-rules/#additional
最後の太字の部分を一部抜粋し、
https://honyakukof.wordpress.com/2017/04/10/evoトーナメント・ルール日本語訳%ef%bc%882017年・%ef%bc%94月10日版/
に照らし合わせて成形している

※7
http://www.capcom.co.jp/ir/data/pdf/result/2019/full/result_2019_full_01.pdf
p.5
③の文章を解釈して記載


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