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インターネットでニュースを伝える人たちがいつも考えているいくつかの事

うっかりツイートがバズったので、いつも考えている事を整理しときます。細かく書くと怒られるので固有名詞はなし。あくまで一般論です。

まず前提として、
「日本のインターネットのニュースサイトでは芸能ニュースがものすごく読まれる」ということを理解していただきたいと思います。ニュースサイトで知らない芸能人の結婚・妊娠や、誰それがインスタを更新した、番組でこう発言した、というのが報じられているのをよく見ると思います。あれらはすべて「数字が取れる」んです。ものすごく。

「いや俺は芸能ニュースはいらない」「そんなの読んだことない」とのご意見もたくさんいただきました。でもそれって「日本人はラーメンをよく食べます」というデータに対して「俺はラーメンは食べない!」と言ってるようなもので、「はあそうですか」としか答えようがありません。読まれるものは読まれるんです。

で、それとは別に数字が出なくても読んでほしいニュースはあります。政治だったり、社会問題だったり、国際情勢だったり、旧来的な意味でのニュースバリューが高いニュース。これはPVやCTRで見ると本当に読まれません。体感の効率で言ったら芸能ニュースの10分の1以下とか、そういうレベルです。

トップページに5本の見出しが並ぶニュースサイトを想像してください。

政治ニュース5点
事件事故ニュース10点
国際ニュース5点
スポーツニュース30点
芸能ニュース50点

すごく単純化するとこんなイメージ。

このサイトはスポーツ芸能込みで100点分のPVを獲得できるわけですが、それがないと20点分のPVしか獲得できません。20点のサイトは商業として成り立ちません。人を雇えないし、いい記事を生み出したり買ってくることもできません。これは厳しいです。なので、中の人たちは、全体としてのPVを確保しながら、いかにバランスを取って伝えるべきニュースを伝えるか、ということをずっと考え続けています。

編集部門なら「今日はどうしても伝えなきゃいけない政治ニュースが多いから、エンタメを削ろう。その分減ったPVは次の日スポーツを2本にしてカバーしよう」みたいな。実際はこんな単純じゃないですが。

他の部門の人たちも「他にはないオリジナルの独自の記事を書いてor書いてもらって読まれるようにしよう」「デザインで差別化して大事なニュースも読まれるようにしよう」「AIを使って読みたい記事を届けよう」などなど頑張ってるわけです。

さっきの例ですと、芸能ニュースを5本並べれば250点のニュースサイトが出来上がりますが、それでは大事なニュースを伝えられませんし、信頼されるサイトにはなれないでしょう。

逆に、「エンタメいらない!大事なニュースだけを伝えろ!」ってのを真に受けて5点のニュース×5本のサイトを作ってしまうと大爆死する恐れがあります。ニッチな市場で囲い込むことはできるかも知れませんが「対世間」ではなかなか難しいのが現状です。やっぱり大事なのはバランス。

と、ここまで書いておいて誤解を招くような気もしたので、補足します。

5点の大事なニュースは読まれないからって、そのままにしておくわけでもありません。5点のニュースを10点になるよう、見出しを試行錯誤したり、置く時間を長くしてみたり、いろいろ工夫します。ただ、5点を30点にしようとすると流石に歪んじゃうので、限度はありますし、工夫で倍にできるなら50点のエンタメを倍にした方が効率いいんですが、それはそれ。

もう一つ、なんか芸能ニュースはPVしか価値がないみたいな受け止め方をされてしまうとしたら、それは誤解です。伝えるべき芸能ニュースはありますし、読んでうならされたり、新たな発見がある芸能ニュースだって沢山あります。

自己弁護と言い訳めいた文章になってしまいました。課題ももちろんあります。「1PVいくらの世界観だと大事な記事書くだけ無駄だよね、ってならない?」「AIで記事当てたら大事な記事が届かない人もいるよね」「大事なニュースと数字取れるニュースの割合は今のがベストなんだっけ」「PVが取れるとしても、流石にこの記事が出てるのはどうなんだ」とかとか、改善できてるものも、現状どうしようもないものも。いろいろです。

「芸能ニュースが多いから異常!」とか「なんでこれがニュースになるの?」の裏側には、こんな理由とか葛藤があったりします。業界の中の人にはおそらく「何を今さら」って話ですが、改めて書きました。

インターネットでニュースを伝える人たちは、日々こんな事を考えながら仕事をしています。自分のような編集者は、いずれAIに負ける職種でしょう。でもまだ、まだ戦えると思っています。少しずつでも業界が良くなって、世の中が良くなるといいなあ。

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