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市民参加プロセスに関するOECDガイドラインを読む〜OECD Public Governance Reviewsより〜(デジガバ読経会2023新春)

これは何?

2023年1月3日に開催されたオンラインイベント「デジガバ読経会2023新春」(主催:Civic Tech Zen Chiba、共催:千葉県DX推進協議会データ活用部会)でお話したものです。

※注釈 「読経会」というのは、「読むべき重要な文書に関する解説を聞き、参加者で感想や質問をシェアしながら読み解きをする」という勉強会です。テイストとして「住職」とか「権禰宜」という講師が登壇しますので、写真もそういう感じになっているものです、念の為。

主催者から動画公開もされていますが、私がお話したパートをUDトークで文字起こししたものから、文意が明確になるように編集しています(なので、動画での発言とちょっと違うところもあると思います)。


本編

今日は「市民参加プロセスに関するOECDガイドラインを読む」ということでお話をしたいと思います。

イベントの案内では「OECD Public Governance Review」というもので指定されてたと思うんですが、ReviewそのものはたくさんあるのでReviewsなんですが、そのうち最近出たものを少しご紹介するというものです。

前置きとして、国連電子政府ランキング

その前置きとして、皆さんもこのニュース、ひょっとしたら知っているかもしれませんが、国連が電子政府ランキングというのを出していて、今年度からだったみたいですが、e-Participation部門と言われるものを、デジタルを使った市民参加の度合いを審査して、ランキング化したものを発表したんですけれども、日本が1位を獲得したというものがあります。

参考

「なんで日本が一位なの?」っていうザワザワ感もありつつ、「これまでやってきたことが正当に評価された」という政府部門の方々、政府と自治体の方々の取り組みが評価された、という感想を持った人も多かったんじゃないかと思います。いずれにしても市民参加とデジタルについて、国連のランキングでもわざわざ取り出して指標にするというところに来ているという点が重要です。

OECD Public Governance Reviewsとは

OECD

これは世界史のおさらい的な感じになるかもしれませんが、戦後ヨーロッパの取り組みとして、「マーシャルプラン」があって、復興の取り組みを進めるときにヨーロッパで主導的な役割を担い、その後日本も加盟し、いわゆる「先進国クラブ入りした」と言われたりしたそのOECDです。

Public Governance Reviews

今は38カ国が加盟する国際機関として、その中に様々な調査・研究を行う部門があります。その重要な部門の成果物の一つとして、「Public Governance Reviews」というのがあり、加盟国だけではないようですが、様々な世界の政府の取り組みに関して研究を行っています。

また、国際機関によくある話ですけれども、国別にレビューをする。「○○国でこんなことしてます」みたいなことを紹介をして、他国が参考にするための調査レポートというものですね。そして、継続的に出しているテーマが、「ガバナンスに関すること」、ここでいうガバナンスというのは、トピックスとしては皆さんご承知のオープンガバメントと呼ばれている取り組みであったりとか、これは国際的な話なので日本ではちょっとピンと来ないかもしれませんが、汚職の防止とか公平性確保という観点で、例えば公共サービスそのものがどういったものがあるかとかですね、リスクマネジメント、不正取引、監査機関としてどういったものが考えられるか、あるいは公務員改革といったような、日本は割と戦後制度改革で先に整備されたので、今さらこれがトピックスになるのはピンとこないかもしれません。広い世界においては、すごく大切な事柄なので、こういった国際機関が定期的なレビューを出すということが必要になっていると考えておけばいいでしょう。

(参考)OECD加盟国

OECDは、38カ国と書いてましたけども、調べてみるとこういったものです。日本は「その他」の中に入っていますが、その他にはトルコ、韓国、チリ、イスラエル、コロンビア、コスタリカ、といったようにヨーロッパだけではない国も加盟していることに留意しましょう。この辺は、後で少し出てくる話でもあります。

ガイドラインについて

前置きは以上にしまして、ガイドラインって何?っていうところに移りますが、昨年2022年9月24日に出たものでして、その後もこういったReviewが毎月1個か2個とか出ているものになります。

他にも面白いものがあるので、ぜひご覧いただくといいかなと思うんですが、今回ご紹介するは94ページなので、比較的読もうと思って読めるボリュームで、平易な英語で書かれてるものです。ウェブサイト上で、ブラウザで見れるものもあれば、PDFでKindleとかに取り込んでおくとか、EPUB形式でも出ていますので、その他のリーダーで手軽に読めるであり、他のレビューは有料で冊子を売ってるものもありますが、こちらは無料で配布されています。

https://www.oecd-ilibrary.org/governance/oecd-guidelines-for-citizen-participation-processes_f765caf6-en

ちょっと文章はしんどいという方は、概要版PDFが掲載されていて、後ほどご説明する10のステップなど要約的な形でわかりやすくまとめられています。

実はこの後、私も箇条書きでスライド上を要約しているですが、元の文章の方が結構読み応えがあるものなので、気になった箇所はぜひ本文で読んでみることをおすすめします。

ガイドラインのポイント

ガイドラインに書かれていることは、この大きく3つの柱です。

10ステップ、9原則、8つの方法

まず、市民参加には10個のステップを考えましょうということで、10、9、8とキリがいいので、スライドではこの並びにしてますが、書いている順であれば、次に市民参加と言われているものには8つの方法がある。「8つだけではない」と書いてますが、8つについてご紹介しますというようなことが書かれていて、そしてそうした市民参加のプロセスを考える上で質が求められますよね、と。だから先ほどの国連のサーベイでも日本が1位というのがピンと来ないという方がいらっしゃったとすれば、その質に関する考え方が多分それぞれあるんだと思いますが、ともかくそういった質を考える上で、考えるべき9つの原則についても触れる構成になっています。

この他、例えば10個のステップそれぞれを考える上で、「考えてほしい質問」としてパートを要約する問いが書かれていたり、チェックリスト方式としてまとめたりしています。こうした点が、ガイドラインとして通用するものだなと思います。

8つの市民参画方法

8つの市民参画方法については、このスライドで説明しておきます。

1.情報とデータ

まず1つ目ですが、先ほどの住職のお話(※下山さんによる「海外動向を踏まえたデータスペース等の整備について」)の中にもありましたが、「情報とデータ」と書いている、これはいわゆるオープンデータの話です。

オープンデータの話はもう当たり前であると、もうさらっと書かれていて、「それがどうしたこうしたってそんなことをまだやってんの?」みたいな感じが行間に現れてる文章です。とりわけ自治体の人が見ると結構耳が痛い話が書かれてたりします。

各国でどれだけできているかは、もちろんあるんですけれども、事例の中では、各国のオープンデータに関して、それを使って何をしているかという事例がいくつか紹介されていたりします。このオープンデータというと割と少し前の取り組みっぽく見えるかもしれませんけれども、重要なのは、今は2023年であるということでして、日本でも10年経ってどうだったかみたいなことを考えるときにも、さきほどの「オープンデータだけで考えない」みたいなこともそうですし、市民参画の文脈で改めてこうした「データが公開されている」ということを、8つの方法の一番最初に書いてるということの重要性は多分、改めて噛みしめるべきかなと思います。

2.ミーティング

他にも和訳するとニュアンスが飛んでしまうので伝わりにくいものもあるかもしれませんが、2つ目はいわゆる会議的なものです。公開会議・市民会議(Open Meeting/City Hall Meeting)というもので、公開で行うものだったり、「シティホールミーティング」と言っているので、割と規模の大きいものも、市民参加として非常に重要な方法であるということが指摘されています(ちなみにこれらには対面のものというニュアンスもあるでしょう)。

3.パブリックコンサルテーション

3つ目も、ちょっと日本語訳しにくいので、「パブリックコンサルテーション」と書いていますが、日本のニュアンスで言うとパブコメ(パブリックコメント)的なものです。何か意見を求められて、意見を出す、それに対して考え方が出てきて、フィードバックを受けるそういったプロセスのことをコンサルテーションというわけです。それを公の形でやるということがあります。

4.オープンイノベーション

1から3までは、割と日本でもよくなじみがあると思います。4つ目からが割と面白いものが出てきていて、オープンイノベーションです。

シビックテック界隈であれば、ハッカソンとかアイデアソンとかそういったものが、ここでも紹介されていて、市民参加にとっても、重要な意味を持つということがまとめられています。また、課題解決型コンテストと言われてるようなものも例示されていて、これはチャレンジオープンガバナンス(COG)とかLODチャレンジ、UDCといった、日本では「チャレンジ3兄弟」みたいなものが開催されています。そういったものが先ほどのe-Participation部門では表だって評価されていることは書かれていませんが、日本では市民参加の方法が実装されているというふうに言えなくもないかもしれません。

5.シチズンサイエンス

5つ目がシチズンサイエンスです(本文では、「研究課題の特定、データや証拠の収集、観察の実施、データの分析、得られた知識の活用など、科学的または証拠に基づく調査の1つまたは多くの段階に市民を参加させること。」と書かれています)。

こうした取り組みをされている自治体があるというのも理解していますが、まだまだ日本ではあまり市民権を得てない言葉かもしれませんけれどもこれも大変重要です。

6.市民モニター

次は市民モニター。これは日本風にちょっと意訳したので、日本の文脈にちょっと引きずられてるかもしれません。「公的な意思決定、政策、サービスの監視と評価に市民を参加させること」という定義になっています。そうしたモニター制度が紹介されています。

7.参加型予算編成

8.代表制熟議プロセス

7、8は、新しいものであると最近新聞記事でもよく取り上げられているものでしょう。参加型予算編成とは、「市民やステークホルダーが、優先事項やプロジェクトに公的資源を直接配分したり、公開審議に参加することによって、予算上の公的意思決定に影響を与えることができる仕組み」とされています。

8の代表制熟議プロセスは、「地域社会を広く代表する人々から無作為に選ばれたグループが、円滑な審議を通じて学習と協力に多くの時間を費やし、政策立案者に向けて集団的な提言を行うこと」とされています。

無作為抽出で市民から代表を選んで、その人たちと専門家が集中的にインプットとディスカッションを繰り返しながら、あくまで市民の立場であるけれども、十分に情報提供されて、その中で意見をまとめていくものです。その際には、参加者同士で意見対立することもあるでしょうし、途中で意見が変わったりとか、その過程では相互理解を図ったりとか、あるときには妥協するとかがあるものです。少し前に、日本でも「原発どうする」というテーマで、熟議プロセスが取り入れられていますし、自治体のいくつかでは特に気候市民会議」と呼ばれるものに取り組んでるところがあると理解しています。

そうした中で、熟議のプロセスを取り入れるということがテーマになっていて、こうした方法が大きく今後取り上げられてくると思います。

10ステップから抜粋

ここで10のステップについて、一つ一つ説明すると結構時間がかかるので、ここに挙げているものを少し読み上げつつ、1.と5.については皆さん興味があるかと思うので、少しだけと触れたいと思います。

前提として、10のステップなので基本的に1から10に順番に並んでいるというような形で見るものです。

1.解決すべき問題と参加のタイミングを特定する

一番最初は、市民参加を得て、解決すべき問題をきちんと特定する。何のために市民参加するんだということがはっきりしてないといけないねっていうのが最初にあります。またそれと同時に、その課題解決すべき問題が決まったとして、いつ参加してもらうのがいいんだろうか、ということもあわせてと考えておかないといけないということであります。

これ後ほど少し出てくるものですが、「いったい何のために参加しているのだろうか?」みたいなことにも繋がって、モチベーションだったりとか、裏を返せば、いつの間にか誰もいなくなったみたいことにならないために、そうした熱量を維持するためにもその参加するタイミングが必要なんだと思います。そして、そういったことがあらかじめ分かっていないと、このプロセスのステップは発動しないということを、言外に言っていると思います。

2.期待される成果を定義する

それと同時に、問題とタイミングがはっきりした上で、この市民参加のプロセスを動かすことで、どういった成果が期待されるか、あるいはされるべきかということも定義されていないと、これは例えば、9番目にあるプロセスの評価ができないということでありますし、8番目の意見をどう活用するかという観点でも「活用の術がない」ということになるので、こうしたことが最初に出てくるわけです。

3.参加対象者を特定し、リクルートする

次に、そうした問題・タイミング・成果がはっきりすると、参加する対象者、このガイドラインでは市民とステークホルダーというのを明確に分けて定義していますが、それぞれの領域でどういった人たちがこのプロセスに参加すべきかということを特定するべきだというふうに言っています。

これは裏返しにすればそれに漏れる人たちに対する考慮という意味でもあるということですね。5番目にも出てくる観点ですが、例えばですけど、子育てって言ったときも、皆さんの頭の中で、ある人たちがイメージとして想定されると思いますが、それにはひょっとするとバイアスがあるのではないかという話があると思います。

けれどもそのイメージからこぼれるような人が、もしいるとすると、そうした人たちも、きちんと参加してもらわないといけないし、そうした人たちにこそ声をかけて参加していただくように考慮すべきだということを意味しているものになります。

4.最も適用可能な参加方法の選択

5.デジタルツールの選択

6.プロセスの透明性確保、明確平易なコミュニケーション

参加対象者が決まったら、参加できるように参加方法を選択するということですし、それが5番目のデジタルツールを使うのであれば、それをどう使うかという話になってくるわけです。

そして、そのプロセスには透明性がないといけないし、役所の人は、よく気をつけないといけませんが、「○○の計画についてご意見をください」ではなく、参加する人たちにとって聞かれていることが明確で、かつわかりやすい言葉でコミュニケーションしましょう、いうことです。

役所が書くような文章を作るために参加してもらうのではなくて、意見を言うべき人がきちんと意見を言えるようなコミュニケーションを取るべきだということが書かれています。

7.参加プロセスの実施

8.意見の活用とフィードバック

9.参加プロセスの評価

そうした参加プロセスを実際に動かしていくために必要なTipsがいくつか述べられた後でそうした意見を活用するということはどういったことかとかきちんとフィードバックをしましょうということも書かれた上で、そうしたフィードバックを経て、何かしら決まったことについて、実施した参加プロセスがどのようなものだったかも振り返るべきだと書かれています。

10.参加文化の醸成

プロセス全体を動かしていくことを、今回ガイドラインのまとめとして「民主主義の筋トレ」という言い方、exercise their democratic musclesと書いてるので「筋トレ」を通じて参加する文化を醸成しようということが最後に謳われています。

デジタルツールの選択と対面併用

そのうち少し細かく改めて申し上げると、デジタルツールは、さきほどご紹介いただく時にDecidimのことが少し出ていましたが、Code for Japanで運用しているDecidimも、ここで言うデジタルツールの一つです。

「どうやって使えばいいですか?」みたいなことを、よく問い合わせをいただくんですが、「ガイドライン読んでください」と言えばいいのかな?とちょっと思うようになりました。

デジタルツールを使うのは「普通のこと」

書かれていることは、選択するとかではなく、「デジタルツールを使って市民に働きかけをすることは普通のことです」と、普通に書いてました。

「normal」って書いているので、当たり前というか「もう普通やん」みたいなことで書いてます。ただ、その後に続けて「デジタルツールの選択が、こうした市民参加プロセスを作ったりするときの出発点では駄目ですよ」とも書いてあって、これがステップ5にあるので、すなわち1から4のことがあってこその、デジタルツールの選択であるということなのです。

これを読んだとき、今後は「市民参加のデジタルツールを使いたいんですけど」って言われたときには、「ステップ1から4についてどういったふうにお考えですか」と聞けばいいんだなというふうに心強く思いました。

デジタルツールを使うときに考慮すべき事項

もう一つは、デジタルツールは「普通」なんだけども。ただ考慮すべき事項があるよということも述べられています。我々もすごく実感することでありますが、対面の方法と並行して行うべきだということです。

これは国際機関によるレビューなので、ちょっとニュアンスがはっきりわからない面もありますが、「オンラインあるある」としてオンラインやると、男性、都市部の住民、若者の参加になると。逆に女性、農村部の住民、高齢者はオンラインになかなか参加しないということがあると書かれています。

ですので、「対面の併用」といったときも多分二つの意味があって、

  • 「オンラインあるある」では、こぼれる方々に対する方法としての対面

  • オンライン・オフラインで集まるそれぞれの意見をどう活用するか

について考える必要があると思います。

後者については、時間とか場所とか、テーマということも関係があるかもしれませんが、オンラインに「あるあるの方々」が集まったとしても、意見をどう活用するかについては別の考慮が必要でしょうということです。そうしたものにはバイアスがあるからという意味ではなくて、それも集めるべき意見かもしれないので、それをどう使うかということも含まれていると思います。併用するとは、両方使うっていうだけではなくて、それは事例の中にいくつか紹介されていましたが、そこにはすごく大切なコツがあると思います。

デジタルは節約の選択肢ではない

もう一つ大切なのは、今日は自治体の人も我々一人一人みんな市民ですけれども、「デジタルを節約の選択肢と考えない」ということです。とりわけ何かを楽したいからとか、コストを下げたいという向きでデジタルを考えることも多いのですが、市民参加の文脈では、そうではないということが言われています。これは重要なことです。

本文では、「むしろリソースをもっと必要とします」とも書かれているので、運営者の立場で言うと、余計に手間がかかりますよということを言ってます。ですので節約の選択肢としてこんな導入するみたいな考え方だと、おそらく失敗するということを言ってるんだと思います。

また、これもよくある話ですが、同じ組織の中でデジタルツールの活用を考える部署が複数ありうるので、よく確認してねっていうことをわざわざ書いています。ということは、考えることはみんな同じなので「みんなでやろうよと、同じ組織だしね」ということを多分言いたいんだと思いました。

民主主義の筋トレ

アドホックなプロセスから文化へ

次に、重要なキーワードである「筋トレ」についてです。

こうした参加プロセスはアドホックな、何か計画をつくるときにだけしましょうみたいなものじゃなくて、「公的機関の習慣」と書いてますが、当たり前になるようにしなきゃいけないよ、ということであります。それにはもう制度的に仕組みを作らないといけない。

ですので、Decidimのようなデジタルツールであれば、「オンラインでどうやったらいいですか」みたいなことを制度化するんじゃなくて、「こうした参加のプロセスを当たり前にするための仕組みとして何を考えなくてはいけないか」という視野で考えてほしいなということかと思います。

堅苦しい言葉で書かれていますが、今の社会情勢からするとすごく響く言葉になっていて、民主主義の仕組みにとって不可欠なものであるということだと思います。この民主主義の仕組みっていうことは、この対抗概念としての権威主義あるいは独裁体制と対比したときに、その重要性があると思うんですけれども、そうした民主主義においても、構造的な変化が必要であって、今までできてなかったことは、きちんと当たり前にできるようにならなきゃいけないねというメッセージが入っているんだと思います。

それはまた、「社会の信頼」であるとか、「結束」と書いているとおり、何かに対して意見を述べることがそういったことに繋がるのか?と思われるかもしれませんが、そうではないということです。一つ一つの参加プロセスが当たり前になることが総じて社会としての信頼性を高めることに繋がるんだから、きっちりやりましょうねということを言っているものでしょう。

また、非常に重要な指摘として書かれていたのは、市民参加がさきほど「手間になる」と言いましたが、確かに実施する上では、いろいろ手間かかるんですねやっぱり。初めての担当者であれば「どうやってやるの?」みたいなことがありますし、その参加する側もそうです。参加プロセスをファシリテートする人たちがいたとしても、最初の立ち上がりに時間がかかったりとか、難しいと感じたりする意味で、そのトータルのコストは高いわけです。

けれども、市民参加が「当たり前」になる、こういったことを制度化することで規模の経済が働きますことも言っています。なるほどと思ったことですが、実施コストがどんどん下がっていくはずだということが言われているわけです。逆の見方をすると、こうした規模の経済が働くプロセスとして運用するようになっていかないと、何のためにやってるの?っていうことにもなるではないかとも思った次第です。

民主主義の筋肉は市民

最後に、この右側の文化のためには何が筋肉になるだろうというお話ですと、やっぱ市民の役割が重要ですと書いています。

先ほどの熟議プロセスの中で説明した中に、特にオンラインであればそうですし、対面の会議でも時々そういった場面に遭遇するわけですが、意見の相違を共通するのではなくて、それはむしろ他者との妥協点を見出すきっかけになっているであるとか、その中で自分で主体的に動いて、考えを改めるもそうですし、お互い歩み寄って次の新しい考え方を見出すとかですね、そういったことを作っていくことが重要であるということです。これは民主主義を強調する以上、それは当然必要なわけですけれども、この価値を持つのはあくまで市民であるということが謳われています。

とはいえ、そうした市民が積極的かつ重要な役割を担うためにも、「市民空間」と書かれている、例えばオンラインであれ、対面式であれ、そういったプロセスがある空間は、公的な機関によって保護されていないといけないということが同時に言われています。今回のお話でいうと、オンラインとオフライン双方が保護されてなくて、何か偏った雰囲気、我々のこうしたイベントで言うとCode of Conductが守られない雰囲気のことだと思います。そうではなくて、イキイキとした空間で運用されることがトータルで、民主主義の筋肉をつけていくことに繋がっているということだと私は読みました。

市民参加に関する神話?

なお、懐疑的な人、「市民参加どうなの?」みたいなことを言う人は、やはりいるわけです。このレビューの中に「市民参加に関する神話」という形で記述がありますので少し紹介します。

市民には問題やプロジェクトの複雑さを理解する能力がない?

1つ目は、市民はプロジェクトとか公的な問題に対する理解が十分できないんじゃないかといった神話があるんだけれども、それはそういったものではなくて、学習するための時間と資源がきちんと与えられるんであれば、市民は問題なく複雑さに対処できるということがリサーチで分かっているということが書かれています。それは、言ってみれば国会議員の人たちと一緒でしょうと。そういう人たちは専門的な知識ももちろんお持ちの方もいらっしゃいますし、そうでなくても技術的な専門家にアクセスをして、助言を得て意思決定をしてるわけです。なので、市民もそういったものにアクセスできないということにすべきではないという言い方をしてました。つまりは、こうした神話のようにならないようにできるでしょうっていうことだと思います。

市民は参加プロセスにコミットしない?

もう一つは、市民がそれだけコミットするのか?っていうことです。そもそもそういったことを呼びかけても参加をしないとかですね、プロセスの途中で「もういいです」と脱落してしまうんじゃないかということが、運営者側によく誤解として生じることであります。しかし、そうではないということです。

これについては、我々もそういったことは実感としてあると思いますけれども、本当にエフォートに見合うようなもので、かつ自分が参加することと結果との関係が明確であれば、プロセスの目標に対してきちんとコミットするんですということが明らかになっているというものです。

こうしたことは、参加プロセスに限らず、広くいろんな人たちが集まって何かを共同でやっていくときに起こりうる課題といったことと同じでありますけれども、このレビューの中で、そうではないよということが述べられていました。

ガイドラインの(個人的な)ポイント

以上が、レビューの内容についてです。

私は、このレビューを読んでいてあまり文章に違和感はなかったんですが、面白かったというか一番のポイント、あくまで自分個人にとってという意味ですが、実はこれだったんじゃないかなというのを2つご紹介したいと思います。

Digital Participation Platforms research

レビューには、事例の紹介がありますと申し上げましたが、1つ目は事例が結構あるっていうことを知ったということです。左側が、こうした参加プロセスのためのデジタルプラットフォームをリサーチしたものです。

どういうプラットフォームがあるかよく聞かれるんですけど、その都度「自分で調べてよ」ってよく思ってたんですが、今後はここに50ぐらい載ってますので、これをお伝えすればいいやんって思いました。これには、すごくわかりやすいコメントがついていて、例えばそれぞれのプラットフォームで何ができるかというのが載っています。

CODE FOR DEVELOPMENT(米州開発銀行)

もう一つは、Code for Japanが活用しているDecidimもオープンソースなんですけれども、この手のツールは、ステップ5にいくつかツールの紹介もされています。ただ、そこには「網羅的なものじゃないです」と書いています。

そのうちのオープンソースのプラットフォームも当然たくさんあって、それをまとめているサイトが紹介されていました。

これは米州開発銀行が、開発銀行としていろんな国に支援をするわけ訳ですけど、支援するときにこうした参加プロセスを作って市民のコミットメントを経てそのプロセスがちゃんと適切に回るようにしようとする訳です。先ほどのOECDのミッションにも、汚職防止とかいろいろありましたけれども、そうしたところに効果があるツール導入も併せて支援するという考え方が国際協力の支援の考え方の中にあると思います。そうしたツールとして、ここに網羅的に紹介されているというものです。

ですので、日本においてはCode for Japanを中心に2020年からDecidimが日本語化され導入された訳ですが、他のものも皆さん興味があるのかもしれませんが、オープンソースとしてこうしたものを日本でも導入する手がかりになるものです。日本でも使ってみるみたいなときの出発点として、このレビューはすごく大切なものだなと思ったりしました。

まとめ

筋トレという優秀なアナロジー

最後にまとめです。結局「筋トレ」というアナロジーは、すごい優秀ですよねということです。今日は、1月3日ですね。私は幸いにして年末年始に体重の増加はありませんでした。ただ、減ってもなかったんですけど、正月太りの方がいらっしゃれば、太っちゃったなと。何とかしなきゃいけないなと思った今の時点の我々には、筋トレをするということの重要性、その実感があると思います。

でも、急にやっても筋肉痛を起こしだけですし、持続的にしないといけない。ただし、一つ一つは小さいことだけれども、それは確実に成果に繋がる。「筋肉は裏切らない」と、そういう番組ありますけれども、やはりその「筋トレ」というイメージは優秀だなと思います。

事例を知れる恩恵

二つ目は、口頭で申し上げましたけど、いろんな事例が載っていることをご紹介しました。OECD加盟国は、38カ国でありますが、「こんな国が?」もと言ったら失礼なんですよね。洗練されたツールとそれを使った事例を各国で適用しているということが、書かれているわけで、その恩恵をこうしてDeepLのおかげもあって手軽に入手できるということにもっと意識的になるべきだなと思いました。

どうする家康、もとい日本

つまり、「どうする家康」じゃなくて「どうする日本」なんですけど、日本は筋トレしてますか?ということでして、世界は徐々に筋トレをした成果が出つつあるっていうふうに感じた次第です。

また、このレビューに日本の事例が入ってなかったということが、すごくショックでした。そういった意味で、みんなで頑張って筋トレをして、次のレビューが出るときには、何か事例が取り上げられたらいいなと思った次第です。ちょっと長くなりましたが、私の話は以上です。

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