危なっかしさの美学【produce101JAPAN the girlsに寄せて】

2023年12月16日。
「日本の未来を代表する新たなアイドルグループ」が誕生した。

それが
ME:I(ミーアイ)である。

以下は、この新しい11人組ガールズグループに対し、
物心ついた時からのアイドルオタクの私が、感じたことを思うままに書くnoteである。

先に断っておくが、
私は今まで出会ったすべてのアイドルを愛している。
今回のオーディションに参加した101人(96人)に対しても同様である。
どのアイドルのことも批判するような気持ちは1ミリもないのだが、
文章の表現の都合上、何か不快な思いをさせることはあるかもしれない。

批判の意図や、下げる意図は全くないこと
あくまで私の思うアイドル論を書いていることを理解しながら
読み進めていただけるとありがたい。
感想は、引用ポストなどではなく、ここの記事に直接コメントを残して欲しい。
よろしくお願いします。




詳しい説明は以下のサイトを見ていただくとわかるのだが、
JO1やINIを誕生させたオーディション番組の3本目。
日本版では初めての女性アイドルである。


吊り橋効果、という言葉がある。

ハラハラする状況を共に乗り越える時、その心拍数の上昇を恋の上昇と勘違いし、相手のことを好きになったように感じる、といった現象である。

物心ついた時からアイドルを応援し始めて約25年。
ものすごくたくさんの数のアイドルを見てきた。
いわゆる「売れた」アイドルも、「売れなかった」アイドルも。

アイドルの世界は不思議だ。
実力があるからといって、必ずしも「売れる」わけではないのである。
例えば、東京女子流、フェアリーズの2組は
実力で言えば歴代日本のガールズグループのトップクラスだと思う。
しかし、あくまで尺度としては「売れなかった」。

その生き様を追うだけで長編漫画を読んでいるような気分にさせるのが
日本で求められる「アイドル」なのかもしれない。

前田敦子、大島優子が2トップを張っていた頃のAKB48を思い出して欲しい。
「省エネダンス」と言われながらも、なぜか目の離せないオーラがある前田敦子。
いつだって全力で、歌、ダンス、演技と何をとっても欠点がない大島優子。
この2人には、それぞれのファンはもちろん、アンチが多くついていた。
総選挙の「第二位」の発表の際に、前田アンチが「前田!」と、大島アンチが「大島!」と叫んでいたことは、心が痛む話であった。

アンチの存在自体は良くはない。いなくなって欲しい、とは思っている。
ただ、アンチがいるアイドルは、盛り上がる。
バラバラだったファンの一人一人が、アンチを「共通の敵」設定し、負けじと団結するからだ。

今回のオーディションは、いわゆる普通のアイドルオーディションと違う面がある。
それは、

事務所の先輩グループが「男性グループ」

ということである。
このご時世に男だ女だ、というのは古い気もするが、ファンからしたら只事ではない。
「リアコ」という言葉がある。
ファンがアイドルやアーティストに対して「リアルに恋してしまうこと」をこのように呼ぶ。
今回のオーディションは、「国民投票」という名の、AKBでいうところの総選挙システム。言ってしまえば人気投票である。
好きな練習生に投票することはもちろんできるし、逆に言えば「好きじゃない練習生には投票しない」ことが選べる。
昨今のSNSの発達により、「〇〇さんに投票してください」という呼びかけは大きく行われるようになった。同じ練習生を応援するファン同士で繋がって「ファンダム」を作り、番組を見ていない人にも投票を呼びかけていく。
それと同時にネガティブキャンペーン、「あの子は実はこういう悪いことをしていたから、アイドルにふさわしくない。投票しないでください」と言った、根も葉もない噂を流すこともできるようになってしまった。

今回のME:Iのメンバーを眺めて思うことは、良くも悪くも「男っ気がない」こと。
何度も話題に上げるが、前田敦子時代のAKBは、よくセクシーな衣装を着させられていたし、際どい水着のシーンもあった。YouTubeのコメントを見ても、メンバーの色気に対してのコメントが多く見られた。
アイドル、という存在に対して、普段の自分では出会えそうもない可愛い子たちへの恋心と幻想を抱く層が一定数存在し始めたし、その下流は現在まで続いている。握手会で直接手に触れて、言葉を交わせるようになってしまったことも、その一因だと考えられる。
稀にその幻想と現実の区別がつかなくなり、悪質な犯罪者と化す者もいる。

男と女の関係値はいつだって避けられないもので、男と女が一緒にいればどんな時代でも「恋人なのでは」と疑われてしまう。
たとえそれが、大切な友人同士であったとしても。

「PRODUCE 101」という番組自体は、源流を韓国にもつ。
そのため、韓国で放送されたものを「本国版」「本国プデュ」と呼ぶことがあり、「日プ」はそれに対する呼び名となる。
本国版は、各事務所から集められた練習生が合宿を共にし、大抵の場合期間を決めた状態でデビューする。大抵のグループの活動期間は2年半程度であることが多く、その後はそれぞれの事務所に帰って別の形で活動をしていく。新しい活動が始まった頃に、次のプデュが行われる。
つまり、オーディションを経て結成したグループ同士が、直接的に先輩グループ後輩グループとして共演することはほぼないのである。事務所も違い、活動期間も違うためだ。

しかし今回の日プはわけが違う。
先輩グループであるJO1とINI、その派生グループであるDXTEENと同じ「LAPONE ENTERTAINMENT」(以下ラポネ)に所属することが決定した上でのオーディションだった。
JO1やINIは、プデュ出身であるものの、活動期間の設定はない。
そのため、言ってしまえば、未来永劫、事務所の先輩後輩関係となるのである。

今回の日プガールズを最初から見ていた層は、おそらくJO1とINIのファンがほとんどである。
オーディションサバイバル番組、略して「サバ番」のオタクは、サバ番自体を見ることに対して中毒になっていることが多く、頑張っている若者の姿を見ては胸を熱くし涙を流すことが趣味になっているのである。私のことである。

サバ番のオタクであり、男性グループのオタクをやっている層が重なった時、
「後輩女子グループと恋愛関係になってしまうのではないか」という不安がオタクを襲う。
もちろん彼らも彼女らもプロだから、安易な遊び方はしないだろうし、お互いにアーティストとして尊敬し合って、事務所の仲間として前向きな絆を作っていくであろうことは、考えなくてもわかることである。
万が一恋愛関係になったとしても、ファン思いのプロ意識を通過するほどお互いが思い合っているのならば、率先して祝福したいくらいだ。ご祝儀を振り込ませてほしい。

しかし先述の「リアコ」はそうはいかない。
今回の場合でいえば、自分の恋した男性アーティストに、自分よりもはるかに可愛い女子が、簡単に近づけてしまうのである。
きっと会話もするだろう。同じ番組に出ることがあるかもしれない。YouTubeで一緒に企画に参加し、お互いの顔を見て名前を呼び合う姿を見なければならないかもしれない。
リアコ組の気持ちを想像すると、それはかなりの絶望に値するのでは、と思う。
(それぞれのセクシュアリティや好きになる性をこちらが勝手に規定していることに気づかないまま、ただただ嫉妬の風だけが吹き散らかされる世の中である。きっとこれからME:Iも、好きな男性のタイプとかインタビューで聞かれるんだろうな。こんな質問するの今時日本だけじゃないの??あーあ。遅れてるぅ)

そうなると、「私の好きなアイドルと近づけても、変な関係にならなそうな、清廉潔白っぽい練習生」に投票する女性が、投票層の大半となり、大きな影響力を持つようになるのである。

その結果、かなり早い段階で、色気を魅せるのが上手いタイプの練習生や、可愛さ全振りの練習生が脱落していく。
あくまでもそれぞれの魅力が突出しているだけであって、周りの男性を誘惑するような意図は本人達にはないのだと思うが、女同士はそういう魅力の察知も早い。自分が男だったらこの子のことを好きになってしまう。女の嗅覚は鋭い。恋愛はいつだってこんな形で牽制が始まるのだ。
そんなふうにして、中間地点で秋山愛を筆頭に、セクシー系美女が大量脱落。
最終審査でも、剱持菜乃、桜庭遥花、北里理桜といった男性ファンを大量に獲得しそうな練習生が脱落。
中でも剱持菜乃は、その圧倒的な美貌と、お茶目で魅力的な人柄で番組放送直後からかなり話題になっていた。このまま上位でデビューするだろうという予想を多くの人がしていたであろう。
しかし、根も葉もない前歴の噂や、男友達と遊んだだの遊んでないだの過去の話を根拠もなく暴露する輩、番組の「悪編」に苦しめられ、誹謗中傷が殺到。
結果的に順位を落とし、今回のデビューは逃すこととなってしまった。SNS時代のサバ番の、大いなる被害者と言えると思う。
最終デビュー審査でも、カメラキャッチが早く、曲中のどの場面でも、会場全体だけでなくカメラの向こうのファンに対してもアピールを忘れなかったプロである。
本人は「これが最後のチャンス」と話していたが、どうかまた歌い踊って輝く姿を見せてほしいと、つい願ってしまうほど魅力的だった。

サバ番界隈には「分量」という用語がある。
練習生がトレーナーに厳しい言葉をかけられ涙を流すシーンや
練習の疲れから練習生同士で言い合いになってしまうシーン
また、難しい振り付けを乗り越えて涙して抱き合うシーンなど
オーディション番組では特有のシーンがよく放映される。

その展開を、作れるかどうか。

無駄に泣けばいいというわけでもなく、(それはそれで叩かれやすい)
かといってあまりにも実力とメンタルが安定しすぎていると、編集する側はドラマを作りにくい。
どんな練習生も努力しているに決まっているのだから、ただただ練習している風景を定点カメラで映してくれたって、ファンは喜んで見るのだが、
編集を仕事にする以上、そういうわけにはいかないのだろうか。

今回「分量」の犠牲者の筆頭となったのが、12位で脱落をした坂口梨乃であろう。
EXPGのスクールを経験し、iconzというオーディション番組でも実力が話題になっていたらしい(こちらについては視聴していないのではっきりとしたことは書けないが…)
後になって、コンセプトバトル時に体調不良でステージをこなしたことが明かされたが、体調不良と戦う様子は全く描写されない。
加えて、ステージ上では普段と変わらないどころか、普段以上の圧巻のパフォーマンス。圧巻でありながら安定している。不安も、危なっかしさも全くない。
それが故に、とんでもない急変化をした練習生や、大きなトラブルが起きた練習生のみが取り上げられてしまう。

パフォーマンス以外の合宿場面でも「映ろうとする努力」が求められる。
それでありながら、「映ろうとする努力は微塵もしていないのに、なぜか撮影側が撮らずにはいられない」
言葉では説明できない魅力のある人が、
アイドルサバイバルには向いているのかもしれない。

その力を持っていたのが、今回の参加者で言えば「佐々木心菜」だろう。
歌ダンス共に未経験でありながら、なぜかわからないけどつい見てしまう不思議な存在。
未経験だからこそ、周りの意見や指導をぐんぐんと吸収して、ポテンシャルを遺憾無く発揮していく。
凛とした美貌、艶のある歌声、目を離せない表現力。なのに口を開けば三重弁で、ほわんとしている。魅力的だ。佐々木心菜は、その魅力で「分量を獲得」できた練習生と言える。

これを「贔屓」と言われてしまうとどうにもできないのだが、それを差し引いても「撮りたい」と思わせる引力があることには違いなかった。

また、「村上璃杏」も同じような引力を感じる。
ポジションバトルでラップを選択し、ちゃんみなさんに直接指導を受けてからの成長が目覚ましかった。
素晴らしい成長ながらも、緊張からか少し走り気味なラップ、必死さの伝わるダンス。
「大丈夫かな」「最後まで頑張れるかな」「ああ、できた、最高、よかった」
この3段階で危なっかしさを表現し、それをスレスレ通り抜けるような、漫画の主人公のような演出感。
村上璃杏は生まれながらの主人公体質なのだろう。

そして極め付けは、「笠原桃奈」と「加藤心」のrebloomコンビ。
笠原は日本でアンジュルムとして、加藤は韓国でcherry bulletとして
それぞれデビューの経験を持つ。
その二人がオーディションの最初にユニットとして登場しYOASOBIのアイドルを披露。難易度が高く、どう考えても歌って踊るための曲ではないのだが、2人のアイドル力でそれをカバーし、A評価。
その後は別の曲をしばらく担当するものの、コンセプト評価「&ME」で同じチームに。しかし最終デビュー評価も別の曲。
最終順位は、笠原が1位、その時点では加藤がまだ呼ばれていない。
番組の特性上、10位から3位までが発表、次に1位と2位が発表、最後に11位が発表となる。
「二人がバラバラになってしまうのでは」とこちらとしては気が気ではなかった。
もちろん、他の全員、誰ものことを呼んで欲しかった、いや、今ここにいる全員でデビューしようぜと、誰もが思っていたに違いない。
そこで呼ばれる、加藤心の名前。

ああ、ドラマだ。
ドラマを見ているんだ、私たちは。

そんなふうに思わされる一幕であった。


危なっかしさと、ドラマを作れる力が、アイドルのサバイバル番組で求められる資質である。

ただ「上手い」だけでなく「見たくなる」かどうか。
悲しいが、それが「アイドル」というものの、本質なのかもしれない。






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