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8.上野に向かう新幹線の中

大宮から上野に向かって走る新幹線から、人の暮らしが細部まで見えた。
米粒のような家や車、歩く人の景色はお馴染みの光景だろう。
しかしその時見えたのは、朝けだるそうな顔でアパートのドアを施錠する、黒い傘を持った女性の姿だった。
目が合うんじゃないかと思うくらい目線の高さが同じで、爆速で進む新幹線の近くに人の生活があることにひどく驚いた。

目線を移すと、無限に続くのではないかと思わせるビル群に鳥肌が立った。
ここに無数の人がぎっしり詰まっていて、その一人一人に今がある…。

そんな東京に惹かれている自分がいる。
大阪にいた時のように疲労することは分かっているのに、また都会に惹かれている自分がいる。
さっき転職エージェントから神保町にある企業のオファーが来て、ついクリックしてしまった。ひとまず電話がくるらしい。
本に詳しくなったら、神保町に一週間くらい滞在して古本屋をねちっこく回るのが今後の目標だった。もし暮らすようになればそのゴールがなくなる…なんてすでにいい線までいっているような前提で考えてしまった。

東京に行けば相当しんどいし家賃が高いのは分かっている。なのに気持ちは未知の土地や暮らしに惹かれている。


「地元から出ようと思ったことがない」と言わはる大阪人が何人もいたが、私も何も考えず地元一択で生きれたとしたらどんなによかっただろう。林芙美子の「宿命的に放浪者」の言葉がこだまする。

踏ん切りがなかなかつかず3月も後半になってしまったけど、これだけ時間をかけて悩める機会もそうそうない。もう少し歩き回ってみよう。地元でも目線の高さで未知の暮らしが見出せるかもしれない。

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