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数学が苦手なあなたへ -数学ガールのススメ-


これまで読んだ本のなかで自分にとっていちばん大切な本はなに?

とても、とても答えるのが難しい質問です。決して1冊に絞りきれるものではありません。それでも、いちばん大切にしている本のひとつとして、確実に挙げられる本があります。

ところで、世間の小・中・高等学校は夏休みが終わり、新学期が始まる頃らしいですね。部活や友人関係や行事など、学校生活には色々あるにしろ、その大部分を占めるのはやはり勉強です。

勉強が得意・好きな人に対して言うことは何もありませんが、多くの人はそうではない──少なくとも「自分はそうではない」と思いこんでいる──と思います。
なかでも嫌われがちなのが「数学」です。あなたはどうでしょうか。

数学がどうしても分からない、好きになれない、この世から無くなってほしいと思っているあなたへ、わたしがこの世でいちばん大切にしている本のひとつを読んでもらいたくてこの文章を書いています。



その本とは、正確に言えば「数学ガール」というシリーズです。とても人気のあるシリーズですから、読んだことのある人や、名前だけは知っている人も多いでしょう。

以下、読んだことがない"あなた"に向けて書きます。


「数学ガール」と聞いて、あなたはまず何を思い浮かべましたか。
ラノベ?よくある勉強を"萌えキャラ化"するやつ?
どちらも違います。公式サイトにはこう書かれています。

「数学ガール」シリーズは、高校生の「僕」が数学ガールたちと数学に取り組む物語です。読み物形式でありながら、取り扱う数学的内容は本格的。ひとあじ違う数学にチャレンジしてみませんか。

数学ガールは、れっきとした「物語」です。

物語は、高校生の「僕」が入学式の日に、桜の木の下でひとりの「数学ガール」に出会うところから始まります。
彼女の名はミルカさん。ミルカさんは、数学が好きな「僕」よりも何倍も数学を知っていて、数学を愛していて、数学を楽しんでいる饒舌才媛です。ミルカさんに会って、これまでひとりで数学と向き合ってきた「僕」の学校生活は静かに、しかし大きく動き出します。

このように、数学ガールは紛れもない青春小説として読むことが出来ます。
それでいて、数学ガールは紛れもなく本物の「数学」を扱っています。

ここからが、数学が苦手なあなたに読んでほしいところです。

「数学ガール」には、メインヒロインがもうひとりいます。
彼女の名はテトラちゃん。「僕」が高校2年に進級した春に、「数学を教えてほしい」と頼み込んできた元気で可愛らしい新入生です。

ミルカさんとテトラちゃんは「数学ガール」の大きな2本の柱です。どちらのキャラクターもこの物語にとって絶対に欠かすことは出来ませんが、わたしにとって「数学ガール」をもっとも大切な本たらしめている理由は──言い換えれば、このシリーズでのわたしの最推しは──このテトラちゃんというキャラクターの存在です。

テトラちゃんは、数学について悩みを抱えています。
それは「数学をちゃんとわかっている気がしない」というものです。毎日まじめに授業を受けていて、先生がその場で説明していることは何となく飲み込めるし、出された問題の解き方もだいたいわかる。テストの点もそんなに悪くない。だけど、<本当にはわかっていない感じ>がするのだと言います。

このテトラちゃんの悩みを見て、あなたはもしかしたら「わたしの悩みと違う」とガッカリしたかもしれません。

この子は授業内容を飲み込めてるじゃん。テストの点も取れてるじゃん。それで何が悪いの。わたしはそれすらも出来ないのに…

そうかもしれません。でも、少し落ち着いて。

たしかにテトラちゃんは普通の「落ちこぼれ」ではありません。むしろ、たくさんの人──授業も理解できてテストの点も良くて自分は数学を得意だと思っている「優等生」──よりも、ずっと数学に真摯に向き合っています。数学という学問の深いところまで潜っていこうとする勇気をもっています。

だからこそ、この勇気ある少女とともに歩んでいくことで、あなたは苦手だと思っていた数学と少しずつ向き合うことが出来るのです。
わたしは「数学ガール」の真髄はここにあると思っています。

テトラちゃんの持つ勇気のなかで、わたしがもっとも感銘を受けてきたのは「わからないことをわからないと言う勇気」です。
テトラちゃんは自分のなかの「わからない」にとても敏感です。言い換えれば、「わからなかったらすぐに質問する」ことが大の得意です。

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(結城浩「数学ガール」32ページより引用)

これだけの対話のなかで、テトラちゃんは幾つもの質問を「僕」に投げかけます。「わからない」ことが自分のなかで腑に落ちるまで、どんなに初歩的なことであっても臆せずに訊きます。

数学が苦手なあなたへ。あなたはなぜ自分は数学が苦手だと思いますか。その理由はひとによりバラバラかもしれません。しかし、わたしは数学が苦手なあなたに向けて、ひとつだけ自信をもって当てはまると言えることがあります。

あなたは、自分が「分からない」と感じたとき、その「分からない」をそのまま放置していませんか?

わたしが「数学ガール」を読んでいて見つけたことがあります。
それは、ひとが何かに対して落ちこぼれる最大にして唯一の方法は、自分の「分からない」を放置することである、ということです。

少しでも引っかかるところがあったら、すぐひとに訊く。
これだけで、あなたは絶対に落ちこぼれることはありません。だって「分かるまで」根気強く粘ればいいのですから。
でも、授業中にそれが出来るひとはめったにいません。

「あっ、いま先生の言ってたこと、どういうことだろう」「聞き逃しちゃった」「前習ったあのことと繋がっているのかな」「気になるな」「あ、でももう次の話に移っちゃってる」「まあいいか」「また今度にしよう」「どうせそんな大した疑問じゃないし」「テストで赤点回避できればいいや」

あなたはこのようにして、数学が(それ以外も)苦手になっていったのではないでしょうか。せめて授業のあとに個別に先生に質問をしにいっていれば、せめて周りの数学ができるクラスメイトに訊きにいっていれば、せめて教科書で気になったところをもう一度確認していれば…。
「分からない」をなおざりにしない方法はいくらでもあるのです。でもそれを根気強く実行するのが難しいから落ちこぼれてしまう。

「数学ガール」を読みながらテトラちゃんの根気強さを体感することで、あなたは「質問することの大切さ」をヒシヒシと学ぶことができるのです。

数学ガールは本物の「数学」を扱う、と書きました。それは、単に内容が本格的な数学だから、という意味だけではありません。
数学──をはじめとした「学問」全般に言えることかもしれませんが──を学ぶときにもっとも重要な「自分の理解を第一にする」という姿勢を学ぶことができるから、数学ガールは素晴らしいのです。

数学を学ぶだけでなく「何かを学ぶときの心がけ」を学ぶことができる。それが、わたしが「数学ガール」を人生の1冊だと胸を張れる理由です。

先も引用した「数学ガール」(1巻)の5.5章「数学を勉強すること」には、このような強いメッセージが熱く語られています。本当はすべて引用したいくらいですが、一部を抜粋します。

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(結城浩「数学ガール」96ページより引用)

誰からどう思われようと、誰から何と言われようと、自分で納得するまで考える。このフレーズが「数学ガール」で著者がいちばん伝えたいことだと思います。

あなたは少し怖気づいてしまったかもしれません。
「わたしにそんな、自分が納得するまで考えるなんて、できそうにない」と。

それでいいんです。誰だってさいしょから「自分で納得するまで考える」ことや「わからなければすぐ質問する」ことが簡単にできるわけがありません。これらは訓練によって着実に身につけられるものです。「数学ガール」を読めば、その訓練を知らないうちに積んでいることになるのです。

数学が苦手なあなたへ。わたしはあなたに「数学ガール」を読んでほしい。
「自分で納得するまで考え」て、学ぶことの面白さ・楽しさを知ってほしい。



以上、わたしが人生でもっとも大切にしている本の1冊である「数学ガール」を、いま読んでほしいあなたへ向けて自分が思う限りの魅力を書きました。
少しでも「数学ガール」に興味を持っていただけたら嬉しいです。

そして「数学ガール」はなにもいま数学に悩まされている現役の学生のためだけの本ではありません。むしろ「学び」に関わるすべてのひとに読んでほしい。
高度情報化社会の昨今、現代日本に住むすべてのひとの必読書にしたいくらいです。「勉強」から離れて久しいあなたへ、「数学ガール」を送りたいです。


ここからはもう少し具体的な話になります。

先ほど貼ったサイトに飛べば一目瞭然ですが、「数学ガール」にはメインシリーズと「秘密ノート」シリーズという2つのシリーズがあります。この2つの違いを説明します。

メインシリーズは現在6巻まで刊行されていて、1巻の無印「数学ガール」から、数学ガールシリーズのすべてが始まりました。
正直に言ってしまえば、個人的には「秘密ノート」シリーズよりもこちらのメインシリーズのほうが好きです。物語性が強いし、扱う内容も高校数学から大学数学、ときにはそれ以上…と豊かだからです。

しかし、数学が苦手なあなたには「まずメインシリーズを読め」と押し付けることはできません。かくいうわたしも、中学生のころに1巻を手にとってみて、40ページほどで挫折した経験があります。複素平面を知らなかったからです。

というわけで、まだ高校に入りたてだったり、学校で習う数学が全然分からないひとがいきなり読み進めるのは難しいかもしれません。

そこで「秘密ノート」シリーズです。こちらは主に中学〜高校の数学を扱います。つまり、XやYといった「文字」を導入して連立方程式を解いたりするレベルから丁寧に、数学ガールたちと学ぶことができます。
メインシリーズに比べて青春物語としての側面が弱いのが少し残念ですが、数学ガールの真髄である「納得するまで考える」というテーマはちゃんと貫かれています。中学数学だからといって内容はまったく貧相でなく、大学生になったいま読んでも毎回新たな発見や感動があります。

こうしたことを踏まえて、あなたがいまの自分に合うと思うシリーズを手にとって眺めてもらえたら、と思います。

ただし、ひとつ注意しておきたいのは「内容が難しいからと言ってメインシリーズを読まないのは非常にもったいない」ということです。

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(結城浩「数学ガール」冒頭ページ i より引用)

この「あなたへ」は、どの巻の冒頭にも書かれている文章です。「数式の意味がよくわからないときには、数式はながめるだけにして、まずは物語を追ってください」と書かれています。わたしは物語だけを追う読み方はしたことがありませんが、実際にそうして「面白かった!」と思う読者もいるようです。このことは心に留めておいてください。

「数学ガール」シリーズは、本屋やAmazonで購入するのも勿論いいですが、学生であれば学校の図書館に置いてあるところも多いはずです。まずは図書室へ足を運んでみてはいかがでしょうか。


最後に、「数学ガール」に興味が出てきたあなたに是非してほしいことがあります。それは、Twitterで作者の結城浩さんをフォローすることです。

わたしがこの世でもっとも大切にしている本を執筆された結城先生のことを、わたしはとても尊敬しています。単なる時事ニュースに対しての意見・反応を見るだけでも非常に勉強になります。

さらに、結城先生は匿名の質問箱に寄せられた様々な質問への回答を、ハッシュタグ「結城浩に聞いてみよう」でツイートされています。この回答が、どれも本当に素晴らしく、わたしはいつも楽しみにしています。

フォローだけなら、Amazonで数学ガールをポチるよりも簡単にできると思います。わたしは結城先生の回し者でもなんでもありませんが、とにかくオススメです。


以上です。このnoteを読んで、数学に悩まされているあなたが少しでも救われてほしいと思っています。「数学ガール」を読んで、数学の面白さ、学ぶことの楽しさを知ってほしいです。

どうしても分からないことがあれば、結城先生に質問してもいいし、なんならわたしが「あなたが納得するまで」教えます。

それでは。


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