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TVアニメ『阿波連さんははかれない』感想


数年前にジャンプラで原作の1話を読んで「粗製乱造されている高木さん系(長瀞さん系?)の『尊い』両想いヘテロラブコメか〜クソつまんね〜〜」と思って即読むのを止めていた。
そんな作品が今期アニメ化されるということで、本当に期待せずに観始めたのだが……これが意外! 個人的に今期のダークホース的作品だったのである……!!

というのも、原作1話だけ読んだ段階では、ヒロイン阿波連さんの「対人距離感をはかれない」という戯画的な性質だけがウリの一本調子ラブコメだと見切りをつけていたのだが、アニメを観始めてみると、むしろよりヤバいのは男主人公:ライドウくんのほうだったのだ。阿波連さんの奇天烈な振る舞いにも顔色1つ変えず全許容するどころか、むしろこっちがさらに暴走を押し進めてふたりでツッコミ不在の空間を生み出す、かなりギャグコメディに振り切った作品だった。その「異常」な性格や言動が誰からも否定されずに伸び伸びと存在できる世界がとても愛おしく、毎話ゲラゲラ笑いながら、ニコ動のコメントで視聴者が「そうはならんやろ」とツッコミを入れるのを楽しみながら、「いいぞもっとやれ!」とふたりを応援していた。『プリパラ』のそふぃさんのように、マイペースで好き勝手な様子でいてもツッコまれずに(ツッコミとは社会規範の押し付けに他ならない)のびのびと生活しているキャラに憧れるので……。

まじで最高の空間

教室でライドウくんの膝の上に仰向けでだらぁ〜〜んと寝転ぶ(?)阿波連さんなど、最高の絵面だった。そふぃさん然り、アニメキャラがダラダラしてる画が好みなんだよな……(『うまるちゃん』とか見返した方が良いかも?)


最高の画

(もちろん、アニメが良かったのは、阿波連さんの「声がめっちゃ小さい」要素は文字媒体の漫画で読むよりも音声媒体のアニメで聴いたほうが映える、というメディアの差異に起因する理由もある。水瀬いのりさんというキャスティングも素晴らしかった。)

そうして、予想に反してかなり自分好みの作品であったことが判明し、わたしの願いはただひとつ、「恋人関係にはなるな……っ! このまま、既存のラベリングには回収されないふたりに独特な関係でいてくれぇ〜〜〜」というものだった。
「付き合ってもいない男女が日常的にベッタリくっついて腕に絡みついて下校するなんてあり得ない」などという下らない社会常識などくそくらえ!! 当人たちがそこに疑問を抱いていないのなら、部外者がそれを「おかしい」とか「おかしくない」とかジャッジする必要などない。それこそ馬鹿げている。
あんなに「変」な阿波連さんとライドウくんが、結局、われわれ視聴者に馴染みのある、ラブコメ作品の常道としての「次第に惹かれ合って両想いになって告白して付き合う」という恋愛規範に "堕ちる" さまを見たくはなかった。阿波連さんが頬を染めるさまなど見たくはなかった! ラブコメの「常識」はなんと強固でグロテスクなのだろう。
(前季『着せ恋』の喜多川さんにも同じこと思ってたな……どうやら自分は個性的で誇り高いアニメキャラが「好きな相手に対してよわよわになる」(デレる)のが苦手なようだ。「デレる」とは「視聴者がテンプレートな消費をするのに都合の良い状態になる」という意味でしかない。)

というわけで、薄々…いや最初から確信的にわかってはいたものの、結局、阿波連さんがライドウくんのことを意識し出して恋人関係になってしまう終盤はかなりキツかった。純愛系だと思っていた作品のヒロインが寝取られる…的なキツさがある。(いやこれは例えとして成立していない。忘れてくれ。純愛よりNTRのほうが好きだし……。)
それでもライドウくんは、阿波連さんのことを恋愛的に意識する様子が少なくとも客観的/記号的には描写されず、最終話でも相変わらずな仏頂面を貫いていて良かった。まぁメタに考えれば、ヒロインの照れ顔は視聴者サービスになるけど、男性キャラの照れ顔は「誰得」だから描かない、みたいな戦略がはたらいていそうではある。ラブコメの男主人公キャラの照れ顔を(ヒロインに負けないくらい)生き生きと魅力的に描くとなったら、それこそ『着せ恋』の五条くんのようなキャラ造形にする必要がある。ライドウくんは五条くんとは明らかにデザイン意図が異なる。アニメ『デレマス』のプロデューサー(CV.武内駿輔)のような、やけにガタイが良くて顔の書き込みが少なく表情に乏しい系の(視聴者の代替的な)キャラ。わたしがライドウくんをかなり好きなのは、そうした、視聴者が感情移入しやすいように作られた無個性エロゲ主人公みたいな外見をして、阿波連さんを凌ぐほどに奇天烈な発想と行動で視聴者を置いてけぼりにしてくれるところにあった。

というわけで、最終的には、やはりジャンプラというべきか、かつて1話で見切りをつけた自分もあながち間違いではなかったというべきか、大衆的なテンプレート/社会規範に回収されてしまい非常に残念だった。規範の再生産って、倫理道徳や政治思想ではなく、あくまでエンタメを装った(装ったというか、紛れもなくエンタメだが)商業的作為のもとで遂行されるんだなぁという、当たり前の事実を痛感させられる結果となった。

それに、そもそも「付き合ってもいない男女が日常的にベッタリくっついて腕に絡みついて下校するさま」にフォーカスして描くということは、作中でツッコミはなされずとも、暗にそれを「異質」なもの、「コメディになるもの」として作品が位置付けているということだ。わたしは、それを分かった上で、それでも表面上はツッコミが不在で、彼女らふたりにとってはツッコミという邪魔(=異化作用=規範=暴力)が入らずにのびのびと生活できていることに一筋の救いというか、楽園の可能性を夢見ていたのだが、それはフィクションとしてですら存在できない、いやむしろフィクションであるからこそ存在できない夢まぼろしであることは間違いない。

さらにいえば、「『変』な彼女たちが変なままに(それをことさらに指摘されずに)のびのびと存在できるのが素晴らしい」と思うわたしの感性だって、『変』だと認識してしまっている時点で規範から逃れられてはおらず、阿波連さんがデレるのを見て「かわいい」とか「尊い」とか言っている人々と同じ穴の狢である。つまりは、真の理想は、この作品で描かれる空間が、「作品」という装い/位置付けが無いところで──わたしたちが決して認識できないところで──ひっそりと、たしかに存在してくれることだ。論理的には、この世界に生きるわたしたちには知らないが、今も、無数の可能世界において、無数の阿波連さんとライドウくんが、すべてのツッコミから解き放たれて、自由にふたりの毎日を謳歌していることはあり得る。「ある」と言うことは原理的に不可能であるが、語り得ないことでも信じることくらいはできる。「信じている」と言った瞬間に台無しになるたぐいの──だ。

世迷い言をもうひとつ重ねると、あんなに誇り高く魅力的だった阿波連さんがアニメ全12話のなかでだんだんと「普通の」ヘテロ恋愛規範をインストールされて「つまらない」キャラクターに変貌していき、最後にはカップル成立して作品が閉じる(=われわれの前から姿を消す)構成には、逆説的に、恋愛規範へのアンチテーゼであると解釈できなくもない……かもしれない。「1クールかけて1人の素敵なキャラクターを"殺した"から次に行くね」的な。(『ファニーゲーム』?)
・・・まぁ原作の漫画はこのあとも続いているだろうし、アニメ2期が制作されてもおかしくはないので、本当に苦しいアクロバティックな見方ではあるが……。



他のキャラに言及しておくと、阿波連さんのことが大好きでストーキングを繰り返す大城さんも(むろん)結構好きだった。ヤバい人なので。ラスト3話で阿波連-ライドウ異性カップルの成立の瞬間を作中で唯一 "目撃" して、嫉妬からライドウくんを殺そうとするさまには当然「大城さん頑張れ!!!やってしまえ!!!」と全力のエールを送ったが、まあ、はい、なんやかんやで絆されてしまいました。嗚呼グロテスク……(実際に最終話観ながら「グッロ……」とうめいていました)。
そういえば、そのキャンプ時の私服姿の大城さんはハッとするほどかわいくて、背の高い女性の魅力に気付かされた。

このカットすごく好き。ふたりの背丈がほとんど同じであると示してからの勾配つき水平固定ショット!

古文教師の「あはれ」先生(CV.ざーさん)は……言うまでもなく、超苦手だった。もともと「尊い〜」的な消費態度がものすごく嫌いというのがまずある。そのうえで、この作品では、そうした消費態度をこのキャラクターに誇張して演じさせることで、一見すると「阿波連さん達を見て『あはれ』と悶ている奴って滑稽だよね」と相対化する効果があるように思えるが、その実、コメディによって "偽装" して、本作の理想視聴者の推奨される消費態度を作品側から規定して押し付けているに過ぎない。ギャグによる規範の密輸入。それがこの先生の正体であり、本当に嫌いだった。

ここの画はカオスすぎて好き

それに、このあはれ先生と同僚の宮平先生との取って付けたような百合要素もまーじでジャンプラって感じで反吐が出る。(さすが天下の集英社!) 百合好きの皆さんにおかれましては、こういうので本当に満足できるのだろうか? 自分たちが舐められているとは思わないのか?(思っている人も確実にいるだろう。) 阿波連さんたちなど、他者関係には「あはれ」を覚えるが、自分自身が構成要素となる「あはれ」な関係には無自覚ラノベ主人公ムーブをするのも、ほんっとうに、あ〜はいはい、という感じ。どこまでも視聴者の「尊い」的消費態度に都合の良い形骸的なキャラクターだった。
阿波連さんたちのクラスメイトの幼馴染男女も、苦手でしたね〜〜。。キャンプ回で、一瞬こいつらすでに付き合ってる感を出したときには「おっ」と期待したが、そのあとの回転寿司回ですぐに崩れた。
阿波連さんの弟/妹も、最初に出てきたときは困惑し、そのあとも「こいつら要る……?」という思いを払拭することはできなかった。
近所のコテコテ幼馴染ヘテロ小学生カップルのおふたりは……う〜〜ん、だいすき!!! コテコテ幼馴染ヘテロ小学生カップル最高〜〜〜!!!!!(規範に思いっきり屈しとるやないか)


・・・なんか、めっちゃdisってる感じになっちゃったけど、途中まではすごく面白かったし、自分のなかで今季のダークホース作品だったのは変わらないです……。原作を読もうとは微塵も思わないし、アニメ2期が来ても観るか怪しいけど……。



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