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いかにしてボカロを漁るか

 いかにしてボカロを漁るか、答えは簡単で、深く考えようが考えまいが「各自好きにしろ」という至極あたりまえなところに落ち着く。
 しかし、自分以外のボカロ好きが普段どのように曲を漁っているのか、というのは意外と共有されていない。「あの人がどんな曲を好きか」や「あの人がSNSでどんな風に曲の感想をつぶやくか」は見えても、どのような方法でそれらの曲に出会ったのか、それはブラックボックスの中にある。

 各自好きにしろと言ったじゃないか、他人の流儀などブラックボックスのままでいい。果たして本当にそうだろうか。他人の漁り方を知ったうえで自分の好きにするのと、まったくほかを知らないままで自分の好きにするのには大きく違う。というか、後者は「自分の好きにしている」のではなく、ただそれをしているだけだ。自由とは選択可能性のことである。

 ボカロを漁るということ。それは極めてニッチな行為・趣味でありながら、ボカロという一大文化圏のもっとも根底でそれを支えている、我々が思っているよりも遥かに大切な営みである。
 わたしたち一人ひとりが独自に練り上げてきた曲漁りの方法論を公開し、互いにひとりでは得られなかった気付きを得ていくことは、この大切な営みを更に有意義にし、発展させていく一旦となるのではないか。



というのは建前で

 実際のところは自己顕示欲から自分の曲漁りの方法(方法を呼べるほど洗練された代物ではない)の紹介をテーマにひと記事書いてみよう、とふと思い立っただけである。誰得感はひしひしと感じているが、数年後の自分のためにも、自分のいま現在の新曲漁りの方法や、その周辺のことがらについて書いてみようと思う。


①ボカロを漁る場所

 わたしはニコニコ動画を中心にボカロを聴き、ボカロを漁っている。もちろんボカロ黎明期とは違って、いまではYoutubeやSoundCloudなど、決して無視できない漁場が広大なインターネットには存在していると知っている。それでも自分がこのお世辞にも快適とは言えない動画サイトに固執するのは、第一にわたしがボカロを聴き始めた場所だから、である。

 孵化したひな鳥が初めて見た動くものを親と思い込むように、初めてボカロを好きになった場所をホームだと思って、わたしは今もニコニコ動画を利用している。おいおい、「自由とは選択可能性のことである(ドヤッ)」じゃなかったのかよ。…それは建前である。人間は生まれてから安住している環境をそう簡単に変えられるものではない。それほど愛国心があるわけでもないのに未だに日本で生活しているようなものだ。

 もちろん他にもボカロ漁りにニコ動を選んでいる理由はある。単純にこのサイトはボカロを漁るのに適しているのだ。その漁りやすさは主にタグ機能に由来している(後述)。万が一この先タグ機能が廃止されたり、極めて劣化したりすれば、わたしはニコニコ動画を離れるかもしれない。

 でもやっぱり離れないかもしれない。この国と一緒に滅ぶことを未来の自分は選ぶだろうか。分からない。


②ボカロを漁る頻度

 わたしがボカロを漁るうえで、というよりも、生きる上で座右の銘のように大事にしているボカロ曲がある。『すきなことだけでいいです』だ。

 とにかくすきなことだけでいいのだ。ボカロを聴くのも、めったに好きな曲には出会えないのにボカロを漁るのも、自分が好きだからやっているのだ。


 …と、言い切れたらどんなに格好良いことだろう。わたしは残念ながら格好いい人間ではない。漁っても漁ってもピンと来る曲がないときは(大抵の場合そうだが)自分がなぜこんな苦行をやっているのかと我に返り虚しくなる。それでもなかなか止められないのは惨めなプライドのせいか、果たしてこの界隈への愛ゆえか。

 ただし、「すきなことだけでいいです」と思っているのは本当だし、できる限りこれを実践しようと思っている。つまり、ボカロを漁る気分じゃないときは、既知の大好きなボカロ曲を聞くし、そもそもボカロの気分じゃないときは人間のアーティストの曲を聴く。もちろん音楽を聴く気分じゃないときは何も聞かない。寝る。

 というわけだから、わたしがボカロを"漁る"のは「たま〜に気が向いたら」の話だ。時期によって本当にバラツキがあるが、週に一日漁ったらモチベーションがべらぼうに高いほうである。1,2ヶ月ほとんど漁らないなんてこともザラにある。(実際今年の8,9月はそうだった)
 ここまで散々偉そうに語っておいてこの程度である。だからこれを読んでいる皆さんがもしわたしよりも漁る頻度が高いのであれば、それは誇っていい。わたしが保証しよう。(ただしわたしの保証の有効性・意義については保証しない)

 なお、わたしがボカロを漁る時間帯はほとんどが深夜である。これは生活習慣の問題だろう。しかし休日の昼間から漁ることも無いことはない。


③ボカロを漁る方法

 さて、どうしたことか気が向いて、今夜はいっちょボカロを漁ってみますか、となったとする。そのときわたしはまず(愛用のノートPCにイヤホンを挿していなければ挿して耳につけ)ニコニコ動画を開き、画面の上のほうにある「動画を検索」欄にカーソルを持っていく。

(スクリーンショットではマウスカーソルが映らないことが分かった)

すると、こうなる。

「フォロー中のタグ」が検索欄の下に表示される。これらのどれかを押すだけで、そのタグを含んだニコニコ動画上の動画が一覧で表示される。

 例えば「UTAUトロニカ」タグを押してみる。

すると、このように指定タグの付いた曲が「投稿日時が新しい順」でズラッと表示される。
 ただし以前の設定によっては「再生数が多い順」や「コメントが新しい順」になっていることもある。その場合は例えば「▼再生数が多い順」ボタンを押して、「投稿日時が新しい順」に並べ替える。

 わたしは主にこのタグ検索機能を使ってボカロを漁っている。少し前にフォロー上限が10から30へと引き上げられたことは本当に嬉しかった。
 ちなみにいまフォローしているタグは以下の通りだ。

毎回、この14個のタグ全てをチェックしているわけではない。その日の気分次第で、漁るタグを選ぶ。なかでもよく使うのは一番下の3つ、「ポストミック」「ミクトロニカ」「夜のうた」タグである。(昔にフォローしたほど下に表示される)

 では「ミクトロニカ」タグをチェックしよう、ということになったとする。

「投稿日時が新しい順」でこのようになっている。では一番上から順にチェックしていくかというと、そうではない。普通、ページを下にスクロールしていく。

 下にスクロールしていくと、タイトルの色が青ではなく灰色っぽくなっている動画が見えてくる。これは以前にクリックしたことのある動画、すなわち視聴済みの動画だ。(下から二番目は広告によって表示されている動画で、わたしは漁っているときはふつう無視する。正直、タグ検索一覧にまで広告表示は要らない)
 したがって、これらの灰色の動画よりも上にある動画(=見たことのない動画)が、今回の基本的なチェック対象となる。

 と言っても、それらを下から順に全て観ていくわけではない。わたしは全曲チェック勢ではない。
 画面をスクロールしながら、タイトル・サムネイル・再生数・マイリス数・投稿者コメントの一部・最新のコメントなどを見ながら、「良さげ」と思った動画をその場の直感でクリックする。
 特にわたしはマイリス率、つまり再生数とマイリスト数の比に注目しがちだ。数万再生や4桁後半の再生数のヒット曲は当然チェックするとして、それ以外にもたとえ数百再生であってもマイリス率が高ければ興味が湧くことが多い。具体的にはおよそ5%弱以上、つまり800再生であれば40~30マイリス以上あれば良曲の可能性が高いと踏む。
 他にも、投稿者コメントの冒頭で作者名が判断できる場合、好きなボカロPであれば当然聞くし、「とてもよかった」「鳥肌」「もっと伸びて」等、名曲を予感させる最新コメントが目に入れば気になってしまう。

 このように、タグ検索での新曲チェックはわたしにとって、並ぶ幾つもの動画から瞬時にマイリス率やその他の情報を読み取り、クリックするか否か判断するエクストリームスポーツのようなものだ。嘘だ。普段は極めてのんびり、直感に従ってやっている。

 と、ここまで「気になった動画(曲)を"クリックする"」と書いてきたが、単に動画タイトルを左クリックしてしまえば、せっかくのタグ検索結果のページから移ってしまう。それでは困るので、わたしはふつう右クリック(正確にはMacBookなので2本指タッチ)から「リンクを新規タブで開く」を選ぶ。

わたしがボカロを漁るとき、このタブ機能をフル活用する。気になった曲はどんどん新規タブで開いておいて、ひとつの曲が終わったら別のタブの曲に移る。すると必然的に、タブが飽和状態になる。

上の参考画像は、「ミクトロニカ」タグ検索から気になったいくつかの動画を新規タブで開いたところである。これならまだ3曲だが、別のタグを行き来したり、曲ページのおすすめ欄や作者の別の投稿曲で気になったものを開いたりしていると(後述)、気がつけばあっという間に10や20くらいまでタブが飽和するのが常だ。


 それではいよいよ開いたタブへ移って、気になった動画を再生する段階に入る。

 新曲を聞き始める時の態度は当然さまざまである。大好きなPの新曲ならコメント無し、フルスクリーン、最高画質(これは回線状況による)で他のすべての活動をやめて集中して聴き始めるだろう。
 ただし、すべての新曲に対してこのような心持ちで当たっていてはこちらの精神が持たない。ふつうの曲漁りは、例えば別タブでTwitterのTLを眺めながらとか、ブログ記事を読みながらとか、他の軽い暇つぶしと並行してやっている。なぜなら、大抵の曲は途中で飽きるからだ。(逆に、別の作業をしていても耳が惹き付けられた曲であれば、迷わずマイリスする。)
 命を削って曲を作っているボカロPの方々には大変申し訳ないが、こちらも慈善事業でやっているわけではない。「すきなことだけでいいです」。

 曲は自分の好みではなさそうと判断したら、サビ前だろうが歌が始まってなかろうが容赦なくタブを閉じる。「1コーラスまでは聞く」などの自分ルールを設けてしまうと、それは守らなきゃという強制感が生まれ、曲漁り自体を簡単に嫌いになってしまうからである。「すきなことだけでいいです」。

 曲を漁っていると、NHKのど自慢をよく連想する。次々と自分の前に現れる曲たち。すぐに失格の鐘を鳴らされる曲もあれば、最後まで完走する曲も(少ないが)ある。こうした、ある意味では無慈悲な自分をしばしば何様だよと思うこともあるが、自分が客観的な曲の良さを測るジャッジだと思うから悩んでしまうのだろう。そうではなく、あくまでその時の自分の気分に合致するかどうか、その偶然性に身を任せていると思うと気が楽になる。実際、漁っていると段々ハイになって、そこでマイリスした曲でも後で聞いたらそんなに響かなかった、という曲は多い。

 というわけで、曲をマイリスに入れるかどうか、というのが一つの焦点となってくる。マイリス=合格の鐘、である。
 先ほど「最後まで完走する曲」と書いたが、たいていは曲の途中で好きだと判断すればマイリスする。逆に、マイリスしたのに最後まで聞かない曲もある。流石にこれはなるべく減らしたいと思っているが、「すきなことだけでいいです」。

 良さげな曲を聞いているとき、その作者を知らなかった場合は、そのPの過去作を主コメのマイリストや「投稿動画」ボタンから眺めることが多い。そして過去曲の中でも気になる曲があれば新規タブを開く。

 また、動画の下には関連したオススメの動画が表示されている。

オススメ欄の動画でも、同様にサムネや曲名、マイリス率などから気になった曲を新規タブで開くことはよくある。こうしてタブは更に増えていく。

 開いてあるタブから曲を聞く順番は、開いた順ではない。そのときの気分気分でどうにでも変わる。
 例えばはじめにタグ検索でA,B,Cの順に3つの曲を新規タブで開き、まず曲Aを聞き始めたとする。Aが好きになるか否か、どちらにしろ、次にBを聞くことはあまりない。Aの作者の過去曲A'や、Aの動画ページのオススメ欄に見つけたA''などを先に聞きたくなってしまうのだ。そうして飛んだA''の動画ページでも再び同じように目移りするなどして、タブはなかなか消化されず溜まっていく。
 この「タブ飽和問題」は自分がボカロを漁る上での懸念のひとつである。これを解決するいい案があれば教えてほしい。


④漁ったボカロを整理する方法

 ボカロ用マイリスをどのように整理しているか、というのは各リスナー千差万別で、まさにそのひとの個性が出るところだろう。

 わたしの場合はこんな感じだ。

いま現在ボカロ漁りで主に使用しているのは上の4つ。「月間10選候補」「2018年下半期」「昔の曲」「2018年上半期」である。

 「これは良い」「好き」と思った曲は、その投稿日時によってこれら4つのマイリストのどれかに入れられる
 まず今月(聞いているその月)に投稿された新曲なら「月間10選候補」へ。例えば今は10月だから、今年の10月の曲ならここに入れる。これは月が変わるごとに「2018年上半期」もしくは「2018年下半期」へまるごと移す。あくまで10選候補なので、たいていは絞りきれずに数十曲ごと移すことになる。
 次に、今月ではないが今年に投稿された曲なら、上半期か下半期かに応じていずれかに入れる。わざわざ半年で区分するのは、上半期・下半期10選のためだ。
 そして昨年以前に投稿された曲なら「昔の曲」へ入れる。今年が終われば2018年の曲も全てここに入れるのかと言われれば、多分そうではなく、「2018年のボカロ曲」のように独立したひとつのマイリストを作ると思う。(今年に入ってからこの方式を試し始めたので、確実なことはまだ分からない。)

 マイリストに入れば一生安泰というものでもない。全てのマイリストはNicoBoxと同期しているので、例えば通学中などに「2018年下半期」リストをシャッフル再生することがある。そのときに、「この曲一度はマイリスしたみたいだけど、今聞くとそんなに好きじゃないな」という曲は容赦なく除外していく。

 クビもあれば昇進もある。わたしは特に好きな曲用に「100選」と「100選ベンチ入り」というマイリストを作っている。(100選のみ公開マイリスト
 聞いていて「これ本当に最高だ…」となった曲はこれらのマイリストにコピーされることもある。一度100選に入ってしまえば、そのあと100選から落ちたとしても「ベンチ」には入るので安泰だと言える。

 実際、これらのリスト中の曲はどれも自分にとって心からいい曲だと思えるものばかりであり、結局のところわたしがボカロを聞いているのはこれらのマイリストをどこまでも充実させるため、だと言えるかもしれない。


⑤その他の漁り方

 ここまで書いて筆を置こうとしていたが、自分のボカロ漁りにおいて絶対に外せないサイトを紹介するのをすっかり忘れていた。
 コバチカ氏による以下のブログである。

 氏は一部界隈では相当有名なボカロ聴きであるらしく、なんとボカロシーンが始まった2007年から毎日、ニコニコ動画上に投稿される全てのオリジナル曲をチェックし続けている。(それどころか他のサイトまで守備範囲である)

 その中から毎日、氏が名曲だと思うものを挙げている。0曲の日もザラにあるし、稀に10曲近く選ばれることもある。氏の好みはかなり玄人感というか、アングラな傾向にある。正直なところ自分とそれほど曲の趣味が合うわけではないが、個人的に一目置いている方なので、たまにブログを訪れて、選曲リストから気になった曲を聞いている。(大抵はニコ動で自ら漁っているときに、同時並行でこちらのブログの曲も聞こうとするので例の如くタブは飽和し、頭はパンクする)

 毎日の選曲だけでなく、月ごとにさらに厳選した曲を公開マイリストとして発表しているので、それをチェックするだけでも中々に興味深い。

 自分がコバチカ氏のブログを好む理由は、その選曲眼だけでなく、余計なコメントは一切排して、ひたすら淡々と毎日曲を貼り続けるその無機質さにある気がしている。


【本題おわり】

 数時間前に思い立って書き始めたこの文章だが、予想以上に長くなってしまった。実際に少し新曲を漁りながら執筆していたが、途中で耳と頭が疲れてきてイヤホンを外してしまった。どうやらわたしはボカロを漁りながらnoteは書けないようだ。

 さて、こんな長く読みにくい代物をここまで読んでくれた人がいるのかは分からないが、以上がわたしの大まかなボカロの漁り方である。
 これまで他の数人のボカロ聴きからそれぞれの漁り方を聞いたことがあるが、どれも相当に多様だった。ということはつまり、わたしの漁り方も他の人にとって見れば新鮮に映るところがあるのかもしれない。自分としてはごくシンプルでありふれたやり方だと思ってはいるのだが。

 紹介した内容は、あくまで「ここ最近の」暫定的な方法であることも注意が必要だ。わたしがボカロを聞き始めてもうすぐ3年になるが、この3年間で自分のボカロの聞き方・漁り方には紆余曲折があったと思う。(正直良く覚えていない)
 したがって、これからもわたしのボカロの聞き方・漁り方はどんどん変わっていくと思われる。そのため、今現在のやり方をこうして残しておくことは無駄ではないと思っている。もちろん、これを読んでくれたあなたのボカロ漁りの方法論に何らかの影響を与えられたら嬉しい。
 「これを読んだらお前の方法論も書け」とまでは言わないが、もし気が向いたら好きにして頂きたい。わたしは喜んでそれを読みに行くだろう。


それでは。


記事サムネイル画像:G. ポリア『いかにして問題をとくか』


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