ヒトとは?人間とは?(5)

 今回から、祖先を同じくするチンパンジーやボノボの社会を覗いていこうと思っています。

 といいつつも、最初から脱線して、ヒト科ではないニホンザルの社会から見ていきます。

 実は、ほ乳類のほとんどが女系社会を形成しています。子を育てるのは、ほとんどメスであり、メスは子どもに与える栄養分も自分の体に蓄えなければなりません。また、メスは一生の間に生める子どもの数が限られています。従って、無闇に移動するよりも、食べ物がどこにあるのかを把握している現在いる場所を起点にして生活していく方が、子孫を確実に残して行く上で理にかなっています。

 それに比べ、いつでも交配できるオスは何度でも交配することによって、たくさん子孫を増やすことが可能です。従って、オスは(本人は意識していないでしょうが)子孫を残すために何度でも交配を繰り返したいと思っているので、他のメスがいる他の群れへと移動していくことにそれほど抵抗がないのかもしれません。

 ところが、それに対して、ヒト科のゴリラやチンパンジー、ボノボ、そしてヒトも、なぜかすべて男系社会を形成しているのです。ヒトも男系社会?と思われる方もいらっしゃると思いますが、起源を辿っていくとそのルーツは男系社会らしいです。集団をつくるほ乳類の中では例外中の例外です。まずは、ほ乳類として一般的な女系社会を形成するニホンザルの社会を見て、その後にチンパンジーやボノボの社会を覗いていきたいと思います。

 ニホンザルの集団は、複数の雄雌が共存し、特定の相手を決めずに複数の相手と交配しあう社会を形成しています。そのため、母親はわかりますが、どのオスが子どもの父親なのかは、ニホンザルたちでもわかりません。

 生まれたメスは、一生その集団で生活していくのに対し、若いオスは性成熟を迎える4~5歳になると、集団を離れ、別の集団へと移っていきます。母と娘が集団に残る女系社会を形成しているのです。

 このことにより、母と息子、息子と娘の近親交配を防ぐことが可能です。近親交配してしまうと死産になるか奇形が生まれるかで、種を確実に繋げていくことができません。若いオスが集団から離れることで、自然と近親交配を防いでいるのです。

 しかし、この方法では、父親と娘の近親交配を防ぐことはできません。なぜなら、娘は性成熟してからもこの集団に一生残るからです。

 ところが、父親と娘との近親交配にも自然のストッパーがあります。集団に居着いたオスは、娘が性成熟する4~5年ぐらい経つと、ほかの群れへと若いオス同様、移っていくのです。

 どうして、そのような行動をオスが取るようになるのでしょうか?せっかく、その群れで優位な立場になって交配が自由に出来る立場になったオスが、他の群れでは、また一番下位から交配できるようになるまで、待たなければなりません。そんな不利な条件を受け入れてでもオスが群れから離れていく理由があるのです。それは、メスに相手にしてもらえなくなるからです。

 オスが群れに居着いてメスたちとの生活に慣れてくると、毛繕いをしたりして、互いに仲良くなっていきます。オスは、いつでも発情できるので、機会があれば、メスと交配したいと思っています。ところが、仲良くなった後のメスは、仲良くなったオスとの交配を避けるように徐々になっていくそうです。オスが、発情したメスの毛繕いをして、そろそろタイミングかなと思い、交配の態勢に入ると、「それは毛繕いとは別」と言わんばかりにメスは毛繕いをしてくれているオスをするりと交わし、ほかのオスところにいって、他のオスと交配するらしいのです。

 つまり、第一位にいるオスでも、ある時期がくると、メスに相手をしてもらえなくなり、やり場をなくしたオスは、自然と集団から離れて行くみたいなのです。こうして、オスは、4~5年ぐらい経つと他の群れに移っていき、娘との交配も防げるのです。ある程度、親しくなったオスに対して、メスは性的な魅力を感じなくなるみたいです。

 これが、ほ乳類の一般的な女系社会です。そして、ヒト科のゴリラやチンパンジーになるとオスとメスの立場が逆転していきます。その辺の話を次回したいと思います。

 エッセイ集Ⅱ もくじ


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