自由が丘・熊野神社

 一昨日、『脳の記憶と呼び水』で、あることがきっかけで意識していなかった記憶にたどり着くことがある話をしました。

 実は、最近読んでいた中村一著『ココロドリップ2』という小説に、同じような話が載っていたのと、幼児期の記憶にたどり着いたお話しを聞けたことがきっかけで、あの話を書きました。

 『ココロドリップ2』では、「恋人が階段で転び、頭を強く打った影響で、脳機能障害がおこり、特定の人物の記憶、つまりその恋人の相手である男性の記憶をなくしてしまった」という設定になっています。そして、二人がデートを重ねた喫茶店のオリジナル珈琲の香りで、部分的に恋人の記憶がよみがえるというお話しです。

 詳しく書くと、これから読まれる方の迷惑になるので、これ以上ふれませんが、この小説は、自由が丘が舞台になっていて、なおかつ自由が丘にある熊野神社という場所の脇にあるカフェが主人公たちが働く場所であり、小説のメイン舞台となっています。

 自由が丘駅に降り立った吉川知磨は、正面口改札を抜けたところで大きく伸びをした。

 主人公の一人、女子大学生の知磨が自由が丘駅に降り立ちます。

 八月の第一週、お盆前の土曜日の朝、女神像が立つロータリーには夏の日差しが跳ねているが、人影は少ない。

 実際に、自由が丘に行ってみると、『あおぞら』という女神像がロータリの端にありました。

 視線を正面に戻すと、四階建ての細長い建物が線路沿いにそびえている。入口上部には『自由が丘デパート』の文字。名前は大仰だが、一階入り口横にはなぜか金物店がテナントとして入っている。大量の鍋やフライパンが吊るされた店頭は、“お洒落”なイメージのある自由が丘の街には、少々不釣り合いにも思える。

 駅の改札を出て、右側をみると、すぐそこに『自由が丘デパート』があります。しかし、デパートとは名ばかりで、小さな店が無秩序にたくさん並び、通路が非常に狭い、昔の雑居ビルの雰囲気を醸し出した場所です。

 写真にも金物屋が写っていますね。

 自由が丘デパートを出て女神通りを進み、ヒルサイドストリートに少し入った右手側。小洒落た洋館風の建物が多いこの街で、純和風の佇まいが目を引くその場所は、熊野神社だ。

 線路沿いにある自由が丘デパートに沿って北上します。そうすると、商店街の切れ目に十字路があり、そこを左に曲がり、数十歩あるいた右側に熊野神社があります。

 入り口に、石の鳥居があり、奥に朱色の鳥居が見られます。

 参道を進むと、右へと折れる道が現れる。知磨は分かれ道で一旦立ち止まり、正面石段の上にある社殿に向かって、ぺこりと頭を下げた。本当ならちゃんとお参りしたいが、春川珈琲に長居しすぎたせいで遅刻ギリギリだ。知磨は顔を上げると、参道を逸れて右手の小道へと入った。神社の敷地を出てすぐ、その店は不意に姿を表す。

 春川珈琲というのは、自由が丘デパートの中にあるコーヒー豆を売っている店で、実際に、名前は違いますが、自由が丘デパートには、コーヒー豆を売っている店がありました。

 ちょうど、この朱色の通りの手前に、右に折れる道があり、境内を抜けたところに、洒落たレストランがありました。

 設定では、ここに、二階建ての一軒家があり、そこの一階が『カフェ六分儀(ろくぶんぎ)』という小説の舞台となるカフェというよりも、喫茶店と呼ぶ方がふさわしい店があることになっています。

 この小説では、結構、忠実に自由が丘の街が描かれていることが分かりました。

 引用文は、中村一著『ココロドリップ』(メディアワークス文庫)から引用しました。これをきっかけに、一度読んでみてはいかがでしょうか。



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